白過ぎる歯

いつの時代から、芸能人は白い歯を求められるようになったのだろうか。

アイドルなら、白い歯に越したことはないだろうが、そのアイドルが演じる役によっては、余りにも人工的に陶器のようなピカピカした真っ白い歯よりは、ホワイトニングをしていないそこら辺にいる人のような、ナチュラルな歯でなければ具合が悪い場合がある。

それは、戦時中の実話を映像化した時である。

終戦後の日本人捕虜の題材とか、物資不足の頃に毎日を必死に生きていた人たちのことを描いた作品の中で、時代にはそぐわないこの手入れの行き届いた陶器のような真っ白な歯を、ニコッと見せて微笑まれると、私はどうしても観ていて興醒めしてしまうのである。 

戦時中の話となると殊更、これが目について仕方がない。

別にフィクションであるから、それでいいと言えばいいのかもしれないが、やはり役作りと言って痩せたり太ったり、頭を丸めたりそこまでするのであれば、物はついで、その陶器のような真っ白い歯も、作品の上においては邪魔にならないように、役作りとして多少の汚しをかけておいて頂きたいものである。 

その役者がどういうポジションに身を置いて、活動しているのかということでも、求められるイメージというものは、違って来るものであろう。

そうかと言って、その求められたイメージに対して、映画の撮影の合間に他の仕事があるから、白い歯でなくては差し障りがある場合も事情によってはあるだろう。

あえて作品名は挙げないが、最近、テレビで流れている映画のコマーシャル映像を観ると、私はそのギリギリの環境に身を置き、そして生き抜いた人間の歯にしては不自然な程、真っ白な歯がどうしても説得力がなく、ちょっと違うなと思ったのである。

かつては、三國連太郎さんや田中絹代さん、坂本スミ子さん、近年では北村一輝さんが健康な歯を無理やりに抜いて、役作りをした話があるが、今の時代に私はそんなことを求めはしない。

しかし、陶器のような真っ白な歯はどう見ても不自然である。監督は不自然だと思わなかったのだろうか。それ共、そこまでリアリティを求めてはいないのだろうか。

芸能人の歯が異様な程真っ白という現状と、戦時中のお話はやはり無理があると思うのである。

しかも強制収容所に収容された人間の歯が、あんなに健康的で真っ白な筈がない。

役者という仕事を生業にするならば、その時代に生きた人のリアリティ、つまり、歯に注意を払ってもらいたいと私は思うのである。

時代背景を考えたら、どうやったって陶器のような真っ白で健康的な歯なんてことはありはしないのである。

何てことはない、今の芸能人は、素晴らしい芝居をしているが、その白過ぎる歯が仇になっていることが多々ある。

勘のいい役者ならば、そのことに早く気付いて次にオファーが来た時に活かしてほしい。

一観客としての率直な思いである。

2022年12月13日・書き下ろし。


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