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教師の技|生徒の問う力を育てる

考えるという行為は、問うことに他なりません。私たちが考えている時は、要するに問うている時です。「今日の夕飯」について考えている時、「今日の夕飯は、何を食べようか?」と考えています。

そう考えると、人間が学習をする時に重要なのは、「問いを持てること」ということになります。なぜなら、問いが見つからないと、考えることが始まらないからです。

学校の授業は、この問いを、だいたい先生が生徒に与えます。生徒は、問いを与えられることはあっても、問いを作ることは、ほとんどありません。結果的に、生徒は自ら問う力が高まらないのです。

生徒が学校を卒業しても自ら学習を進めるためには、「問う力」が欠かせません。では、(必ずしも探究学習ではない)普段の授業の中で、どのようにそれを実現できるでしょうか。

今回は4つのアイデアをご紹介します。

アイデア1  問いの型を教え、使い続ける

最もシンプルなのは、問いの型を教えることです。汎用性が高く、中学生でも使いこなせるのは、やはり5W1Hです。

単元の初期に、キーワードを「お題」にして問いづくりをします。例えば、中学1年歴史の授業では、最近「人類の誕生」をお題にして問いづくりをしました。

Q (When)いつ、人類は生まれたの?

Q (Where)どこで人類は生まれたの?

Q (Why)なぜ、人類はチンパンジーから別れたの?

Q (Who)最初の人類は、誰?

Q (How)どんな生活をしていたの?

Q (What)人類と他の動物を区別する特徴って何?

以上は、中学1年生が出した問いです。問いを出すことで、思考が動き始めることを確認してください。

5W1Hの型を使い続けることで、生徒は素早く問いを作れるようになります。また、型を使う良さは、半ば強引にでも問いを複数、作れてしまうことです。機械的に作った問いは「変な問い」になりますが、意外とその「変な問い」が面白かったりします。

アイデア2  授業展開の途中で、「次に問われるべきことは何でしょう?」と問う

問う力を日常的に高めるためには、授業展開の中で問いのセンスを磨く視点が必要になります。そこでお勧めしたいのが、「次に問われることは何でしょうか?」という投げかけです。

授業は、問いの連続です。その連続の中で、一度、立ち止まって生徒に訊いてみるのです。例えば、「なぜ、ホモ・サピエンスは、筋力を強く、知能も高かったネアンデルタール人との生存競争に勝てたのか?」という問いで授業をしている時。

まず、情報源から「サピエンスは、狩りにおける筋力の不足を、道具の改良によって補った」という答えを得ます。次に「ではなぜ、サピエンスは道具を改良することができたのか?」と問います。すると、情報源から「サピエンスは、ネアンデルタール人よりも遥かに大きな集団で生活しており、道具の製造技術に関する情報を共有しやすかった」という答えを得られます。

そして、生徒に訊くのです。「次に問われることは何でしょうか?」。生徒は、論理的な展開の中で「なぜ、サピエンスは大集団を形成できたのか?」という問いに気づきます。

このように教師が、足場掛けをすることで、問いのセンスを磨くことが可能になります。

アイデア3  教科書本文のつながりの曖昧さにツッコミを入れる

もう一つ、日常的に問う力を育てる方法があります。教科書の本文を活用します。その本文の論理的なつながりの曖昧さを見つけさせるのです。

例えば、歴史の教科書「古代文明のおこり」に関する叙述の事例です。本文の流れを矢印で繋いで整理すると写真のようになります。

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「農業が始まると▶︎食料を貯蔵できる▶︎人口が増加する▶︎関連して貧富の格差・差別が生じる▶︎争いが生じるようになる▶︎争いの結果、国がまとまり、王が生まれる▶︎都市が生まれ、文字などが作られ文明が生じた。」

なんとなく、論理的に流れているように思えますが、ここで「矢印のつながりのうち、『なぜ?』ってなるところはないかな?」と生徒に訊きます。すると、生徒からは次のようなツッコミが出てきました。

「国がまとまって、王が生まれると、文字ができた理由が分からない」。これは確かにそうです。因果関係が曖昧です。

これは教科書が不親切なのではありません。教科書はそもそもざっくりと書かれているのです。それをむしろ利用します。教科書に書かれていない、行間に目を向けさせ、問いを見つけさせるのです。

ちなみに、自分で見つけた問いは、生徒にとって格別なものです。先日の授業後、ある生徒が教科書本文のつながりの曖昧さに気づき、それを友達に熱心に話していました。問いは人を駆り立てるのです。

アイデア4  問いを振り返らせる

問いを学習の起点にする意識を持たせるために、振り返りを工夫することができます。具体的には、次の授業の最初に「前回の授業の主要な問い」を思い出させるのです。振り返りや復習の場面では、普通ならば要点やまとめを確認します。

それ自体は重要ですが、しかし、思考のゴール(まとめ)だけ覚えても、総合的で深い学びにはなりません。大事なのは、問い=スタートからどのような思考プロセスを経て、ゴールに至ったかをストーリーで説明できることです。そうであれば、まず持って思い出すべきは、問いになります。

「前回の授業の問いは何だったかな?」と訊く習慣を授業に取り入れることで、生徒の中に「問いが重要である」という認識が育つはずです。

以上、「生徒の問う力を育てる」というテーマで4つのアイデアをご紹介しました。生徒が問いを持てるようになることは、学びのハンドルを自分で握れるようになることでもあります。問う力は間違いなく、未来においても重要性を持つでしょう。

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