ABBA復活に思う才能を持つ人間の使命
【9月の回想録】
70年代のディスコブームに乗って一世を風靡した、伝説のグループ、ABBAが何と、40年の時を越えて、活動を再開するというニュースが昨日、世界中を駆け巡った。
僕は、もちろんリアルタイムでは知らないし、ディスコ調のサウンドは好きではないので、彼らのオリジナルアルバムとか聴いたことは一度もないが、ベストアルバムくらいはご多分に漏れず聴いたことはある。
彼らの活動の中でも、僕がいちばん彼らを素敵だなと強く感じたのが、1976年にスウェーデン国王が王妃と結婚した時、結婚式前日のパーティーで宮中衣装を着た彼らがオペラハウスの舞台から、国王夫妻に『ダンシング・クイーン』を披露したことだ。唯一残念だったのは、口パクだったことだが。
王妃がこの時、満面の笑みを浮かべてABBAのパフォーマンスを見つめていた幸せそうな顔をしていたのが、今も伝説として語り継がれているくらいだ。
先月、8月22日に脚本家の向田邦子さんが亡くなって40年を迎えたことを掲載したが、このABBAの活動再開のニュースを知って、40年の歳月というものをもう一度改めて考えさせられたし、やはり奇跡だと痛感した。
彼らの新曲を聴いてみたが、若い時の勢いとハリとアクのような自信のある野心に満ちた歌声とは全く違って、きちんとその年月を丁寧に生きて年齢を重ねた人にしか出せない、慈愛に満ちた穏やかな歌声に僕は心を打たれ、気がつけば涙していた。
きちんと生きてさえいれば、休んだって復活を待ち望んでくれる人はいるし、その才能をまた自分のためにも人々のためにも使うことが出来る。
もし、その才能がなくなったり意欲がなくなってしまって、違う分野で活躍していたとしても、僕らはその人がこの地球の何処かで元気に暮らしていると思うだけで、励まされるというものだ。
それを、ABBAというグループは世界中に体現して見せた。
才能を持って生まれた人間は、その才能を活かすために本当なら自分を大切にして、長生きしなくてはいけない。
しかし、中にはそれが出来ない人もいる。
仕方がないことなのかもしれないが、人の寿命が平等ではないことを、僕らはあの日痛感させられたのだ。
【追記】
才能のある人間は、自分を大事にして長生きしなくてはいけない、と、語ったのは、シャンソン歌手の石井好子さんだった。
誰かが早くに亡くなってしまった時に、彼女が発した言葉だったのだが、それが誰だったのかまでは覚えていないが、酷く共感した私には、この言葉が強く印象に残り、それ以来、ずっと私の心の中に存在し続けている言葉である。
2021年9月4日付・インスタグラム掲載文を基に加筆、編集復刻。
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