見出し画像

日本のBtoB企業のWeb活用ステージ

「お客様の購買行動の変化による見えない機会損失が生じている」

筆者は2000年より20年以上に渡りBtoB企業に特化したデジタルコミュニケーション支援を手掛けてきたが、2015年くらいからこのような声を顧客から直接耳にする機会が増えている。

こういった声が増えてきた背景として挙げられるのが「BtoBユーザーの購買行動の変化」だ。米CEBが2011年に発表したレポートでは“57%のユーザーが営業担当者に会う前にサービスの比較検討を済ませている”という調査結果が話題になった。

これまで購買プロセスの初期段階で営業マンに相談してきたユーザーが、比較検討までを済ませてから企業を絞り込んで相談してくる形に行動が変わり、その結果としてこれまでは候補に入っていた一部の企業に相談が来なくなった、というものだ(図1)。

CMO Councilでも「BtoBユーザーの10人中9人がオンライン上のコンテンツは購買決定への影響が中または大」との調査結果を発表している。

図1:BtoBユーザーの購買行動の変化

このような見えない機会損失に加え、多くのBtoB製造業で顕在化している機会損失として挙げられるのが「グローバル全体でタイムリーに製品情報が共有できていない」という問題だ。

日本の製造業のデータマネジメント成熟度はグローバルレベルで見ると遅れており、1,000億以上の規模の企業でも製品情報や関連する販促情報をすぐに利活用できる状態になっていないことが珍しくない。

結果として、デジタルチャネルにおいては製品リリースから情報公開までのタイムラグが発生し、タイムリーに営業マンや顧客に鮮度の高い製品情報や販促情報を提供できず機会損失につながっている。

さらには営業マンの情報・知識格差問題も深刻化している。人口減に伴う営業系人材の減少や商品・サービスの高度化・複雑化によるベテラン営業と若手営業の情報・知識格差や本社と海外拠点営業の情報・知識格差は広がっている。

ではこのような状況の中で日本のBtoB企業のWeb活用の取り組みは現状どうなっているのか?筆者は日本のBtoB企業のWeb活用ステージを3つのステージに分けて考えている(図2)。

図2:日本のBtoB企業のデジタル活用ステージ

Web活用ステージによって、取り組むべき範囲は大きく異なる。Webサイトを単なる情報発信ツールとして捉えるのか、それともデジタル接客やデジタル営業の役割を担う売上貢献につながる営業支援ツールとして捉えるのか。

Web活用ステージと取り組み範囲を考える上で筆者は下図のような全体像を用いて各企業のWeb担当者とこれまで議論を重ねてきた(図3)。

こちらの図も踏まえながら、各Web活用ステージについて解説する。

図3:Web活用ステージと取り組み範囲

①     ステージ1:活用のための土台作り

第一段階となるステージ1では、企業にとってのWebサイトの位置づけは“単なる情報発信ツール”の一つに過ぎない。

このステージでは企業が保有する情報を企業視点で如何に効率よく提供するか、に主眼が置かれておりユーザーから見た利便性や情報検索性など顧客体験を意識した情報発信への意識はWebサイトからあまり感じられない。

また、ユーザー視点が弱いため発信される情報の見せ方や内容もユーザーの知識レベルや関心事が考慮されたものにはなっていない。

このようなレベル感で情報発信を行っているBtoB企業の割合はいまだに多く、筆者の所感では日本のBtoB企業の40~50%がこのステージ1に留まっている。

図4:ステージ1の対象範囲

②     ステージ2:デジタル接客の仕組みづくり

第二段階となるステージ2はステージ1とはWebサイトの位置づけが大きく変わり、“営業支援ツール”としての顔を持つWebサイトとなる。

業種や企業規模により温度感の差はあるものの、Web活用意識の高い企業がサイトリニューアルで目指す姿としてはステージ1からステージ2へシフトしつつあると筆者は考えている。

このステージでは、ネット経由での見込客の育成・獲得やリード獲得を如何に効率よく実現するか、を意識したWebサイトおよびデジタルマーケティング基盤づくりに各企業が取り組んでいる。

情報発信においては、ユーザーの知識レベルや関心事、購買段階を意識したコンテンツ・機能の提供がされており、サイトを訪れたユーザーが目的の情報にすぐに辿りつける顧客体験設計がなされている。

このステージ2に相当するレベル感でWeb活用を行っている日本のBtoB企業は全体の8~10%くらいというのが筆者の所感ではあるが、ステージ1からステージ2に向かおうとしている“ステージ1.5”の企業は年々増加傾向にあり、全体の30~40%くらいになるのではないかと考えている。

図5:ステージ2の対象範囲

③     ステージ3:デジタル営業の仕組みづくり

第三段階となるステージ3はステージ2からさらに発展し、デジタル営業の仕組みが確立されている、真に売上貢献につながるWebサイトとなる。

このステージでは、ネット経由で高見込客を育成・抽出する仕組みが属人性なく確立されており、KPIも“1日当たりのWeb経由売上高”など売上貢献に直結するものとなっている。

情報発信も顧客の属性情報や行動情報を踏まえたパーソナライズやレコメンドの仕組みを備えており、引合につながる行動をどのレベルで行ったかに応じて営業マンが電話でフォローする、ツールが行動シナリオに応じてフォローメールを自動で打つ、などのフローがルールに沿って行われている。

また、ネット経由で収集した顧客データを収集・分析して顧客ステージの判定ロジックや見込客リストの精度をチューニングするなどの取り組みをデータ分析の専門スキルを持った人材が週次レベルで行っている。

このステージ3に相当するレベルでWeb活用を行っている日本のBtoB企業は全体の2~3%くらいではないかというのが筆者の所感である。

図6:ステージ3の対象範囲

以上、筆者の考える日本のBtoB企業のWeb活用ステージを紹介してきたが、このWeb活用ステージの話と類似性を感じるキーワードが “2025年の崖”というものだ。

“2025年の崖”というのは経済産業省の「DXレポート」で問題提起されたキーワードで、既存のITシステムの陳腐化とそれを支えるIT技術者の不足、新しい技術に対応できないことによる企業の競争力低下が国全体に大きな経済的損失をもたらす、というものだ。

国レベルの損失とまでは行かないが、顧客接点のデジタル化を推し進めて新たな価値提供に取り組んでいる企業と顧客接点のデジタル化を軽視し、従来のレガシープロセス/組織から脱却しない企業との間では徐々にデジタル空間上での競争力の差がつき始め、あと5年もすれば大きな格差となって顕在化するのではないかと考えている。

日本の製造業がグローバルでの存在感や競争力を高めていく上で、顧客接点のデジタル化は事業成長のドライバーとなる重要テーマの1つとなっている。

その重要性・ポテンシャルに早期から気づいた一部のBtoB企業は自社プラットフォームをデジタル接客・デジタル営業のツールとして高い中長期目標を掲げて組織づくり・人づくりを含めて本気で取り組んでおり、実際に成果も挙げている。

自社のビジネスを成長させるために顧客接点のデジタル化にどのように取り組んで行くべきか、その際の自社プラットフォームのあり方はどうあるべきかを考える1つのきっかけとして本稿を役立てていただければ幸いである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?