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性はいつ決定されるのか

「ブレンダと呼ばれた少年」という本があります。

ブルースと名付けられた小さな男の赤ちゃんは8ヶ月の頃性器の包皮手術に失敗し、性器に大きな損傷を負います。医師からはこれからの人生で十分に性器が役割を果たせないと告げられます。絶望する両親は偶然にも、当時の性科学の権威であるマネー博士と出会います。

マネー博士は、性別は社会の影響を大きく受けており、男の子が男の子らしくなるのも、女の子が女の子らしくなるのも「社会が子供をそのように扱うからだ」と主張していました。要するに性別の自己認識は環境的要因で決まるということです。性が決定されるのは3,4歳の頃からで、それまでであれば女の子のように育てれば本人の自己認識は女の子になるはずだと、マネー博士の勧めによって、少年はブレンダとして育てられることになります。

ところが、ブレンダはだんだんと違和感を抱いてくるようになります。ドレスを着たいとどうしても思えないブレンダ。女の子に対し性的な興味を持ってしまうブレンダ。乱暴な遊びをしたいと思ってしまうブレンダ。ブレンダなんという存在はなく、結局ブルースはブルースでした。最終的に男として生きていくことを選んだブルースでしたが、あまりにも混乱してしまったアイデンティティを持て余し最終的に自死を選びます。

ブレンダと呼ばれた少年の事例からは如何に性が人生において重要かが示されています。もちろん外形的な性と、本来の性が違っていることがあります。トランスジェンダーの友人がいますが、ブレンダと同じように子供の頃に大変悩んだと言っていました。社会が求める性、自らの身体の性と自分がずれていたからです。しかし、彼の場合も性を選択したわけではなく「もともと」そうだったわけです。

私は「選択する性」は成立しないと考えています。ブレンダもトランスジェンダーの友人も、自分の性は生まれた時に決まっており選ぶことができませんでした。性が選べればどれだけ楽だろうと思っても、それでも選べませんでした。性はこのように本人に選択が不可能なもので、だからこそアイデンティティに大きな影響をもたらします。私たちは自らの性を「認識する」ことしかできず、外部から働きかけることで性を変更させることなんて出来ないのだろうと思います。


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