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死んだ後もリーダー?

はじめに

なぜリーダーシップに関する話題を取りあげているかというと、リーダーに関して実体にあっていないイメージが広がっていて、それが多くの人を苦しめているのではないかと思うからです。例えば、課長などの管理職に任命された人や、学級委員やキャプテンなどに任命された人が、そのようなイメージで困っている、つまりリーダーシップを発揮しないと、とプレッシャーを感じているのではないでしょうか。そういう必要はないというのが今回の結論です。

「実体にあっていないイメージ」をより正確に言うと、「管理者(manager)と指導者(leader)がゴッチャになったイメージ」で、これらをきっちり分けて、新しいイメージを示すのがこのシリーズのテーマです。今回は、死んだ後もリーダーかどうかという観点から二つの違いに切り込んでいきたいと思います。

芸術家とリーダーシップ

さて、「アメフト元監督は指導者(リーダー)か?」で、リーダーシップを『システム1で描いたビジョンを広めていく過程』と定義しました。システム1は、二つある人の認知システムの一つで、注意せずとも無意識に働くものです。例えば、感情はシステム1の領分です。もう一つのシステム2は、数学の計算など、注意力が必要なタスクに用いられるものです。簡単に言えば、システム1は直感的な思考や感情で、システム2は論理的な思考と言えるでしょう。システム2で考えたことは言語化などにより比較的簡単に伝えられますが、システム1で認知したことは、身体知のようなもので、そのまま伝えることは難しいという性質もあります。

感情などの領分に関係が深いシステム1で認識したものを伝える人といえば、まず芸術家が思いつくのではないでしょうか。日本画家の千住博さんは、対談(芸術を創る脳)の中で

多くの人が勘違いしているように思いますが、美術というのは、「見えるものを忠実に再現して見せる」ものではありません。「見えないものを、なんとかして見えるようにする」のが、ビィジュアル・アート(視角芸術)なのです。同じように、音楽は、「聞こえないものを、なんとかして聞こえるようにする」芸術です。

と言っています。これは風景などを書くのが芸術ではなく、「システム1で認知したもの」をなんとか伝えようとしていると言っているんだと思います。そうだとすると、芸術はまさにリーダーシップ発揮の手段です。より日常的なポップミュージックなどでも、いままでのシーンを大きく変えた人たちはリーダーと言えます。

こう考えると、例えばゴッホのように、生前はほとんど受け入れられなくても、没後作品が評価され、伝えたかった思いが広く伝わるということもあることから、リーダーシップは死後であっても成立すると言えます。つまり、「死んでいてもリーダー」なわけです。一方で、課長や学級委員などを役職につく人は生きていることを考えると、本質的には「役職はリーダーシップとは無縁」と言えます。

マネジメントの本質とは?

次はリーダーシップとマネジメントの違いを自主的かどうかという観点から見てみましょう。芸術の例から分かるように、リーダーシップは非常に個人的な感情(など、システム1)から出発します。一方で、役職は基本的に他人から任命されるものです(ここでは政治家などの、自ら立候補してという場合は考えていません)。また、

経営の本質は、“Doing things through others”。つまり他人を通して自分がしたいことを行うことだ、という名言が古くからある。それは、組織のマネジメントの本質である。

とあるように(『ゼミナール 経営学入門』)、マネジメントは自らの思いを伝えるのではなく、自らの思いの実現のために他人を使うと言えるでしょう。

少し事情をややこしくしているは、組織のトップなど、「このようなビジョンを実現したい」といって役職につく場合があり、このような人にはリーダーシップとマネジメントの双方が要求されることです。例えば、「この野球部を甲子園に連れていく!」と高校野球部の女子マネージャーが言ったら、この人はリーダーシップを発揮しようとしているわけですが、それは役職についているからではないわけです。

まとめ

しかし、本質的はリーダーシップとマネジメントは別であり、任命された時に必要なのはマネジメントです。偉大なリーダーが書いた本などは参考にしないほうがよいでしょう。管理者として要求されたことだけをやるという心持ちで望めば十分だと思っています。リーダーやリーダーシップに関する本は多いのですが、このようなことに言及しているのはほとんどないようです。極端に言ってしまえば、管理者としての要求にリーダーシップを求めるのは、属人的なリーダーシップを持ち出すことで、任命した側の責任を隠し、任命された側に責任をおしつけているとも言えます。

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