ABBA復活に思う才能を持つ人間の使命
一九七〇年代のディスコブームに乗って、一世を風靡した伝説のグループ、ABBAが何と、四十年の時を超えて、活動を再開するというニュースが昨日、世界中を駆け巡った。
私は、もちろん、彼らのことはリアルタイムでは知らないし、ディスコ調のサウンドは好きではないので、彼らのオリジナルアルバムとか聴いたことは一度もないが、ベストアルバムくらいはご多分に漏れず、聴いたことはある。
彼らの活動の中でも、私がいちばん彼らを素敵だなと強く感じたのが、一九七六年、スウェーデン国王が王妃と結婚した際、結婚式前日のパーティーで宮中衣装を着た彼らが、オペラハウスの舞台から国王夫妻に『ダンシング・クイーン』を披露したことである。
この時、唯一残念だったのは、彼らの歌唱が口パクだったことである。
王妃がこの時、満面の笑みを浮かべてABBAのパフォーマンスを見つめて、幸せそうな顔をしていたのが、今も伝説として語り継がれているくらいである。
先月、八月二十二日に、脚本家の向田邦子さんが亡くなって四十年を迎えたことを書いたが、このABBAの活動再開のニュースを知って、四十年の歳月というものを、もう一度改めて考えさせられたし、やはり奇跡だと痛感した次第である。
彼らの新曲を聴いてみたが、若い時の勢いとハリとアクのような、自信のある野心に満ちた歌声とは全く違って、きちんとその年月を丁寧に生きて年齢を重ねた人にしか出せない、慈愛に満ちた穏やかな歌声に私は心を打たれ、気がつけば涙していた。
きちんと生きてさえいれば、休んだって復活を待ち望んでくれる人はいるし、その才能をまた自分のためにも、人々のためにも使うことが出来る。
もし、その才能がなくなったり意欲がなくなってしまって、違う分野で活躍していたとしても、私を含め、その人がこの地球の何処かで元気に暮らしていると思うだけで、励まされるというものである。
それを、ABBAというグループは世界中に体現して見せたのである。
才能を持って生まれた人間は、その才能を活かすために本当なら自分を大切にして、長生きしなくてはいけないのである。
しかし、中にはそれが出来ない人もいる。
仕方がないことなのかもしれないが、人の寿命が平等ではないことを、私は今までの人生で厭という程、思い知らされて来た。
「才能のある人間は、自分を大事にして長生きしなくてはいけない」
そう語ったのは、シャンソン歌手の石井好子さんだった。誰かが早くに亡くなってしまった時に、彼女が発した言葉だったのだが、それが誰だったのかまでは覚えていない。
しかし、彼女のこの言葉に酷く共感した私は、この言葉が強く印象に残り、それ以来、ずっと私の心の中に存在し続けている大切な言葉である。
2021年9月4日 書き下ろし・インスタグラム掲載
エッセイ集「それぞれの四季」収録
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