エッチに至る100の情景_012「オレ様くんは奴隷志望」
「好きです、九条先輩」
「オレは好きじゃないから」
九条 京介はその日も相手を振った。今年に入ってから20人目だ。その場で泣き崩れる相手を残し、さっさと校舎裏から去っていく。悪いとは思わない。こうやって相手の告白を振ることには慣れている。それに、こうするのが一番いいと考えていた。
京介は、とっくの昔に失望もしていた。自分に言い寄ってくる全ての女性に対して、彼は諦めと怒りに抱いていた。
小学生の頃に初めて告白された。話したこともない相手だった。付き合って何をするかも分からなかったから、一緒に家で遊んだり、取り繕うことなく、思っていることを話した。好きなことの話をした。すぐに彼女は、京介のもとを去って行った。それから何度も同じことがあった。告白され、付き合って、すぐに相手の方から消えていく。決まって一言、言い残して。
「気持ち悪い」
初めてそう言われてから、ずっと頭に残っている。はじめのうちは怒った。酷いことをいうヤツだと思った。けれどあまりに何度も続くから、京介は怒ったまま諦めた。失望したのだ。理想の自分を勝手に好きになって、現実の自分を知ったら、気持ち悪いと言って離れていく。例外はない。だったら最初から付き合わない方がいい。言い寄って来るやつは、はねのける。この数年はずっとそうしてきた。「気持ち悪い」と「酷いやつ」なら、後者の方がマシだと思ったからだ。
先輩と同学年の女子を何度も振った。もう自分が「顔がイイだけの酷いやつ」と知れている。けれど後輩はまだまだで、今日のように告白もされる。
「めんどくせぇ」
教室に戻った京介は呟き、机に突っ伏す。学校が終わっているから、京介の同級生たちはもう帰り始めていた。
放課後に机で寝始めた京介を、同級生たちは怪訝な顔で見た。けれど誰も声はかけない。彼は顔がイイだけの酷いやつだからだ。
京介の目の前に、1人の女性が立っている。自分はそれを見上げている。体が動かない。それは全身を赤いロープで縛られているからだ。
その女性は囁く。
「どうしてほしい?」
京介は答えられない。恥ずかしいからだ。するとその女性は、京介の顔に足の裏をぴったりとくっつける。
「答えろ」
京介はその足の裏に舌を這わせる。その瞬間に、脳内に痺れるような快感が走る。憧れだった。子どもの頃に、父親の部屋で見つけた本の世界に自分がいる。美しい女王と、その奴隷になった自分。まさに夢にまで見た光景だった。
「大丈夫?」
不意に女性が聞いた。京介は驚く。なぜ女王様が奴隷にそんなことを聞くのか?
「あの、ごめんなさい。でも、大丈夫ですか?」
京介は「違う」と言う。女王様は、そんなことを言わない。もちろんこういうことにマナーは必要だが、まだ自分は大丈夫だ。
「大丈夫、そのまま続けてください。女王様」
「へ? 女王様? 何の話?」
「あなたは、オレの女王様です」
京介は思った。女王様がおかしくなっている。さっきの質問に答えて、女王様に戻ってもらわなければ。「どうしてほしい?」と聞かれた。あのとき、恥ずかしくて言えなかった答えを。
「オレをイジめて、メチャクチャにしてください」
京介は言った。何度か誰かに伝え、「気持ち悪い」と言われた願いを。
しかし
「えぇ!? 何を言ってるんですか!?」
女王様が戸惑う。そんなバカな、と京介は思う。女王様がそんなことを言うはずがない。しかし考えると、そういえば自分に女王様などいない――
目を覚ますと、京介の目の前に1人の同級生が立っていた。クラスメイトの、笠間 凛という女子だった。
終
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