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特集・千葉健太選手

今回、世界体操代表入りを果たした千葉健太選手(セントラルスポーツ)の演技を中心に世界体操団体戦を振り返る。

試合は一種目め床からスタート。

ヒヤリとするシーンが二箇所あり堪える演技となったが、ミスを最小限に留めてラストの着地をピタリと決めた。得点は12.933。予選より1点低い得点となり、演技後は表情が固かった。

二種目めのあん馬は気持ちを切り替えて、今度こそ 自分の出来る演技をと、そんな心構えでいたところをアメリカのリチャード選手の得点が中々出ず、時間を取られて五分以上演技を待たされるというアクシデントに見舞われる。

演技が始まりブスナリをきれいに決めると、波に乗れたかと思われたが器具の上で落下。またも千葉選手は本来の実力を発揮することなく、ミスを最小限に留めた形で得点13.666で二種目めを終える。

途中、橋本選手をはじめチームメイトがベストな演技を決め、イタリアに並んで三位と同点で順位を守り続けたが、まだ試合を楽しむまでの余裕はなく、表情は変わらず固いままであった。

まだ固さは残る演技だったが、三種目めのつり輪でようやくミスのない演技を披露。着地も腰の高い姿勢できれいに決め、13.566の点を得て千葉選手本来の演技が段々と観られ始めて来たが、まだまだ千葉選手の表情から笑顔は見られなかった。

しきりに身体を解す様子から、まだ自分の本来のコンディションになっていないように感じられた。

この後、千葉選手は跳馬と並行棒は出場せず、萱選手、橋本選手、南選手が跳馬で高得点を叩き出し、続く平行棒も萱、橋本選手に杉本選手が加わり素晴らしい演技を見せ、ここから澱んでいた空気が一気に晴れ、日本チームが一位へと躍り出た。

この二種目には出場しない千葉選手が、この間の時間をどんな気持ちで過ごしていたのか、察するに余りあるが最終種目の鉄棒に登場する。

この時も、やはり千葉選手の表情は固いままだったが、私はもう、ここで吹っ切って思い切り悔いのない演技をしてほしいと思わずにはいられなかった。

長い長い間、何年も掛けて辿り着いた世界体操での演技は、時間にしたらわずか五分弱で終わってしまうのである。途中、アドラーのところでミスは出たが、それでも着地はピタリと決め、演技後、やっと一瞬、安堵の笑顔を見せたが、まだまだ油断はならないという空気が千葉選手を纏っていた。

橋本選手が見事な演技と着地で鉄棒の演技を締め括り、優勝が確定したことで、ようやくここで千葉選手に笑顔が戻った。

それでも一人になると、ちょっと表情が曇り、やはり悔しい気持ちが千葉選手の気持ちを行ったり来たりしていたのだろうと察した。

インタビューエリアに選手五人が勢揃いした時は、大分気持ちも納得して来ていたのだろうか。

「みんなありがとう」と言って、笑顔を見せていた。

画像・共同通信写真部
旧・Twitterより

そして迎えた表彰式。もうそこには試合中の苦悩していた千葉選手の険しい顔はなかった。思い切り団体金メダルの喜びを仲間と共に噛み締めている、晴れやかな表情に変わっていた。

今回私は、贔屓にしている橋本選手ではなく、世界体操初代表として出場した千葉健太選手に重点を置いて試合を観た。

やはり27歳という年齢で初代表に選ばれ、こういった世界の舞台で活躍することの大変さというものは、やはりこの舞台に立つまでは想像でしかなく、この舞台に自分が出たいという思いのみが彼を突き動かしていたのだと思うのである。

しかし、いざその舞台に立ってみると、自分の思い通りの、理想通りの演技が出来ないという現実に打ちのめされ、苦悩したであろう千葉選手がいた。

それはきっと、他のどの選手も、今まで出場した選手もこれから出場する選手も、きっと全員に平等に与えられる試練であると思うのだが、それを千葉選手は27歳という年齢まで、一途に体操を続けて来たからこそこの舞台に立てて、その試練というものとしっかり向き合え、味わうことが出来たのである。その大きな意味を、私は今回、千葉選手の演技から感じたのであった。

限界はあるかもしれないが、諦めずに自分が限界だと感じるところまでやる。それが未来の自分に繋がっていくのだということを千葉選手は証明してくれたように、私は思ったのである。

個人戦がまだあるが、一先ずこれで世界体操の洗礼 というものを千葉選手は受け、そして、どんな風に戦っていけばいいかということを、多少なりとも理解し、学ぶことが出来たのではないだろうか。

どんな出来事でも、それに打ち勝てばすべては己の糧になるのである。

団体戦を一位という素晴らしいチームの力で勝ち獲った金メダルを、そのチームのみんなの力を、重みを感じ取って、個人戦での千葉選手の健闘を祈りたいと思う。

「今までやって来たことが全部報われた」

本当に最後の最後、千葉選手の口からこの言葉が聞けて、そして、いつもの千葉選手の笑顔が見れて私は本当にホッとし、不覚にも涙したのだった。

泣くのはまだ早い、個人戦でまた泣かせてもらおうではないか、千葉選手!


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