セトリストAZKiの本領発揮 AZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」追加公演レポート
2024年9月17日、18日にAZKi Major Debut LiVE「声音エントロピー」の追加公演が豊洲PITで開催されました。2024年8月3日にKT Zepp Yokohamaで開催された同公演の申し込みが大盛況のため、急遽追加公演が2つ生えてきました。AZKi先生本人もライブのMC中で「開拓者のみんながここに連れてきてくれました」と言っていた通り、開拓者のパワーに舌を巻くしかありません。推しのライブなんていくつあっても良いですからね。私はこの追加公演を体験して、まだライブの余韻に浸ったまま現実の世界に帰還できていません。ずっと頭の中でAZKi先生の音楽が鳴り続けています。
追加公演という事もあり、ライブのセットリストやMCの流れは横浜と大枠は同じでした。「より多くの開拓者に現地ライブを体験してもらいたい」というAZKi先生の願い通り、MC中でAZKi先生のライブが初めての開拓者に挙手を求めた時には、多くの手が上がっていました。約4年7か月ぶりに現地ライブを体験した、いち開拓者の私から見たライブの様子と抱いた感情は先日の記事に書きました。
豊洲PITの現地チケットをSOLD OUTにしたAZKi先生。AZ輪廻の時、池袋harevutaiを埋められるかどうか一喜一憂していた頃が遠い夢のようです。デビューしてから約3年間で、8回ものソロライブ開催や多数のイベントやフェスに出演していた頃を思い出すと、KT Zepp Yokohamaを埋めただけでなく豊洲PITで追加公演を開催している現在とのギャップに、A俺誇という気持ちと、インディーズバンドがメジャーになった時に感じるような一抹の寂しさが湧き上がってきました。
横浜で既に声音エントロピーを経験していたので、追加公演はきっと似たようなライブ進行になるだろうし、今回は開拓者としての思い入れやAZKi先生の文脈から一歩引いて純粋にライブ体験を楽しもう、と高を括っていたのですが、甘かったです。追加公演は横浜と比べてセトリも歌もパワーアップしていた上、色んな文脈が盛りに盛られてました。今回は追加2公演で印象に残った箇所をハイライトで振り返っていきます。
・Intersection
追加公演1日目で変更されたセットリスト1つ目。クラブミュージック風のノリノリの格好いい曲で会場は湧きに湧きました。アニクラのDJでAZKi ReDの曲たちが頻繁にかかっていた頃を思い出しながら、拳を突き上げ音に合わせて体を揺らしていました。ホロライブの二次創作全般ガイドラインで当時は珍しくDJプレイについて特筆されていたのは、INNKの影響や意向があったと思ってます。
・オーバーライト
横浜でも歌った曲ですが、豊洲でオーバーライトを歌うのは意味が異なります。豊洲PITはhololive 1st fes. ノンストップ・ストーリーだけでなく、花譜2nd ONE-MAN LIVE「不可解弐REBUILDING」と、星街すいせい1stソロライブ「STELLAR into the GALAXY」が開催された場所だから。「憧れの背に少しだけ追いつけた」場所であり、「途切れた糸もまた繋がる」場所でもあるわけですよ。こんな文脈を乗せられたら同じ曲でも聴きながらあふれ出す思い出が多すぎて、より一層心に刺さるというものです。豊洲PITでの追加公演は当初は予定されていなかったはずだから、この文脈はまったくの偶然だけど、だからこそAZKi先生は「もってる」と思いました。
・Fake.Fake.Fake.
この曲も「オーバーライト」と同様に横浜でも歌ったけれど、8月3日の時点ではあくたんの卒業は発表されておらず、ただ懐かしい曲を聴けて嬉しいという感情でした。それがあくたんが卒業した後の追加公演では、AZKi先生があくたんの想いを乗せて歌っているようで、二人分の迫力を感じました。ステージで歌うAZKi先生の背景では、あくたんが出演した「Fake.Fake.Fake.」のMVが流れ、AZKi先生がそれを仰ぎ見たり、無線制御ペンライトがあくあ色だったり、曲終わりの決めポーズが二人で一致していたりと、あくあずの絆を見せつけられました。これからもこの曲を大切に歌い続けるとAZKi先生が言ってくれて本当に嬉しかった。
・フロンティアローカス
追加公演2日目で変更された曲。「オーバーライト」は「フロンティアローカス」のアンサーソング、続きの曲です。追加公演1日目では「オーバーライト」を歌い、2日目で「フロンティアローカス」を歌うのは、綺麗な対になっていました。これまでの軌跡を歌う「フロンティアローカス」を、声音エントロピーの千秋楽で歌うのも、セットリストの構成が匠すぎます。流石セトリストAZKi。
・Shiny Smily Story
追加公演1日目ではSSSのピアノVerを、2日目はアコースティックVerを披露されました。追加公演のためにセットリストの変更ではなく純粋に1曲追加という大盤振る舞い。NSSの思い出の地、豊洲PITでSSSを歌うのは完全に正解。しかもSSSと言えばみんなで全力コールを入れるのが楽しい曲にも関わらず、声音エントロピーでは一切観客席からコールはなく、ただただみんなAZKi先生の美声と生演奏に聴き入っていました。「アイドルAZKi」ではなく「アーティストAZKi」の本気を見せつけられたかのようで、完全にAZKi先生が場の空気を支配していました。
・エントロピー
KT Zepp Yokohamaと豊洲PITで、全4公演で歌われた曲は「Lazy」と「エントロピー」の2曲だけです。なぜこの2曲は特別なのか、解釈の別れる所だと思います。個人的には「Lazy」はアルバムの最初の曲という事もあり、声音エントロピーの公演の導入1曲目にふさわしいと感じました。「エントロピー」はライブタイトルの一部でもあるし、何よりAZKi先生のアンセムを何曲も手掛けた瀬名航さんが作詞作曲した曲だから、という理由が大きいのではないかと。自分は「ありえない」の向こう側を選ぶ、というAZKi先生自身の気持ちを、一番みんなに伝えたかったのかもしれません。
そろそろ声音エントロピーの総括に移りましょう。「声の温度」で彩ると銘打たれた今回のライブは、AZKi先生の暖かい冷たい熱い凍える多彩な温度の声を感じることができました。
バーチャルは声の温度を伝えられるのか?冷めた言い方をすれば、Vtuberはライブ会場ではなくスタジオで歌っています。Vtuberは生身のアーティストほどの温度を観客に伝えられないのではないか。否。突き詰めればマイクを通している時点で、物理的にステージの上に立っている人の声も肉声ではありません。だからきっと音楽を伝えるという点において、仮想と物理に差はないのだと思います。
AZKi先生のライブの一部始終を見て、彼女の歌は聴く人の人生の一場面で沸き起こる感情を表現して、その瞬間の感情をより豊かに精彩に記録してくれているのではないかと思いました。彼女の歌を聴けば、感情がアルバムをめくるように蘇り、その時自分が確かに生きていたことを思い出させてくれます。
「画面の中の君が好き」を歌う前のボイスドラマで、退屈な日常の繰り返しに倦んでいる少女が登場した時、きっと誰しもが灰色の世界で感情を失っている瞬間があるはず、と思いました。例えばサラリーマンとして日々仕事のために自分を抑えて心を殺していると、ある日感受性がすっかり摩耗していることに気づいたりする感じ。
そんな時、AZKi先生の歌を聴きます。AZKi先生はこの感情もあの感情も歌ってくれているから。
暖かさと期待に満ちた朝の心地よさも、夜の寂しさや切れるような冷たさも、なんでもない日常の尊さも、格好良いロックな姿に痺れる快感も、みんなで一緒に真っ白な地図を開拓するワクワクも、可愛い猫を愛でる愉悦も、大切な人との別れの喪失感も、画面の中の君への愛情も、いのちの儚さと美しさも、綺麗事に隠れた本心も、これまでを間違いなんかにしない願いも、ここで生きていくという決意も、「ありえない」の向こう側を目指す奇跡も、もっと複雑な言語化できない感情すらも、全部全部歌ってくれています。
だから、大丈夫。この声がこの歌が何回何十回だって思い出させてくれる。今日も僕らはAZKiの音楽に救われてます。
AZKiという歌が大好きな女性が、紆余曲折の活動の中で、みんなの心や記憶に残り続ける音楽を作りたいという夢を抱いて作り上げてきた、奇跡のように多彩な声の音(いろ)を感じられるライブでした。彼女の歌から確かに感じた熱量を大切にこの身に宿してこれからを生きていたくなる、忘れがたい体験でした。
最後に、追加公演2日目にAZKi先生が読んだ開拓者への手紙の全文を掲載しておきます。