見出し画像

多くの見捨てられた写真のために

 これは2022年の11月4日から6日にわたって開かれた多摩美術大学芸術祭で行った展示で配布したハンドアウトの文章の写しです。

 はじめに記録性は写真においてもっとも付随的な性質であることを宣言する。この場合写真は、指標や指示、対象、指向などといった一連の所与の性質を外界に求めない。これはまた、ある写真に対するまなざしがその写真と外界との界面に唯一の焦点を結ぶことを意味する。

 こうした前提のもとに、私は写真という驚くほど豊かな広がりを有するこの概念の中心に近い部分で道半ばで放り投げられて以来、未だ手つかずのまま眠っている諸課題について考えたい。逆説的になるが、写真と他メディアの境界やコラージュなどの操作との関連、またあるいは写真機の概念の再発明による写真概念の拡張といった写真という概念の外縁部にあるような諸問題についてここで取り組むつもりはない。むしろ指向や対象といった問題に批判的に取り組み、平面や物質というような一連の退屈で、一見すでに語り尽くされたかのようにも思える——その実、ほとんど無解決のまま放置されつづけてきた——数々の問題について考えたい。

 今回の展示では見捨てられてきた写真に関する諸課題のなかでも、平面と感光という二つの点に注目した。感光する平面はたいていの場合、そのいかなる平面的な部分においても均質な情報価値の広がりを潜在的に有している。その情報価値はただ毀損されるために存在するのではないため、適当な感光によって、感光する前の平面が潜在的に有している価値は損われることなく、状態によって定義される情報価値へと推移される必要があるのだ。このような点に注目して写真機や感光平面と向き合っていると、感光がいつ始まりいつ終わったかという問題や、光がいかなる経路をたどって集められどう制限されたかという問題が非常に陳腐なものに思えてくる。そして写真機や感光平面も同様に、こうした枝葉末節には全く関心がないように思えてくるのだ。

 したがうように、私は写真機を手にしている間、目前で起こったことや光景、そして被写体といった写真にとって外側に位置するような問題から目を背け、写真の内部にある写真そのものの所作に目を向け続けている。この展示においても現実のなかに存在する感光平面としての写真に向き合い、感光した平面のコピーとして以下の7枚を提出する。

出展作品一覧

1-1
《光と解像度の問題》2020年6月6日、254mm×170mm
インクジェットプリント・8×10インチ写真用紙

1-2
《写真的な空間中の平面における形質》2022年7月9日、275mm×419mm
インクジェットプリント・A3写真用紙

1-3
《埠頭・水面・船舶・富士山・空》2022年2月27日、170mm×254mm
インクジェットプリント・8×10インチ写真用紙

2-1
《平板な広がりにおける中央という問題》2020年11月25日、169mm×253mm
インクジェットプリント・8×10インチ写真用紙

2-2
《平板さと調和=多動性》2022年8月3日、174mm×254mm
インクジェットプリント・8×10インチ写真用紙

3-1
《逸脱》2022年10月24日、360mm×190mm
インクジェットプリント・A3写真用紙

3-2
《広がりと有限性——事物に抽象的な写真の習作》2020年7月19日、283mm×420mm
インクジェットプリント・A3写真用紙

お読みいただきありがとうございます。普段は京都市芸で制作をしながら、メディア論や写真論について研究しています。制作や研究活動をサポートしていただけると幸いです