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教師とChat GPT

【気付き】教師とChat GPT

僕は、テクノロジーは一過性の幸せしかもたらさないと考えているけど、人間の欲望に限度がないことも生物学的な事実で、故にテクノロジーの更新は止められないことも認める。

それでも「テクノロジーは新たな弊害を生み出さないことはあり得ない」と言うことには意味がある。だって、歴史的にいつもそうだったから。でも批判するなら、その相手を知ってから、がマナーだ。

この1ヶ月で、Chat GPTに関するメディア報道が増えた。新聞各社、NHKも特集している。コンピュータサイエンス系の人に関わらず、一般的に認知されてきた感がある。

僕はNewsPicksの落合陽一さんの番組で初めて知ったが、「また厄介なテクノロジーが出てきたな」と率直に思った。未来を見据える教師の立場にある者として、それが未来にもたらす結果を想像しておきたい。

まずは、使ってみた。感想は、面白いけど、つまらない。瞬間的には「ホウ!」となるが、よくよく考えて見ると、「その程度か」とがっかりする。

Chat GPTに投げ込んだ問い・返答は次の3つ。

Q1 心理学の認知的不協和理論について教えて!

A1 「認知的不協和理論とは、人々の心理的不安を引き起こす原因として、矛盾した認知(考え方)があるという考え方です。この理論は、心理学者のジェイムズ・ラーソンが提唱したものです。ラーソンは、矛盾した認知が心理的不安を引き起こすという考えを持っていました。この考えは、矛盾した認知が心理的不安を引き起こす原因として、それを解決するためには、本質的な理解を行う必要があるという考えを支持しています。この考えは、論理的な分析や対立する認知を統合するための新しい方法を提供しました。これらの新しい方法は、精神的な健康を維持するために重要な役割を果たしています。」

これはまずは情報検索能力を確かめるために、投げた問い。残念ながら基本的なことで間違っている。認知的不協和理論を提唱したのは、レオン・フェスティンガーだ。ジェイムズ・ラーソンなんて心理学者は、調べたけど実在していない。

ここから分かるのは、Chat GPTを情報検索として使うのは危険だと言うこと。今回のケースでは心理学に馴染みのない人なら、間違いに気づけないはずだ。AIは統計的な処理で動いている(=意味は理解できない)ことを肝に銘じておきたい。


Q2 ほうれん草を使った珍しいレシピを教えて!

A2 「ほうれん草ときのこの豆腐サラダ

材料:

- ほうれん草:1/2
- きのこ:1/2カップ
- 豆腐:1/2カップ
- ねぎ:1/4カップ
- 醬油:2Tbsp
- みりん:1Tbsp
- 砂糖:1Tbsp

作り方:

1. ほうれん草を細かく切り、きのこをスライスし、豆腐を1cmほどの大きさに切ります。
2. ねぎを細かく刻みます。
3. 鍋に醤油、みりん、砂糖を入れ、中火で煮立てます。
4. その中にほうれん草、きのこ、豆腐を加えて、火を止めます。
5. その上に細かく刻んだねぎをかけて完成です!」

これは、Chat GPTの創造性を確かめるための問い。レシピ名は「サラダ」なのに鍋で煮るらしい。A1の回答と同様、平気でボケるので、ツッコミたくなる。



Q3 中学校の生徒に対して、ムスリムの暮らしをテーマに授業する場合の、授業案を教えて!

A3  

「1. ムスリムの暮らしについての紹介

- ムスリムとは?
- ムスリムの暮らしの主な特徴

2. ムスリムの暮らしの中心となるイスラーム

- イスラームとは?
- イスラームが定めるルール

3. ムスリムの暮らしの中で実践されていること

- 祈り
- 断食
- 礼拝

4. ムスリムの暮らしの中で実残されていないこと

- 飲酒
- 賭博

カジノ

5. ムスリムの暮らしの多様性

- 異なる文化圏でのムスリムの暮らし
- 異なる宗教的背景を持つムスリムの暮らし

6. ムスリムの暮らしの評価

- ムスリムの暮らしの好ましい点
- ムスリムの暮らしの課題」

これは教師がChat GPTを使い出したら、何に使うかを想像して投げた問い。これには少し驚いた。わずか20秒でそれなりに授業のストーリーが組み立てられている。教師にとっては確かに役に立つ側面がある。



他にも生徒が行う探究活動を想定して「日本で同性婚の法制化を実現するために必要なことを教えて!」と問いを投げたら、

1. 同性婚に関する憲法修正を行う必要があります。
2. 政府が同性婚を認めるようにするための法律を制定する必要があります。
3. 同性婚を支持する人々が国民の意見を表明し、政治家たちに同性婚を支持するよう求める必要があります。
4. 同性婚を支持する団体や組織が、同性婚を支持する活動を行う必要があります。
5. 同性婚を受け入れる文化を確立するために、メディアや教育機関などが同性婚の普及を支援する必要があります。



学校の課題解決を想定して「日本の教職員の長時間労働を解消して、持続可能な学校教育を実現するために必要なことを教えて!」には、

1. 教職員の労働時間を規制する法律を制定し、長時間労働を禁止する。
2. 教職員をより多く雇用し、仕事量を分担することで、長時間労働を減らす。
3. 教職員に対して、十分な休憩時間を提供し、ストレスを軽減させる。
4. 教職員に対して、プロフェッショナルなスキルを身につけさせ、効率的な教育を行うように支援する。
5. 教職員をより多くの教育研修プログラムに参加させ、教職員の能力を高める。
6. 教職員を正当な給与と良好な労働環境で尊重し、モチベーションを高める。

一般論ではあるが、全体感がある答えを投げ返してきた。



さて、人々はよく「テクノロジーは使い様だ」と光と影の部分をバランスよく評価しようと言うけど、人類がバランスよく使いこなせた試しはあるのだろうか。いまだに、自動車は人命を奪い続けているし、SNSは続々と依存症患者を生み出している。

確かに、Chat GPTは短期的には面白いし、役に立つかもしれない。でも、情報収集の努力や自力の思考、創造的な活動を、AIに外部化したら、長期的には人間の知的能力は衰弱していく。いやもっと言えば、生きる喜びを感じられなくなっていく。

Chat GPTが答えたことに、疑ってツッコミを入れる人、あるいはそれを使って思考を発展させようとする人は、多数派だろうか?僕は悲観的だ。

生徒がある課題について、Chat GPTを使ってレポートをまとめてきたらどうするのか?今回、分かったのは、Chat GPTは「それなりに綺麗にまとめられる」ということだ。教師にとって、そうしたレポートは識別可能あるいは評価可能なのか。このテクノロジーを上手に使える子とそうでない子の格差が生じることをどう考えるのか。

そもそも、人間が思考・判断・表現することの意味を、生徒にどうやって説明するのか?

こうしてまた学校現場は、新しい変化に翻弄されていく。

見失ってはいけないのは、テクノロジーへの依存(外部化)は、長期的には人間の生の力を弱めるということ。「進歩」は人々を幸せにするとは限らないということだ。

ここまで書いてきて、気持ちが暗くなってきた。

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