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スペインのガリシア地方で知るヒッチハイクの特等席

今から45年以上も前、私がスペインに住んでいた頃のお話しです。

1975年12月から76年1月にかけて、約2週間ほどスペイン北西部のガリシア地方を旅行しました。

懐具合に余裕があるわけではないので、出来る限り安くあげるためにヒッチハイクをしならの、気ままな旅行でした。

昔と比べてヒッチハイクの方法も少し変わったようで、今はボードに目的地を書いて、車に向けて掲げるスタイルが多いようでが、私がスペインでヒッチハイクをしていた頃は、facebookのいいねマークみたいに親指を立てて、通りすがりの車に合図を送る”指立て”スタイルが多かったですね。

さて、ヒッチハイクの一番メリットは交通費をセーブできるところとです。その他にも色々な人々と出会うことができる面白さもあります。しかしながら当然デメリットもあります。

一番のデメリットは、目的地方面へ向かう車が止まってピックアップしてれるかどうかが予測できないところです。つまり旅行のスケジュールが立てにくところです。私は約1時間半ぐらい待っても車が止まりそうな気配が無い場合、潔くヒッチハイクを諦めて、バスや鉄道を使うことにしていました。

これはデメリットとは言えませんが、乗せてもらっている間はできるだけドライバーとお話をすることが大切です。長距離を運転するドライバーも親切心だけからではなく、話し相手欲しさ、退屈しのぎと好奇心で乗せてくれるのです。だから乗せてもらった途端に爆睡したり、ダンマリを決め込むのはマナー違反だと思いますね。

しかしヒッチハイクでの一番の心配事は身の安全ですね。ヒッチハイクは自己責任で行うものです。何の保証もありません。身知らずのドライバーの車に乗るわけですから、ヤバい人の車に乗ってしまうと、難儀なトラブルに遭う可能性もありますから。

幸いにも私が住んでいた頃のスペインは治安が良く、それほど不安なくヒッチハイクすることができました。なぜなら当時のスペインは第二次世界大戦前から続いていたフランシスコ・フランコによる独裁的な体制の終焉期でしたが、未だGuardia Civil(治安警察)の市民への監視は強く、その副産物として治安が保たれていたからです。

私は一度だけ同性愛のドライバーに遭遇したことがあります。彼はシフトレバーの上に置いた手をさりげなく助手席に座っていた私の方へ伸ばし、太ももを軽く撫でました。自分はそちら方面には興味が無いことを話すと、あっさり謝り、後は紳士的な態度で接してくれましけれど。まぁ、笑い話で済む程度のトラブルですね。

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前口上が長くなりました。

旅行の最終目的地であるサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)を訪れた後、まだ時間もあるので、ガリシア地方の東に位置するアストゥリアス地方まで少しばかり足を伸ばしてみようと思いました。

そこでヒッチハイクを始めたのですが、今回の獲物(?)は過去最大級でした。

いままでの獲物はセダンなど一般的な乗用車ばかりでしたが、その時に止まってくれたのは、Shell か Esso かどちらか忘れましたが、石油かガゾリンを運ぶ大きなタンクローリー車でした。

直径1mぐらいの大きな前輪タイヤの横側に取り付けられたステップに片足を乗せ、よっこらせっ!と荷物を放り込みながら助手席によじ登ると、赤ら顔の中年の運転手さん(名前は忘れてしまいました)が笑顔で待っていました。

礼と挨拶を済ませてから気づいたのですが、このタンクローリーは積んでいる石油かガゾリンを運んでいる途中、つまり業務中のはずです。そんな業務中の業務車両に一体どこの馬の骨だか分からないヒッチハイカーを乗せても問題は無いのだろうか?と問いただしてみたところ、

¡ No pasa nada ! / ノー・パサ・ナーダ

なにも起こらない = なんてことない、大丈夫

戻ってきたのはスペイン人の定番的答えです。

いやはや、おおらかなものです。

1時間ぐらい走った後、スペイン版・道の駅のようなバルに立ち寄り、小休止しました。日本でもそうですが、スペインでも長距離ドライバーたちが立ち寄るところには美味いものがあるようです。

バルでは運転手さんとガリシア地方の白ワイン、リベイロをお椀のようなグラスで飲み交わし、小鰯のマリネなどをつまみました。

業務中であり運転中の飲酒です。日本ではあり得ないことなので少し驚き、運転手に問題は無いのか尋ねてみても、戻ってくるのはスペイン人の定番的答えです。

¡ No pasa nada ! / ノー・パサ・ナーダ

いやはや、おおらかなものです。

この頃のスペインでは少々の飲酒運転は問題にならなかったようです。この素晴らしき(?)いい加減なルールを免許取得時に体感しました。さて今はどうなっているのでしょうか...

さて、リベイロで喉を潤した後、私を乗せたタンクローリー車は急な山道を登り始めました。

この時に窓から眺めた景色は素晴らしかったです。タンクローリー車の助手席は一般の乗用車の席よりも1m以上は高いところにあるのですから、前も横も見晴らしは抜群です。

車体の大きさ・重さや積載物の関係であまりスピードが出ず、乗用車よりもゆっくり運転なので、タンクローリーの助手席からはたっぷり景色を楽しむことが出来ました。

急ぐ旅ではないのなら、タンクローリーのような大型車の助手席がヒッチハイクの特等席だと思いますね。

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さて、気がつけば登りの山道の幅はかなり狭くなり、そこはガードレールも無い崖っぷちの悪路でした。助手席の窓から顔を出して下を覗くと、谷底から約50mぐらい上のところを走っていました。

リベイロを飲んでご機嫌の運転手さんは「あそこは事故の名所で、ちょっと前にも転落事故があった」「あそこ辺りは最近落石が多い」など、ヤバい事を笑いながら平気で話します。

こんなところで谷底に転落して死にたくありません。もし打ち所が良く(?)奇跡的に九死に一生を得たとしても、多分積載している石油かガゾリンに火がつき、爆死は免れないでしょう。

やはりヒッチハイクの特等席は乗り心地の良い乗用車の助手席かもしれませんねぇ...

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