見出し画像

特集・千葉健太選手ふたたび

団体戦ではどうしても固い表情のまま試合を進めていた千葉選手。それだけを書き記したままではちょっと私は寂しいので、今日は千葉選手が笑顔で戦い抜いた個人戦、種目別の結果と、その時々で私が千葉選手から感じ取った思いを書き記したいと思う。

個人戦は一種目めの床からスタート。
予選1位通過の千葉選手は、直前練習の際はまだ表情が固く、自らの体、器具と対話をしている感じであった。
始まった床の演技は、勢い余って一箇所ラインオーバーをしてしまい減点はあったが、それでもNHK杯の時のように着地をピタリと決め、のびのびとした千葉選手本来の演技でのスタートを切った。演技終了後、ふうっと息を吐いたが、この時、まだ千葉選手に弾ける笑顔はなかった。得点・13.966。

写真・JiJi.comより

二種目めのあん馬は、千葉選手の得意種目なだけあり、団体戦の時のようなアクシデントや緊張もなかったせいか、ブスナリを決めると下り技もE難度に上げ、攻めた演技を見せた。
ここでようやく、千葉選手の笑顔が見られ心も体も解れて来たような印象を受けた。得点・14.800。弾ける笑顔を見せた千葉選手は、平行棒の演技順をスタッフに訊ねたりして、試合運びを冷静に出来ている様子だった。

写真・朝日新聞デジタルより

三種目めのつり輪も千葉選手得意の種目であるだけに、涼しげな顔で力技を決め堅実な演技を披露。着地はわずかに一歩前に出たが、着地姿勢は相変わらず高いままであった。得点・13.733。

前半戦が終わり、力技が続いたせいか腕を軽く叩く様子も見られたが、団体戦の時とは打って変わって安心して試合を観ることが出来た。

メダル圏内三位に付けて迎えた四種目めの跳馬は、着地の際にラインオーバーがあったが、ミスを最小限に留めた。得点・13.666。

写真・産経新聞より

続く五種目の平行棒では、美しいぶれない倒立姿勢と澱みない棒下捻りで流れるような、しなやかな演技を披露。着地は遠慮気味に右に跳ねたが、ようやく千葉選手本来の持つ体操の良さが光り始めた。
演技終了後はひとつふうっと息を吐き、納得の演技に笑みがこぼれた。得点・14.666。

写真・朝日新聞デジタルより

最終種目の鉄棒は、コールマンを綺麗に決め波に乗ったように思われたが伸身トカチェフで落下。自らを叱りつけるように左手を軽く叩くと、気を取り直し演技を再開するも倒立で再びミスが出てしまい、メダルを逃す悔しい結果となった。得点・12.633。演技後、自ら「やっちまったぁ」という思いを、その悔しさとは裏腹に笑顔を浮かべていたが、その笑顔はやはり悔しさから出た笑顔だったように思う。千葉選手の初めての世界体操個人戦の戦い、そして、己との勝負が終わった瞬間だった。

試合後にインタビューを受けた際、千葉選手は次のように語った。

「んー、結果は4位とメダルを逃してしまったんですけど、まぁ、最初から最後まで、あの、楽しく試合が出来たので、凄い良かったと思います」
と、しっかりと言葉を噛み締めながら答えた。

戦い抜いた経験について問われ、
「んー、そうですね、もうちょっと経ってみないと、分からないかもしれないっす」
種目別へ向けては、
「頑張ります、金メダル目指して」
その声は清々しくも力強かった。

写真・サンケイスポーツより

表彰式では晴れやかな、ある意味、酷く充実した穏やかな笑顔を湛えながら、会場の観客の祝福に応えていた。
本当のところは千葉選手もファンも、メダルを獲りたかった、獲って欲しかったという思いがあったとは思うのだが、限りなく銅メダルに近い4位入賞 だったことを思うとミスなく演技をすることが出来ていたら、間違いなくメダリストになっていた千葉選手の実力を、今大会で予選も含め世界は知ったことだろう。
今回はそれがいちばんの目的であったということで、納得することにしようではないかと私は思った。

そして迎えた種目別での演技は得意のあん馬と鉄棒の二種目。
一日目のあん馬は素人の私から観たら、どこがどう悪かったのか分からないくらい、個人戦の時よりも流れのある演技を見せたが、ショーンの後、ポメルに戻らなかったことで、技が不認定となってしまった(体操選手・下田代真人氏による)得点・14.200。6位で試合を終えた。

試合後、インタビューで千葉選手は次のように語っている。

「えーっと、あん馬は金メダル目指してDスコアを上げて挑んだんですけど、その技が認定出来なくて、まぁ、結果6番になってしまったんですけど、まぁ、こういう大きな舞台でチャレンジ出来たのは凄くいい経験になったと思います」

二日目の鉄棒は、登場の際、両手を挙げ観客からの声援に応え、胸の前で健太のKの字を作りながらもその表情は真剣そのもの。

写真・アフロスポーツ

千葉選手は7番目に登場。
しかし、ここで再び千葉選手をアクシデントが襲う。団体戦のあん馬の時程ではなかったが、演技するのを待たされたのである。
多少、ここでまたリズムを乱されたのか、それ共、試合とはこういう隙を狙って、本人の気づかぬ間に悪い「気」というものが入り込んで来るのだろうか。
出だしから有り余る力の漲りを、私は千葉選手から感じた。
落下だけは避けてほしいと願ったが、今回は皮肉にもコールマンでバーに寄り過ぎてしまい、予定していた演技構成にはならなかった。
着地後は笑顔でプレッシャーから解き放たれた様子が伺えた。得点・12.700。7位の順位を得て、千葉選手の世界体操の挑戦は幕を閉じたのだった。

本来なら、もっともっと素晴らしい演技の出来る選手である。それだけに、このままでは終われないと本人も、そしてファンも思ったのではないだろうか。

しかし、そんなことよりも私は、千葉選手のこの笑顔をずっと待っていたのである。緊張や重圧、苦い経験だけで試合を終わってほしくはなかったのである。
千葉選手はやはり、笑顔がいちばんである。
この笑顔で、試合の空気をも変えてしまうことが出来る、そんな笑顔の持ち主であると思う。
プレッシャーを跳ね除け、誰よりも試合を楽しむことが出来たら、きっと千葉選手に勝利の女神は微笑むと私は確信している。
勝利の女神を微笑ませることが出来るのは、千葉選手次第である。
その術を身につけて、また次の試合で素晴らしい演技を見せてくれることを、私は大いに期待している。

🔽こちらも併せてお読み下さい🔽


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?