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しあわせの家

 随分前のことだが、 とても素敵な注文住宅のお宅が、昔住んでいた私のアパートメントの近所にあった。

 そこに住む奥さんはやさしい旦那さんと二人のお子さんを持つ、とても真面目そうな方だった。

 道で生き会う度に、私に手作りお菓子をぜひ食べにいらしてと声をかけて下さったが、私は余り近所の人と仲良くするのも如何なものかと思ったので、理由をつけては丁重にお断りをしていたのだが、どうしても断り切れない日があった。

 その日、私は奥さんの秘密を知ってしまった。
それを私が知ったのは、私がそのお宅に招待された時のことだった。

「夢を叶えたいと真剣に思ったことはありませんか?」

 そんな口上と共に、奥さんは私にダージリンの紅茶と、さっき作ったというキャロットケーキを私の前に差し出した。

 その日、お宅にいた人間が私の他にも数人いたような気がするのだが、彼らが果たして客人だったのかそれ共、奥さんの仲間だったのだろうか私には分からない。
 私は恐縮しながらキャロットケーキにフォークを刺したのだが、フォークを持ち上げたところで胸が悪くなった。長い髪の毛が一本、キャロットケーキの中からフォークに絡みついて来たのである。

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