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使命は誰にでも見つけられる

 私は記者の仕事を通じて、この世の中には「使命に目覚めた人」がたしかにいることを知りました。そうした方に共通する特徴は一点です。「仕事を自分の言葉で語れる」ことにあります。聞いていて当たり障りのない、どこかで聞いたことのある借り物の仕事論ではありません。それはどんな仕事で、なぜ自分がやっているのか、ご自身の言葉で語れる人には「生き様」という表現がふさわしい静かな迫力を感じます。

 一人ひとりが使命に目覚めた人になったらどんなに多様で鮮やかな社会になるだろう。4月に独立する私が思い描くのは、そんな世界です。使命に目覚めた個が生きる世界の一助になりたいという思いで、私は記者を辞めて「使命を聴き、伝わる言葉にする」仕事を立ち上げます。

使命を見つける3つの輪

 では、使命はどうすれば見つけられるのか。私はこれまでの取材経験からひとつのシンプルな手法を編み出しました。3つの輪です。「価値観」「経験」「社会像」の交点に、その人の使命を見いだす方法です。その交点に、その人にしかない使命感を帯びた言葉があるのです。

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 キング牧師の例 

一例として、アフリカ系アメリカ人の公民権運動を率いたキング牧師を例にあげましょう。私自身が、米南部のニューオーリンズに留学していたことがあり、米国内の黒人社会を垣間見たためです。

 キング牧師の黒人差別問題に対する活動の特徴は「非暴力」です。インド独立の父、マハトマ・ガンディーに啓発されたものです。「暴力は暴力でやり返す」のではなく、言論によってあるべき社会を訴え続ける姿勢を貫きました。

 経験というのは職業の面からみれば牧師です。牧師自身が、黒人蔑視の激しい南部アトランタで育ち、差別される中で生きてきた経緯があります。黒人女性が白人にバス内の席を譲らず、逮捕された事件をめぐる運動を率いたエピソードも広く知られています。

 社会像は、一言で言えば「肌の色によって差別されることのない社会」と言えるでしょう。時代を超えて語り継がれる「私には夢がある」のスピーチの中に出てくる、「肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国」というのが目指していた社会像です。

 価値観の「非暴力」、経験の「牧師」、社会像の「肌の色で差別されない」を3つの輪に当てはめると次のようになります。

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 3つの輪の交点から見出される言葉は「黒人差別、非暴力で導く」です。キング牧師の39年間の生涯をかけた使命を一言で表した10文字です。もし、当時の記者が彼を取材して、人物紹介の記事に取り上げたとすると「黒人差別、非暴力で導く〜平等の『夢』、訴える牧師」といった見出しが立つでしょう。使命の言葉とは「見出し」とも言えます。

伝わる人=使命に目覚めた人

 私は1ヶ月前のこの記事で3つの輪が重なるところは「伝わる人」と書きました。

 考えを進めていくうちに「伝わる言葉」というのは、つまり使命感を帯びた言葉だということに思い至りました。3つの輪が重なるところに「使命」があり、それが「伝わる言葉」なのです。

一人ひとり違うことに意味がある

 私は一人ひとりに替えの利かない使命があると考えています。一人としてこの世に同じ人はいないからです。生まれた場所、育った風土、学んだ事柄、仲間となった人、働いてきた環境、私たち一人ひとりが生きてきた歩みは、一人ひとり固有のもので、誰ひとり同じではありません。 

 私は一人ひとり違うということに、意味があると思っています。違いこそが、新たなものを生み出す何よりの源泉だからです。その違いを活かすことで、社会に新たな価値を生み出したり、問題を解決したりできるのです。一言であらわせば「違いこそ、使命を生む」と思います。

 この価値観、経験、社会像を使って使命を見出すことは、誰にでもできます。「自分はどうして仕事をしているのか」「やらされ仕事ではない仕事がしたい」と悩んでいる方は少なくないと思います。この手法を使いぜひ一度、ご自身の胸に宿る使命について考えてみてはいかがでしょうか。


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