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閉ざされた箱庭 : 妄想ショートショート022

閉ざされた箱庭


西暦2078年、人類は前例のない規模の戦争、第三次世界大戦の恐ろしい余波をまだ感じていた。この壮絶な戦争で人類の8割が消え去り、かつての豊かな地球の環境も深刻な汚染を受けた。戦争の教訓を胸に、生き残った人類は同じ過ちを二度と犯さないよう、新しい社会システムの構築を決意した。この新しい始まりは、インテリクト・シティと呼ばれるドーム型の都市の形で具現化された。人類はドーム内に集中して住むこととし、過度の人口増加を抑制し、人類の歴史が持続可能かつ安定したものとなるよう計画された。人類を地球上に拡散させず、限られた空間に留めておくことが、新たな人類社会の基本原則とされた。

リオは生まれた時からインテリクト・シティの中で生活していた。政府は常に外の世界は毒ガスと放射能で覆われ、人類にとって非常に危険であると教えていた。ドームの中は安全で、その代わりに仮想世界で何でも体験できる、完璧な世界とされていた。

しかし、リオは心の奥底で何か違和感のようなものを感じていた。ある日、彼は古いデータアーカイブから外の世界の写真やビデオを見つける。豊かな自然、広大な空、そして自由に動き回る動物たち。それは彼が今まで見たこともない、感じたこともない「リアル」だった。

リオは密かにドームの外への脱出を計画する。しかし、その計画は周囲の人々から猛反対を受ける。彼らはリオに対し、外の世界は死に至る危険で満ちていると警告する。しかし、リオの心はもう決まっていた。

リオはインテリクト・シティの日常のモノトーンから逃れるために、秘密裏にドームの外への逃走を計画した。ついにその日が来た。リオは何人かの仲間と共に脱出を試みた。彼の心は期待と不安で溢れていた。外の世界は政府が言っていたような死の地なのか、それとも心の底から感じていたような美しい自然が広がっているのか。

ドームの外に出ると、リオは壮大な自然の美しさに圧倒される。広大な空、澄んだ湖、豊かな森、そして、様々な生き物たち。彼は初めて本物の風を感じ、本物の花の香りを嗅ぎ、そして本物の太陽の暖かさを感じた。リオは自由を満喫し、深呼吸をした。そして感動のあまり涙を流した。

***

しかし、現実の彼の体はドームを出ていなかった。厳重に監視された施設の一室で、リオはリアルミラージュ・システムに接続されていた。彼が体験した外の世界は全て仮想のものだった。彼はドームを脱出する直前に捕えられていたのだった。

リオはシステムが彼に見せ続けるリアルの世界の美しさの世界に住んでいる。彼の夢と希望は、厳重な管理とテクノロジーによって叶えられたのだった。

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