見出し画像

権力者の20歳の時の文章

以前、佐藤優さんに伺った話では、KGBの担当者は自分の担当国に対しまず最初に何をするかというと相手国のトップや実質的に力を持っている人間の20歳周辺の時に書いた論文か文章を読み漁るのだそうです。なぜならば、「人間の根源的な価値観はこの時期以降、生涯変わらない」としているからだそうです。

どのような形態の組織であれ最終的に何かは決定されます。決定が誰によって、いつ、いかなる会議でなされるかはとても重要です。営業でも予算の決定権者を徹底的に観察するのと同じだと思います。全く完全に自由な人間はいませんから、その人間が何に縛られていて、何を気にしているかも大きく影響します。ただ、どれだけ合理性を追求しても、それでも人間には価値観というものがありこれはなくせません。ある意味で人間は自らの価値観の奴隷でもありますし、それが自分らしく生きるということでもあります。

戦略も交渉も全て「相手はどのような人間か」を前提にします。初めて人工知能(ディープブルー)に敗れた人類となったチェスの名人ガルリカスパロフは、その歴史的な一戦で、ディープブルーが打ったある不可思議な一手で長考し、崩れ敗れます。それから数十年経ち、開発者によって「あの一手はエラーだった」と明かされました。人間は相手の心理を読みますし、読まないということができません。それは言い換えれば、必ず行動に意図があると思ってしまうということだと思います。

ゲーム理論は人間は持っている情報の中で合理的な判断をすることを前提にしています。行動経済学などで人間の不合理性の調整はなされてもいますが。皆が合理的な判断をする場合、その場で有利になるのは「不可解」な行動をする人間です。そして「不可解」さに重要なのは、行動が予測できないようにすること、自分自身の中にある合理性、価値観を悟られないことなのだろうと思います。

自分が将来獲得する力の大きさを確信している人はそうはいませんし、君主制でもない国では、20歳の段階では心理的にも無防備な状態であることが多いと思います。その段階で率直に書かれた自分の価値観は隠しきれないという意味で重要な情報なのだと思います。

ロシアには初めての世界選手権で一緒に走った元ハードル選手の友人が、ウクライナのキエフには取材で数日一緒になったパラフェンシングの選手が住んでいます。車椅子でどうやって逃げるのか。あの静かなお母さんが車に乗せて逃げたのだろうか、ということをぐるぐる考えています。

戦争には強く反対します。なんとか平和な状態に戻ってほしいと望みます。個人同士の信頼はどんな背景を持った人とでも作り上げられると感じます。一方で現実的な戦略も必要で、その為に相手の価値観を理解することは重要だと思います。プーチン大統領の20歳の時の論文はうろ覚えですが「システム統治」だったと伺いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?