見出し画像

拝啓、小学3年生の君へ

2009年11月21日J2第49節湘南ベルマーレ戦

今でもあの時の記憶が頭の中を駆け巡る。
2点差を追いつき、攻めの姿勢を見せていた青赤の戦士たちを再び突き放すかのような坂本紘司選手の冷静なフィニッシュ。

気がついたら頬には涙がつたっていた。
試合に負けて泣き散らしたのは最初で最後だと思う。悔し涙も嬉し涙も14年間のサポ生活の中でたくさん経験してきたが、あれほど「悔」の感情を掻きむしるような思いはもしかしたら無いのかもしれない。

歓喜に沸く湘南ベンチと満員のビジター席。
落胆の表情を浮かべる甲府の選手たち。

あの時スタジアムで父と流した涙がなければ、甲府をここまで本気で好きになれていなかったかもしれない。

間違いなく私の転機となった試合だった。

翌年のJ1昇格、1年でのJ2降格。歴史的記録でのJ2優勝。主力の大量流出に遭いながらも達成した4年連続のJ1残留。仙台戦の涙の先制ゴール。儚く散ったPO。そして天皇杯優勝。

そのどれもが甲府という地方クラブの辿ってきた軌跡であり、歩んできた証となって私を含むサポーターの心の中に深く強く刻み込まれている。

そして、2023年10月4日(水)
遂に辿り着いたアジアの舞台ホーム初戦。

ACLグループステージ第2節
ブリーラム・ユナイテッドFC戦

大型ビジョンに映し出された甲府のエンブレム、見慣れた青赤の衣に輝く日の丸印。
英語の選手表記に会場に鳴り響くACLのアンセム

そのどれもに心を揺さぶられ、高揚感と鳥肌が止まらなかった。

遂にここまで来たんだ。

眼前に広がる景色を今でも信じられない。
見たこともない景色がそこには確実にあった。

決起集会からボルテージは最高潮だった。生憎の雨模様の国立に響き渡る愛するチームのチャントの数々。平日のナイターにも関わらず集った青赤の衣纏いし仲間たちとの大合唱は格別だった。

冷めやらぬ高揚感を抑えきれないまま試合開始のホイッスルが刻一刻と近づいてくる。

その刹那会場の雰囲気が一変する。照明が落ち、自然と湧き上がる歓声。青くペンライトに照らされたスタンド席。国際試合さながらの独特の雰囲気が会場全体を包む。
いや、紛れもなく我々はこの瞬間国際試合を戦うのだ。

テレビの前に座り羨望の眼差しを向けていた光景が今目の前に広がっている。
自然と目頭が熱くなった。

振り返ると青赤の心強い仲間達。
紛れもなくここはホームだった。

J2の誇り

ゴール裏の左隅に目を向けるとJサポ連合軍が駆けつけてくれていた。改めて甲府が好きで良かったと感じた瞬間だった。

カウンドダウンが始まりキックオフのホイッスルが鳴り響く。降り頻る雨ニモ負ケズ自分が出せる精一杯の声で飛び跳ねた。

正直なところブリーラムは強かった。前半のうちは苦しい時間が続く。それでも甲府の漢たちは集中した守備で体を張り続け、勇猛果敢にゴールに迫った。

万里一空の精神で準備を続けてきた甲府の選手たちの表情にはどこか自信を覗かせていた。

目立った決定機はウタカのシュートのみ。それでも後半への期待を感じさせる前半だった。

後半は開始間も無く長谷川元希、クリスティアーノ、そして宮崎純真など攻撃的なカードが続々と切られた。

前半は回収しきれずにいたセカンドボールが甲府の選手の足元に転がってくる。パスが繋がり始め攻撃にリズムが生まれる。しかしゴールは遠かった。セットプレーから神谷、中村亮太朗が素晴らしいヘディングをそれぞれ見せるも、相手キーパーの鋭い反応とポストに阻まれる。

だが、国立に集ったファンサポーターは、そして選手たちは決して諦めていなかった。
今日は負けられない。そんな気概を感じるプレーの連続だった。

そして会場全体が、ゴールはいつだと心躍らせ、今か今かとその瞬間を待っていた。

遂にその時が訪れる。後半44分幾秒。
頼れるキャプテン関口正大が何かを察知し、スローインを投げようとしていたクリスティアーノの元に駆け寄る。
それに気づいたクリスティアーノは関口にボールを渡しスローインを受けるとファーサイドをルックアップ。

放たれたクロスの先で待ち構えていたのは青赤の10番だった。

ジャンプ一番。
相手のSBに競り勝つと渾身のヘディングシュートがゴールに吸い込まれた。

こんなドラマが待っていようとは誰が想像しただろうか。試合を決定づけたのは頼れる漢長谷川元希だった。

歓喜に沸くスタジアムでただ2人冷静だった漢たちが居た。関口正大と中村亮太朗だ。歓喜の輪には加わらず、喜びを噛み締めながらも試合開始に備えていた。

シーズン途中に就任した主将関口の主将たる姿を見た気がした。勝てなくて苦しかった時期を乗り越え、松田陸の加入で減少した出場機会にもめげずに黙々と努力を続けてきた漢の真髄がそこには間違いなくあった。

その後も集中した守備でゴールに鍵をかけた甲府の戦士たち。
そして鳴り響く試合終了のホイッスル。

経営危機で消滅寸前だった地方のスモールクラブがアジアの舞台でタイの三冠王者相手に勝ち星をもぎ取ったのだ。

拝啓、小学3年生の君へ
貴方が悔し涙を流した13年と11ヶ月後
貴方の愛するクラブはアジアの舞台で価値ある
一勝を挙げました。
そして愛するクラブを支え、共に熱くなれる心強い仲間達が周りにはたくさんいます。


貴方の悔し涙が嬉し涙に変わるその時まで
幸せを噛み締められるその時まで
めげずに折れずにヴァンフォーレ甲府というクラブを愛し続けてください。

そこにはきっと最高の景色が待っているはずです。くれぐれもお身体には気をつけて。
じゃあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?