一生ものの服
長時間にわたる、ジリジリと神経をすり減らすネゴシエーションが続き、重苦しい雰囲気に包まれる会議室。
こちら側が切れる交渉カードは全て出しきっているが、相手はまだ何かを隠している可能性がありそうだ。
このままでは交渉決裂。ただ、なんとしてもそれだけは避ける必要がある。なにせ、2年間チームのみんなが命をかけて取り組んできた案件だ。
なんとかして彼らの本音を引き出し、交渉を上手くまとめなければいけない。
そう考えた僕は一か八かの賭けに出た。
おもむろに立ち上がり、
「みなさん、ここからは『腹割って』話してもらえませんかね?」
そう言い放つと、シャツをめくり上げた。
「ほら、こんな風に。」
交渉相手はやや呆気にとられながらも僕のバキバキに『割れた腹』を見ている。
同僚達は僕のまさかの行動に動揺を隠せていない。
しばしの静寂が流れ、
「やはりダメか。。2年間一緒に頑張ったみんなに申し訳ない。」
そう思ってシャツを下ろそうとしたその時、
「君、なかなかいい腹筋だ。」
今まで一言も発しなかった交渉相手のCEOがそう言いながら立ち上がり、おもむろにシャツをめくり上げる。
「君のその腹筋に免じて、我々も話そうじゃないか。『腹を割って』ね。」
僕 「あ、ありがとうございます!あなたも本当に素晴らしい腹筋です。」
CEO 「君もなかなかだ。ところでジムはどこに通っているのかね?」
僕 「そ、それはもちろん…」
僕&CEO 「ゴールドジム!」
CEO 「筋肉は…」
僕 「一生ものの服!」
CEO 「うむ。君たちとはいい仕事が出来そうだ。さあ話を続けよう。」
いつか来るこういう日に備えて、僕はまたゴールドジムに行く。
編集する
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?