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パン焼き器

 これまで、あまたの数の家電製品が世の中に出回ったが、その中でも人々が熱烈に飛びついたのがテレビではなかっただろうか。

 今でこそテレビというが、正式名称はテレビジョンである。

 この言葉自体は雑誌になり、何とか本来の意味そのままに時代に生き残っているが、そのテレビジョン登場の一九五三年の時のような、一家総出で迎えるような幸せな気持ちにさせる、そんな家電製品が現代にも存在するかというと、それは酷く疑問である。

 そんな中、我が家でお迎えしたのがパン焼き器である。

 それもただのパン焼き器ではない。ウサギのキャラクターで長年親しまれ、愛され続けているミッフィーのパン焼き器である。

 これは某ドラッグストアのキャンペーンか何かで、点数を集めてその商品が割引で安く購入出来るという企画で手に入れた物なのだが、別段私がミッフィーの大ファンというわけではない。私の母もミッフィー大好きというわけでもないのだが、何かその時々で心惹かれるものが母にはあるのだろう。

 そんなわけで、我が家にミッフィーのパン焼き器がやって来たのである。正確に言うと私が連れて来たのだが、それをカバンから取り出した時の母の顔が、私は何とも言えなかった。

 どうってことない、蓋を開けプレートの上に八枚切りの食パンをのせ、その上に好みの具材をのせて、更にその上にまた一枚パンをのせて蓋を閉め、時間が経つとミッフィーの焼き目のついたトーストが出来上がりとなるのである。

 これをテーブルの上で手間をかけて焼き上がるのを待つ時間が、なんともウキウキしてきちんと焼けるか、香ばしいきつね色になっているか、そんなことを考えながらしばらくの間待つのである。焼きあがった頃を見計らって、蓋を開けた時の幸せといったらない。

 これは子供が喜びそうなものであるが、大人の私でも十分に楽しめるそんなアイテムであった。

 熱々のサンドイッチトーストを家族で食べられることの幸せが、こんな時代だからこそ余計に胸に染みるのかもしれない。

 こう書いて、早いもので一年が経った。このミッフィーのパン焼き器はこの一年、壊れることもなく、ひたすらパンをトーストしてくれて、私たち家族の腹を日々、満たしてくれている。

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