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エッチに至る100の情景_012「どんな場所にも花は咲く!!」

 「思うに、エロマンガでショタのペニスがデカすぎると萎えませんか」
 鷲津 賢太は眼鏡をクイっと上げると、そんなことを言った。牧 一子はまた最低な話が始まったと思った。けれど、
 「ふひひひ、唐突かつ最低な話題。でも、気持ちは分かりますけれども。でもですね、エロマンガはペガサスファンタジー」
 一子はそう笑えた。
 そして2人きりの漫研の部室で、ディスカッションが始まった。
 「私はデカすぎ肯定派ですなぁ。というよりも、推進派? だって、ありえないことを描くのが、フィクションの醍醐味では?」
 「しかし、リアリティに欠けます」
 「なんでチン〇についてそんなに真面目やねん」
 「なんで大阪弁やねん」
 そう突っこみ合ったあと、顔を見合わせてゲラゲラ笑う。周りから見たら気持ち悪いだろうが、一子はこの時間が好きだった。ついでに、賢太のことも。だって一緒にいると楽しいから。
 「さて、そんなことより原稿ですよ。〆切もありますから」
 「そんなことよりって何ですか。そっちが始めたのに」
 「すまなんだ」
 「昭和の言葉! 謎のギャグセンスは陰キャの特徴なのですよ」
 「そっちこそでしょうが」
 「いやいやいやいやいや、私は違いまーす。その気になれば陽キャデビューなんて楽勝ですもん。ここにいるのが、そもそもの間違いと言っても過言ではありませんゆえ」
 などと話していると、部室の扉が開いた。はっと2人が視線をやると、2人は同時に息を飲んだ。
 見慣れぬものがあった。八頭身、全身から漂う健康的な陽の気配、優しい微笑みを称えた美しい顔……それは賢太と一子の同級生で、学校イチの美男子、結城 悠馬だった。
 「牧 一子さん、ちょっとだけ、時間をもらえますか?」
 悠馬は言った。そして……。

 「僕、キミが好きです。牧さん」
 「はひゅ!?」
 一子は、悠馬に告白された。
 悠馬は続ける。「キミの変わってるトコが好きになった」と。対する一子は、何が起きているか分からなかった。夢か、あるいは――。
 「え? 罠? 命さえも弄ぶのか?」
 「あはは、そうそう。そういうトコ。意味が分かんないことを急に言う。そういう変なトコが面白くて好き」
 悠馬が笑った。一子は意味は分かるだろと思った。『ガンダム00』だ。そう思ったが、突っ込めなかった。賢太のようには。
 「そんなことより、どうかな? オレの彼女になる話。楽しいと思うよ。きっと。あんな暗い場所にいるよりね」
 流ちょうな言葉だった。けれど一子には引っかかった。
 「け、賢太くんのいる、漫研部室の、話、してます? あんな暗い場所って?」
 「うん」
 悠馬の笑顔は可愛かった。カッコよかった。その笑顔に惚れてもおかしくなかったけれど、一子の心はサッと引いた。価値観の決定的な相違。さっきまでチ〇コの話でゲラゲラ笑っていた。我ながら最低の空間だと思う。でも、自分は好きなのだ。あんな場所が。そう胸を張れた。だから、
 「どうかな? オレはきみの彼氏になれる?」
 「無理です。申し訳ない」
 そう伝えると、唖然とする悠馬を残して、一子は走り出した。大好きなあんな場所へ。そして大好きな人に伝えるんだ。部室のドアを勢いよく開けると、不安そうな顔の賢太がいた。
 「お帰りなさい。今の告白ですよね。おめでとうございます」
 力ない早口で言う賢太に向けて、ブンブンと首を横に振る。好きだと伝えたかった。でも、久しぶりに走って、脳内の酸素が足りず、息も切れて、テンションが無駄に上がっていたから――。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、ぶはぁ、はぁ、セックス! しよう!」
 口を滑らせた直後、一子は賢太に抱き着いた。

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