能力が衰退するステージでの考え方

将棋の羽生さんと対談した時に、記憶力判断力のピークは２０代中盤でその後は衰退していくので、それに合わせるように戦い方を変えてきたという話をされていた。囲碁の井山さんも同じような話をされていたし、伊集院光さんも発想の豊かさは若い時がピークという話をされていた。スポーツ界でも実感としてピークは２０代の半ばあたりだと思う。

とはいえ年齢を重ねることで卓越する能力もあるわけで、具体的にはいったいどんな能力が若い時代にピークに至るのか。スポーツの世界でいえばバネと言われるような弾む動きは若い時の方がいい。そもそもスポーツ選手は関節をすり減らし腱を痛めながら競技をしているようなものだから、ある年齢からは飛べないどころか痛みすら出てくる。そうなると短距離でいえば年齢を重ねた選手は上下をなるべく水平に向かわせ、力を推進力に変える効率を高めることで勝負する。

人間には限界がない。いつまでもやれば可能性がある、と時に言われるが、すべての生物は生まれてから成長し、そして衰退しつつ死に向かう。必ず何らかの機能は年齢とともに衰退する。見えにくくなり、聞こえにくくなり、関節は磨耗して痛みが出るようになり、体は硬くなり、動きに支障をきたしていく。新しい言語の習得や新しい身体動作の習得など環境に新しく適応することも難しくなり、変化しづらくなる。

スポーツは単一の能力に支えられているわけではない。例えいくつかの機能が衰えても、総合的には能力が高まり、可能性が広がっているということは十分にあり得る。実際にアスリートが３０半ばまで伸び続けることもあるだろう。それは全体のバランスによって成立している。

単一の能力に依存する強さであれば、年齢とともに衰退せざるを得ない。複雑さが増すほど、身体の単一の能力に影響されにくいものほど、また一人ではなく集団で行うものであるほど、年齢が高くなっても戦える。戦い方の余地があるからだと私は思う。

ぎりぎりの勝負を若い時に迫られている人たちは自らの衰えを２０代で感じ始める。一般社会だと３０代後半だろうか。成長とは実際のところ可能性を狭めて特化していくことだ。リソースを無駄に配分せずその機能に投下することは、それ以外の可能性を捨てることでもある。今更追いつけないものが生きていくうちに増えていく。そして機能も衰えていく。それを前提とすると人生は絞り込まざるを得ない。そしてないものよりあるものを見るようになる。

努力すれば成長できるという考えが根底にある人は、ピークを超えた時失われていく機能を前にして幸福感が減少しやすい。大切なことは過去の価値観から新しい価値観に転換することではないか。衰えから逃れた人類は未だいない。

blogより 2015年06月07日