誰がバランスを取るのか
衆議院の予算委員会での大竹先生の意見に賛同します。私なりにご意見をまとめると
・まんえん防止の継続には反対
・新型コロナ対策はバランスを取る必要がある
・コロナ危機による自殺は4900人
・既婚女性の就業率の低下
・恵まれない家庭の子供の影響が大きい
・婚姻数が11万件減った為、将来埋め合わせがなければ21万の出産減
端的にいうと一番影響を受けているのは
・若い世代
・生活が苦しい家庭
だと思います。日本は少子高齢化でただでさえ若い世代に負担がかかる中、婚姻も出産もさらに減少しました。ようするに、日本はものすごく大きな負担が今の子供たちとこれから生まれてくる子供たちにかかるようになっています。
大竹先生がおっしゃっているのは、とても真っ当なことだと思います。新型コロナウイルスは危険ではないということをおっしゃっているわけではありません。その危険性もよく理解した上で「全体を見ながら失うものと得るものを考えバランスを取らない」とおっしゃっているのだと思います。
さて、スポーツの世界ではこの様な事例を説明する際によく使われるものがあります。ある選手がしばらくの間不調に苦しんでいます。どうすればこの不調を抜けられるのだろうか。その選手を取り囲む専門家が選手にアドバイスします。
栄養士「食事内容に課題がありこれを改善すべきです」
ストレングスコーチ「全体的に筋力を向上させなければいけません」
心理コーチ「トレーニング過多で燃え尽き症候群になりつつあります。休息が必要です」
トレーナー「昔の怪我を庇ってバランスが崩れています。癖を治しましょう」
高校時代の指導者「昔みたいに伸び伸びお前らしく走ればいいんだ」
技術コーチ「技術の定着が起きていない。もう少し継続しよう」
メディア「最近あの選手は気持ちが足りていない」
選手は全ての声を聞いて戸惑います。どれも一面では真実だと感じられるからです。けれども、お互い矛盾しあっている意見もあり、全部をやるわけにはいきません。
例えば、完全に栄養が取れる状態を個人で達成するには、料理にかける時間が1日3時間必要だとします。それが達成できないとしたら専門の栄養士の方を雇うしかないですが、その予算もまた捻出しなければなりません。その予算はトレーニング場を借りる予算かもしれないし、ストレングスコーチを雇う予算かもしれません。アマチュアの選手にはそんな予算がありませんから、何かを諦めるしかありません。
また、完璧な練習環境をそろえた先進国の選手が不完全な練習環境の途上国の選手に負けることや、不完全な練習環境の高校時代の方が、環境が揃った実業団の時よりも成績が良かったという選手もいます。なぜこんなことが起きるのか。それは人間は複雑で、どれだけ精緻に要素分解をしても本当の姿は掴めないからです。
社会と同様、身体もまた複雑系であり、これさえやっていれば良いと言う様な単純なものではありません。では専門家が悪いのでしょうか。専門家には二つの特性があります。
・専門としての立場をはっきりとしている
・専門家としての視点が際立っている
メンタルコーチの方には選手の問題をメンタルの観点から分析します。それが職業であり、職業倫理的にもそう決められているからです。逆にストレングスコーチが、メンタルに言及するにはその世界に対しても知見を深めた上でなければアドバイスができません。
また、同じ様に各専門家はその領域に詳しく、その領域に触れる機会が多いために、社会で起きている出来事を専門の視点から見る傾向にあります。私はなんでもスポーツに例えがちですが、それはそのようなバイアスがあるからです。専門家になるということは精緻さと引き換えにバイアスを受け入れるということでもあると思います。
つまり専門家はいつも専門家としての職業を全うしているだけです。だからこそコーチという存在があります。コーチは「専門家の意見を聞いた上で全体のバランスがとれる最も選手に良いであろう案」を選手に提案します。これが指導者の役割です。情報を整理し、捨てるものは捨て、選手にわかりやすいように要約し、その上で指示型のコーチは「これをやれ」と言い、提案型のコーチは「AとBがあるがどっちを選ぶか」と選手に選ばせます。整理されない状態の情報を整理することは選手にはあまりに負担が大きいからです。
今の日本の新型コロナ対策がやらなければいけないのは、専門家の意見を（偏りなく）吸い上げた上で政治がバランスを取り決定することだと思います。大竹先生の指摘は私には「データ（エビデンス）をベースにバランスをとりませんか」と言っている様に聞こえました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？