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足の速さとは何か

足が速いことはスポーツにおいて概ね有利に働きますが、全体を紐解くとどういう要素で構成されているのかを分析してみたいと思います。
まず、「走る」は手段で、目的は移動です。移動さえできれば走らなくてもいいわけですが、我々は二足歩行に適応していますので、二足で走らざるを得ません。

さらにほとんどのスポーツでは走りの上位に目的があります。サッカーであれば相手ゴールにボールを入れ、相手に入れられないようにすることが目的であり、その手段として移動があります。各競技は勝利の前提条件が違いますから、足の速さで必要とされる要素も違ってきます。

足の速さは重要と言われますが、そもそも移動を分類してみましょう。

①場所
②認識
③判断
④姿勢
⑤加速
⑥疾走

ということになります。陸上競技は④⑤⑥が必要とされます。一般的に足の速さも④⑤⑥です。

まず①です。球技などの常に選手が動き回っている競技においては、どこにいるべきなのかが常に変わり続けます。ですから、走り出す前にまずどこにいるのかが重要であると考えられます。
例えば、野球で「正しい位置についていれば派手に動く必要がない。移動は読みの甘さのペナルティとも考えられる」と言われたことがあります。

目的は捕球であり移動は手段ですから、先に予測して移動しておくことで無駄に走らないで済むならその方が合理的です。しかしながら、読みは経験の数にある程度比例しますから、若い選手には難しいのかもしれません。

続いて②③の認知と判断です。情報を認識し、そして判断しますが、この早さが早いほど動き出しが早く正確な判断が可能になります。球技にとってはとても重要な要素です。

知っている方の研究では、欧州のトップ選手と日本の高校生に、あるプレイの動画を見せ、次に何が起こるかを予測させたところ大きな違いはなかったそうです。ただ、画像を見せる秒数を短くしていくと(1秒、0.5秒、0.2秒という風に)大きな違いが出たそうで、短時間ほどトップ選手の判断の方が正しくなったそうです。状況を正しく認識することが判断の正しさにつながります。

④の姿勢ですが、人間が直立二足移動を行う生き物だというところに由来します。直立ですから縦に長い姿勢をとっています。例えば箒を掌の上で縦に立てている状態をイメージしてもらえるとわかりますが、縦に長いものは倒れ込むまでに時間がかかりますから加速するときにうまく加速させることができません。

走り出そうという方向にあらかじめ倒れ込んでおくことで加速はある程度高められますが(陸上短距離のスタートの格好)、この姿勢をとるとその方向にしか走れなくなります。
球技のようにどこに走るかわからず、また動き出す方向を読まれないために走る方向に準備の姿勢を作ることができません。ですから結果として、倒れ込まないけれどもうまく重心位置を低くし高さを消して動き出すことになります。高いものはゆっくり倒れますが、低いものは早く倒れるからです。

そして⑤⑥です。⑤はスタートして3歩程度、⑥はそれ以降という風に分けます。陸上短距離はほぼ⑥の競技です。球技の走りと陸上の走りの違いは、④の走り出す方向が全方位的であること、⑤が重要であること、だと思います。あとは大体同じです。

よくスポーツごとに走りは違うはずだと言われますが、データでは、どのスポーツも移動における理想の姿勢はそれほど違わず、せいぜい重心位置ぐらいです。地面から力をもらい、その力で身体を進めるという基本原理は変わらないので、必要とされる技術もまた違いません。

⑤の技術は突き詰めれば「重力をどう使うか」「地面に対してどのような関係を構築するか」です。初速は重力との関係構築できまります。下手な選手は地面に対して身を委ねることができません。

⑥の技術は陸上競技の本丸です。他競技ではどの程度生きるかわかりませんが、二足移動自体が効率的になればケガの低下と移動時に必要とするエネルギー量が低下すると考えられます。速度もそれほどではありませんが向上します。

ボールを打つのも投げるのも蹴るのも、ボールとの適切な関係が構築できなければ力が入らずパフォーマンスが著しく低下します。走りに関しても同じで、地面と適切な関係を構築しなければ速く走れません。そして地面との関係構築の要点は「片足で立つこと」になります。

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