⑤”NPO支援”を分類する二つの視点―②関わり方

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。
前回の記事ではNPO支援を分類する二つの視点のうち「課題の粒度」について書きましたので、今回は2つ目の視点である「関わり方」について書いていきたいと思います。


関わり方、専門性の提供の仕方による分類

NPO支援者はNPOが抱えている課題に対してそれぞれの専門性を提供することで解決することを目指しますが、支援先のNPOに対してどのように関わっていくのか、その具体的なやりかたはさまざまです。その関わり方の違いによって分類する視点です。

代走的支援(代わりに走る):団体が所持していない専門性を団体に代わって引き受ける形式(例:Webサイトを制作業務を行う、受託する)
伴走的支援(一緒に走る):専門性の提供は行いつつ団体の中に入り込んでメンバーの一人に近い関わり方でともに課題解決に取り組む(例:Webサイト制作に向けて、ページ構成の検討や記事のライティングを一緒に行う)
育成的支援(一人で走れるように育てる・鍛える):団体スタッフの成長や組織の仕組みつくりを目的に一定期間以上の支援を行う。伴走支援との境界は曖昧。重複することも(例:Webサイトの継続的な更新や分析ができるように、団体スタッフの専門的スキル開発のためのトレーニングや団体内の仕組み、文化の醸成を促す)
教師的支援(走り方を教える):研修の提供など個別団体で研修会を実施することもあれば集合研修形式で行うことも(例:Webマーケティングに関する共通理解をつくるため職員向けの研修を行う)
顧問的支援(走ることに関する悩み相談に乗る):団体から持ちかけられる相談に対して、アドバイスや情報提供などを行う(例:定期的にWebマーケティングの実践に関わる悩み相談に乗る)

特定の関わり方に特化して支援を行っている方もいれば、複数の関わり方を団体の課題や求めに応じて使い分けている支援者の方もいらっしゃいます。また、一つの支援の中で複数の関わり方が平行的になされることもあります。上記に当てはまらないような関わり方もあるでしょう。

例えば中間支援という言葉はそもそもは何かと何かの中間に立つ立場(行政と市民の間であったり、企業と市民の間であったり)ですが、前回の記事で言うところの分野支援や地域支援のような複数の団体・ステークホルダーが関わることが前提となるような支援領域においては本記事の名付け方に合わせると仲介的支援とでも呼べるような役割を果たしていらっしゃる方もいらっしゃいますし、他にもファシリテーターという関わり方を専門としている方も上記の分類だけではご自身の仕事を捉えにくいかもしれません(私自身もファシリテーションに重きを置いて関わることがあります。上記の分類でいうとファシリテーションは伴走的支援の中に含めるか、教師的支援に含めて考えるか、あるいはその両方の掛け合わせとして捉えても良いかなと思ったりもしています)

NPO支援者の言葉遣いや定義がバラバラ問題

今回この連載記事を書くにあたって、私自身のNPO支援の仕事の仕方やキャリア・育成についての考え方の話に入る前に、定義に関わる話を延々としているのですが、なぜこのような話を長々としているかと言うと、それはNPO支援の内容も言葉遣いも定義もバラバラで、NPOが支援者を選ぶときにも、NPO支援者を目指そうという人にも混乱や戸惑いが生じるだろうと感じているからです。

NPO支援の仕事を指すときに「伴走支援」という言葉を使う人がけっこういます。私自身もも使う場合があります。が、同じように「伴走支援者」という肩書きを名乗っていたとしても、実際に行っているのは上記の分類でいう「代走的支援」の場合も「伴走的支援」の場合も「育成的支援」の場合もあります。

例えば私自身が一番得意としており強みを持っていると思っているのは「育成的支援」です。なるべく早く私という外部支援者がいなくなっても組織やその中の部署・チームあるいは担当者が自律して走っていけるように、トレーニングを行ったり、体質改善を行ったりするという支援方法です(本記事の主旨から外れてしまうのであまり具体的な支援スタイルの話には深入りしませんが、PDCAを自走的に回せる状態自体をゴールとして、そのために必要なスキル、施策立案や分析の視点、会議の運営方法などを定期的に開催していくことが多いです)。

一方で私は私自身が直接手を動かす「伴走的支援」という形では極力お受けしないようにしており(例えばSNSの運用自体を私に担って欲しいという依頼)、「育成的支援」によって時間とパワーはかかるけれど自分たちあるいはボランティアチームで自走できる状態を作っていくことを目指しましょうという提案をしたり、その選択は組織の状況として取れないということであれば別の支援者の方をご紹介したりしています。(依頼内容や抱えている課題、組織の状況によって一部の専門的なテーマ―専門性の個別特殊性が高すぎてNPOのスタッフがスキルを学ぶことはコスパが合わないと私が判断するもの。例えばWeb広告に関わる業務やWeb制作のディレクション、アクセス解析など―については「代走的支援」でお引き受けすることもあります)

ですが、逆に同じ伴走支援という言葉を使って私が提示した分類でいう「伴走的支援」「代走的支援」を主に行っている支援者の方もいらっしゃいます。

業界内で統一見解が存在しない状態なので、誰が悪いということもないのですが、こうした状況では外部支援者を探そうとしているNPOの方にとっては、誰が何をしてくれるのか、どのように判断すれば良いのか、戸惑いが発生することもあるでしょう。

以下では少し具体的なNPOの課題と支援のあり方を想定しながら考えてみましょう。

具体例①情報発信という課題の場合

「情報発信」に課題を感じているNPOに対して例えば「伴走的支援」と「育成的支援」の違いを考えてみましょう。

私が情報発信の具体的改善方法やそのための手法に詳しければ、私自身がメンバーの一人のような形で手を動かし情報発信を行うような伴走的支援を行うことで短期的な効果はおそらく上がりやすいでしょう。あるいはいろいろなアイディアややり方は浮かんでいるが、効果が出るかはわからず、順番に試していきたいが人手が足りないといった場合にも単純にマンパワーとして自分を投入することのできる伴走的支援は適しているでしょう。ただし、自分自身が居なくなった後のことは別途考える必要があります。(支援者が居なくなったらまた情報発信ができない状態に戻ってしまう)

一方で育成的支援は中長期的な視点をもった関わり方であり、NPO内の広報担当者に情報発信の知識やスキルを伝えたり、組織として情報発信を役割分担しながら進めていくための方法や会議体をつくり、それが機能するように定期的に進捗確認やフィードバックを行っていくことに力点を置いています。私自身の得意な支援はこちらです。情報発信を担う担当者の育成(施策立案のための視点の持ち方や分析、振り返りの方法など組織としてPDCAを回していくためのトレーニング)やチーム作りであり、その支援自体は短くとも半年、長ければ1年、2年とかかるものです。その期間はその組織やチーム、担当者に対して姿勢として"伴走”していくことは確かですので、文脈上のわかりやすさから私自身が自分の行っている支援を伴走支援と呼ぶこともあります。ただ、それはこの記事で類型化を試みている文脈における伴走的支援とは異なるものであり、短期的な情報発信の効果自体にコミットするのではなく、組織体制や文化の醸成をゴールとするという形になります。NPOの皆さんから支援の相談をいただいた際に私が強みとしている支援のスタイルの特徴や私が控えている伴走的支援の短期的効果の強みなども説明した上で、育成的支援を必要とするかどうかを判断していただくようにしています。(例えばいつまでにいくらの資金調達を達成しなければならない、という期限や目標が明確で緊急性が高い場合には適さない支援スタイルといえます)

具体例②助成金申請という課題の場合

財政面の課題から助成金を獲得する必要のある団体(どの財源を狙うべきかから判断が必要な場合もありますが、ここでは助成金を狙うというところまでは決まっているものとします)から助成金の申請に関して支援をして欲しいという相談を持ちかけられた場合、本記事の関わり方の類型ではどのように考えることができるかを考えてみましょう。

実際にNPOの方から相談のあったケースとして、「助成金申請書を書いて欲しい」というニーズがありました。これを引き受ける場合は「代走的支援」になるでしょう。特定の助成金に向けた単発支援ではなく、継続的にその団体の助成金獲得のために、適した助成金を探し、複数の助成金に応募していくためには、ある程度その団体の中長期の事業戦略を団体の方と継続的にコミュニケーションを取っていくことが必要になることもあると思いますのでそのような形で引き受けるのであれば「伴走的支援」という形になることもありえます。助成金申請書の作成やその支援を専門に行うことをグラント・ライティングといったり、それを行う方のことをグラント・ライターといったりします。

私自身は、助成金申請については代走的支援や伴走的支援では基本的にはお引き受けしないことにしています。助成金申請に関して、過去に私が支援したことがあるのは「育成的支援」です。助成金の申請書を書くのはあくまでも団体の方で、その申請書に対して、添削を行うという形です。添削を行う際に、助成金申請書を作成する際のポイントや審査側の視点などをどのように考えるかといった視点を伝え、考えてもらうことで、添削している申請書自体はもちろんのこと、その後その団体で助成金申請書を作成する力そのものを鍛えることに力点を置いた支援です。あるいは「教師的支援」として助成金申請に関する研修を実施することもあります。

まとめ

以上、2つのよくありそうな支援ニーズに対して、関わり方の違いが複数ありうることをざっと書いてみました。少しイメージは湧きましたでしょうか。

本記事ではNPO支援におけるNPOへの関わり方の類型別のあり方を示してみましたが、これらはどの関わり方が優れているという類の話ではありません。そして繰り返しになりますが、関わり方の類型はきれいに分けきれるものではないのであまり厳密に考えすぎる必要はないかとも思っています。

大切なのはNPO側が支援を求めるときに、あるいは支援者がNPOと話をするときに、これらの関わり方の特徴と効果を理解した上で提案したり支援方法を決定していくことです。そして、NPO支援者を目指す人にとっても、何の専門性を提供するのかというのとはまた別の視点で「どのようにNPOに関わりたいのか」を考えることは非常に重要なことだと考えます。

本日は以上です。段々記事が長くなってきてますね。なるべく短めに、簡潔にまとめて、いろいろな観点の話をどんどんとお伝えしていくことを心がけたいと思います。書き溜めたストックが残り少なくなり、続きを書く時間が取れていないので、そろそろ更新頻度が落ちるかもしれませんが、お読みいただいている皆様は気長にお待ちいただけますと幸いです。

お読みいただきありがとうございました。

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堤大介
NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。