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新千夜一夜物語 第30話:東京都知事選2020と魂の属性①

青年は思議していた。

2020年7月5日に控えた東京都知事選についてである。
プロのスポーツ・芸能・芸術の世界を生業にできる魂の属性があるならば、政治家にも適した魂の属性があるのかもしれない。
今回の東京都知事選の立候補者の魂の属性を鑑定することで、何かヒントを得られるかもしれない。

そう思い、青年は陰陽師の元を訪れるのだった。

『先生、こんばんは。今日は政治家の魂の属性について教えていただいてもよろしいでしょうか?』

「ほう、そなたが政治家とはめずらしい。して、誰か気になる人物がおるのかな?」

『はい。東京都知事選の選挙が迫っています。そこで、立候補者の鑑定をお願いいたします』

「そういえば、そろそろ選挙じゃったな。で、誰のことを知りたい。順に、名前を挙げていってくれるかの」

陰陽師の言葉に青年は頷いて見せ、スマートフォンを見ながら立候補者の名前を挙げていく。
陰陽師は青年が読み上げる名前に耳を傾けながら鑑定し、結果を紙に書き記していく。
青年が真剣な表情で21枚に及ぶ鑑定結果をじっくり眺めているのを見守った後、陰陽師は再び口を開いた。

「ところで、そなたの見立てでは、どの立候補者が適任と思うかな?」

陰陽師にそう問われ、青年は居住まいを正した後、口を開く。

『実際に当選するかどうかはともかくとして、僕なりの基準で上位5名を挙げるとするならば、

1:小野泰輔(おの たいすけ)
2:込山洋(こみやま ひろし)
3:立花孝志(たちばな たかし)
4:内藤久遠(ないとう ひさお)
5:齊藤健一郎(さいとう けんいちろう)

と、なるのではと考えています』

「なるほど」

青年の答えに陰陽師は微笑みながら小さく頷き、口を開く。

「ちなみに、どういった判断基準でそう考えたのかの?」

『実績や公約というよりも、あくまで鑑定結果をベースとしてですが、

・魂の種類が1〜3のいずれか
・全体運が9であること
・大局的見地と仁のスコアが高いこと
・頭が1であること

という基準で選んでみました』

「なるほど。では、その上位5名の解説に入る前に、大本命である前東京都知事の小池百合子の鑑定結果を見るとしよう」

青年は小さくうなずき、小池百合子の鑑定結果の紙を陰陽師の前に差し出す。
青年は、鑑定結果を再度眺めた後、口を開く。

小池百合子SS

『小池百合子は転生回数が“小山”である240回代の魂3:武士階級ですね。全体運が9で、先祖霊の霊障がなく、パフォーマンスが60%と低くないですし、防衛大臣を務めていたこともあり、東京都知事をやり遂げる素養はじゅうぶんにあったと思います』

青年は一息つき、続ける。

『ただし、頭が2で大局的見地と仁が共に70点とやや低いことから、僕の見立てによる上位5名からは除外しました』

「なるほど」

一つ頷いた後で、陰陽師がおもむろに口を開いた。

「ところで、彼女について、他に気づいたことはあるかの?」

陰陽師にそう問われ、青年はスマートフォンで小池百合子の過去を調べた後、口を開く。

『政治とは関係ありませんが、彼女はエジプトに留学していた21歳の頃に、日本人留学生の男性と結婚し、離婚したとのことです。これは、恋愛運が7とやや低いことと、天命運に“8:異性”の相が出ていることが関係していると思われます』

「それ以外にも、彼女の場合、2016年の都知事選に立候補する際、自民党を離党した後に自民党東京都連に推薦を依頼しておきながら、自ら取り下げてみたり、2000年には自由党分裂に際して小沢一派と決別してみたり、という過去がある。他にも日本新党、新進党、自由党、保守党、自由民主党と5つの政党に所属し、それ故、“政界渡り鳥”とも呼ばれておる側面もあるしの」

『それは、人運が7とやや低いことと、天命運に“14:偶発的人的トラブル”の相があることから、人間関係が切れやすいと考えることもできるのでしょうか。2016年に都民ファーストの会の代表に就任し、せっかく“風”が吹いたにも関わらず、入党希望者の“選別”で味噌をつけた挙句、2017年東京都議会議員選挙が終わった直後に党の代表を辞任したという過去もあります』

「いつも言うように、鑑定結果の数値だけでその人物の行動を一概にこうだとは言い切れぬが、彼女の場合、たしかにそのような側面があるのは否定できんじゃろうな。しかし、それとて、今世はそうやって人間関係を整理していくことで先に進むという課題が彼女に課せられていると考えるべきなのじゃろう」

『なるほど』

「彼女が大本命であるのはその通りじゃが、選挙は水物じゃ。よって、今回の都知事選も箱を開けてみるまではわからぬ。カイロ大学卒業に関する経歴詐称疑惑によって都民の印象は少なからず悪くなっておるじゃろうし、緊急事態宣言解除後の東京における新型コロナの感染者数がそれなり以上の勢いで再浮上してもおる。今後、感染者数三桁が選挙当日まで続くようなら、選挙戦に一定以上の影響をあたえるかもしれんな」

『新型コロナによって番狂わせが起き、別の人物が当選しやすい状況にもなっているわけですね』

「まあ、大勢は動かぬとは思うが、それでも影響がまったくないわけでもないじゃろうな」

青年の言葉に陰陽師は小さくうなずいて見せ、続ける。

「また、彼女は東京オリンピックが開催される時の東京都知事になりたがっていた説もあることから、来年の東京オリンピックの開催が確定されていない以上、東京都知事に固執する動機がなくなったという考え方もできなくはあるまい。今までの彼女の行動を見ていると、仮に今回の都知事選で彼女が当選したとしても、今年の秋に衆議院が解散することとなった場合、また自分に有利な風でも吹けば、衆議院議員選挙に出馬するために自ら都知事の椅子を投げ出す可能性すらなくはないじゃろう」

『なんか、目的のためには手段を選ばない感じですね。そういった、自分優先のところが頭2らしいと言えるのかもしれませんが…』

陰陽師は湯呑みの茶を飲んだ後、口を開く。

「魂の属性からみた小池百合子に関しては、そんなところじゃな」

『ありがとうございます。次は、小野泰輔(おの たいすけ)をお願いします』

鑑定結果を眺め、青年は何度もうなずいた後に口を開く。

小野泰輔SS

『転生回数が“小山”である240回代で魂3:武士階級、全体運が9であることは小池百合子と同じですが、彼の場合、頭が1ですし、大局的見地が90で仁が80とかなり高いことから、一番適していると判断しました』

「国会議員も含め、元々政治家は、2-4を唯一の例外として、240回代で魂3という属性を持っていることが基本なのじゃが、彼の場合、2008年に母校である東京大学のゼミの蒲島教授が熊本県知事へ出馬した際に選挙を手伝い、その時の優秀さを評価され、教授の推薦によって熊本県の政策調整参与に就任する。そして、2012年6月には当時全国最年少かつ熊本県政史上最年少の38歳で、熊本県副知事に起用されたという経緯がある」

『そんなに若くから頭角を現していたわけですね。公務の経験もある若手(どちらかと言えば)ですし、将来性も考えれば今回の立候補者の中で最も適任と考えられます。ちなみに、熊本県副知事に就任した後、彼は“くまモン”の著作権を県が買い取り、利用許諾を受けた場合は無償で使用できるようにしたとのことです!』

やや興奮気味に語る青年を片手で制し、陰陽師は口を開く。

「政見放送などを見る限り、スピーチにはまだまだ頼りなさを感じるものの、彼は東京維新の会の支部だけでなく、日本維新の会の本部推薦も得ておるし、ワシの見立てでも将来的に国政でもそれなりのポジションに就けるポテンシャルがある男じゃ。できることであれば、このような男が東京都知事として腕を振るってくれれば、面白いのじゃが」

『やはり、そうですか。ちなみに、彼の主要政策ですが、

1:コロナ禍の困難を乗り切る
2:コロナに負けず持続的に成長する“新しい東京”を創造する
3:財政危機を乗り越えるための徹底した行財政改革
4:誰もが安心・安全で心やすらかに暮らせる東京へ
5:“身を切る改革”として自身の知事報酬・期末手当・退職金を一律50%カット

となっており、政策も現実的だと思いました』

「その通りじゃな。先ほども言った通り、コロナの問題がどう推移するか、そして、同じく今回のコロナ騒動で女性層を中心に一気に名を挙げた吉村洋文大阪府知事の応援演説によって、ひょっとしたら大番狂わせが起きるかもしれんからな」

『次の込山洋(こみやま ひろし)ですが、魂2の人物ですね』

そう言い、青年は鑑定結果を陰陽師の前に差し出し、続ける。

込山洋SS

『彼は全体運が9で、大局的見地と仁が共に80点と高い数字です。また、頭が1であることも踏まえ、二番目に適任と考えました』

「彼は転生回数が230回代で“数奇な運命”に該当するが、どんな経歴を持っているのかな?」

陰陽師の言葉に青年はうなずいて見せ、スマートフォンを操作して該当するウェブサイトを見つけると、口を開く。

『2006年〜2014年にコンサルティング会社を経営し、主に営業や接客接遇、心理、うつ病対策などの顧客カウンセラー業務に従事。2015年4月から、渋谷ハチ公喫煙所の清掃活動を1年間継続、2019年5月からは新橋SL広場喫煙所でも清掃活動をしていたようで、立候補前は介護士でした』

「なるほど、いかにも魂2:貴族階級(軍人・福祉)らしい経歴じゃな」

『東京都知事選2016と2019年港区議会議員候補の際に、マック赤坂の付き人をしていましたが、今回はマック赤坂の後継者としてスマイル党の推薦を得て自ら出馬したとのことです』

「で、公約はどういったものかの?」

『22個ありますが、そのうちのメインの5個を抜粋しますと、

1:ゴミ、たばこのポイ捨て、路上喫煙は罰金10万円、完全密室型喫煙所の設置
2:介護離職率の減少、介護福祉士年収480万円、介護施設の増設
3:動物殺処分の実質ゼロ、アニマルポリスの設置
4:高齢者、障碍者支援拡充、都内全域のバリアフリー
5:都知事・議員報酬半額、都職員の報酬見直し

などがあり、いかにも魂2らしい、福祉向けの公約が多い印象です』

「うむ。実務的な提案はしておるものの、選挙の公約としては今一つインパクトに欠けるきらいはあるが、たしかに、そのようじゃな」

『次は、賛否両論ありそうな、立花孝志(たちばな たかし)ですね』

青年は鑑定結果を陰陽師の前に差し出しつつ、続ける。

立花孝志SS

『NHKから国民を守る党の党首の頃から物議を醸し出していた彼ですが、メディアで取り上げられる一面とは裏腹に、鑑定結果では良い人の印象があります。転生回数が“小山”である240回代の魂3:武士階級ですし、全体運は9、大局的見地は80点、仁は75点と高い方で、意外や意外、頭が1なので3位としました』

「前回(※第29話)も説明したように、人間は多面体であってメディアに映し出される彼の言動は意図的に切り取られた一部に過ぎん。ワシがみる限り、立花孝志は人格的にとてもしっかりした人物であり、人間としての力量もパワーも小池百合子より上といっても過言ではないくらいじゃ」

鑑定結果を再度眺めた青年は、小さくつぶやく。

『NHKの政見放送で“NHKをぶっ壊す!”と言ってしまったり、常人には理解できないような言動をとるのは、天命運に“17:天啓”の相によって天から降りてきた何かを、持ち前のパワーで実行してしまうところにあるのかもしれませんね』

「その可能性もないことはないのじゃろうが、彼の場合、彼を応援してくれる人物が多くなかったことから、過去に楠木正成が山賊を集めてゲリラ戦を繰り広げたように、政治で言うところの浮動票、魂4の票をうまく集めたといえよう。反面、魂1〜3の人物からすると、寄せ集めの集団という印象があるのは否めないのは、そなたの言う通りじゃが」

『なるほど。余談ですが、彼は8年間もパチプロで生計を立てていた時期があるようで、そういった意味では、金運が9というのも納得ですね』

「せっかく、それなり以上の器をもって生まれてきておるんじゃ。そんなことで、運を使い切ってほしくないがな」

『それもそうですね』

そう言って小さく笑う陰陽師の言葉に小さく頷く青年を横目で見ながら、陰陽師が口を開く。

「して、彼の公約はどういったものなんじゃ?」

『今回の彼の公約ですが、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”をベースに、

1:NHKをぶっ壊す!
2:既得権益をぶっ壊す!
3:コロナ自粛をぶっ壊す!
4:森友事件で悪者にさせられている籠池夫妻を救います!
5:検察権力の不正を許しません!

となっています。NHKに対する方針は終始一貫しているようですね。検察権力の不正に関しては、闇が深そうですが』

「その件については、話題が逸れてしまうから、また別の機会に話すとして、次の人物に話題を移すとしよう。ところで、次の人物は頭が2のようじゃが、そのような人物が何故四番手なのかな?」

陰陽師の問いに青年は小さくうなずき、鑑定結果を差し出しながら口を開く。

内藤久遠SS

『たしかに、内藤久遠(ないとう ひさお)は頭が2ですが、日本の人口の中で7%しかいない魂1:聖職者・王侯階級であり、霊能力持ちではない(―9)であることから、公務員・政治家に適性があるだろうと判断しました。全体運は9ですし、大局的見地が75点、仁が80点と低くない数字であることも判断材料としました』

「なるほど。ちなみに、330回代である“数奇な運命”に該当するような経歴はあるのかの?」

陰陽師に問われ、青年はスマートフォンを手早く操作し、画面を見ながら口を開く。

『彼は元陸上自衛官で、基本的に魂2が多くを占める自衛隊を経た後に政治家を志すのは、“数奇な運命”になるのではないかと』

青年の言葉に陰陽師は小さくうなずき、口を開く。

「で、彼の公約はどういった内容かな?」

『“コロナは検査を増やす。オリンピックはIOC・JOCに従う”とし、

1:命を大切にする都市
2:環境先進都市
3:防災都市
4:食料自給率向上
5:東京一極集中による都市の過密と地方の過疎の緩和

の5本柱を掲げており、各々に具体的な案も提示しています』

そう言い、青年はスマートフォンを陰陽師に渡す。陰陽師は微笑みながら画面を見つめ、やがて口を開く。

「彼の任期中にその全てを実現できるとはとても思えぬが、長期的なビジョンをしっかりと掲げておるようという意味では、前の人物より、公約としてはインパクトは確かにあるようじゃな。しかし、ツールド関東甲信越の開催については、ちとわからぬが」

『それは彼の趣味の延長なのかもしれませんね。魂3、パーソナルコンピューターの僕には魂1、スーパーコンピューターである彼の真意はわかりかねます』

「いや。同類のワシでも、よくわからんぞ」

「仮に、趣味の延長だとしても、たしかに、都知事選の公約にすべきことなのかという点では、たしかに問題ですよね」

苦笑しながら両手を上げる青年を横目に、陰陽師は鑑定結果の紙を取り寄せる。

覗き込むように鑑定結果を眺めた後、青年は口を開く。

齊藤健一郎SS

『齊藤健一郎(さいとう けんいちろう)は、大局的見地と仁が共に75点で、どちらも小池百合子より5点高いということを除き、ほとんど彼女の魂の属性が同じです。よって、5位は上記の二人と判断します』

「彼が小池百合子と違う点は、“魂の性質・親近性”の下段の数字が3であることと、公務の経験がないことじゃな」

陰陽師の解説に対し、青年はあごに手を当て、しばし黙考した後に口を開く。

『たしか、下段の数字が1に近いほど裏表がない性格となり、9に近づけば近づくほど、腹に一物があったり、二枚舌であったり、性格が荒くなる傾向があるということだったと思います。つまり、小池百合子は下段の数字が1ですから、公約を有言実行する性質があり、齊藤健一郎は言動不一致が起きる可能性があるということでしょうか?』

「“魂の性質・親近性”の下段の数字については、そなたの解釈もまったく見当外れではないが、ふたりの7(1)と7(3)の違いは後ろの5つの数字をみるかぎり、気性の粗さの違いと理解した方がいいじゃろうな。よって、小池百合子は4年前に掲げた公約をほぼ達成できなかったのに対して、齊藤健一郎の場合、時流や世論を考慮して柔軟に動きを変えられる可能性を秘めている、と考えることも可能なのじゃろう」

『なるほど。魂の属性がどうであれ、実際の言動としてどのように現れるかは実に複雑なのですね。人間は多面体、ということをあらためて感じました』

「ちなみに、彼の公約も立花孝志と同様、ホリエモンが掲げた“東京都への緊急提言37項”に沿ったものなのかの?」

陰陽師の問われた青年は、手早くスマートフォンを操作し、口を開く。

『そうですね。彼はホリエモンの提言をそのまま掲げています』

そう言い、青年は他に見落としたことがないか、再度鑑定結果に目を通す。
そんな青年の様子を微笑ましく眺めながら、陰陽師は口を開く。

「そう言えば、今回の立候補者21名の中に、魂3:武将階級が一人もいなかったな」

『そう言えば、そうですね。東京都知事としては、武将タイプの人物の方が向いているのでしょうか?』

「東京がいくら首都と言えども、所詮は地方行政の選挙なわけじゃから、どうしても武将でなくてはならんというわけでもないのじゃが、“令和”という年号と、その帰結の一つである新型コロナウイルスによってパラダイムシフトが起きている昨今、世の中を変えようと立ち上がる武将が一人くらいはいるのではないかと思い、意外に感じただけじゃよ」 

そう言い、陰陽師は書類を一枚一枚手にとって見比べ、再び口を開く。

「いずれにしても民主主義政治では、選ばれた立候補者は掲げた公約を実現できるかどうかが、評価の分かれ目となる。いくら耳障りが良く、都民にとってメリットが大きい公約を掲げたところで、それを実行できるかどうかじゃからな」

『たしかに。今回の任期だけで判断するかぎり、小池百合子が公約を実現したとはなかなか言えないですからね…』

「さらに言うと、仮に掲げた公約のいくつかを実現できたとしても、それらが偏狭な正義感から掲げられた公約で、東京都が抱える根本的な問題を改善するものでなければ、ほとんど意味はないしの」

『たしかに、耳障りだけよくて、実は内容のないテーマを公約で掲げて票を集めるのは自由ですが、それが大多数の東京都民のためになるかどうかは別ですからね』

青年は手元にあった鑑定結果を一まとめにし、陰陽師に手渡してから続ける。

『僕も含め、多くの人にとって政治はわかりにくく、興味を持ちにくい分野ではあると思いますから、街頭パフォーマンスや身近な問題を公約に掲げる候補者に票が入るのは仕方がないとは思います。だからこそ、特に魂1〜3の人物には、面倒くさがらずに、公約や候補者が発する言葉の意図までよく吟味した上で、投票していただきたいと思います』

「たしかに、そなたの言う通りじゃ。現在の選挙システムがベストかどうかはともかく、多数決が民主主義の基本である以上、一人でも多くの魂1~3が、たかが一票なぞと考えず、大局的見地に立った自分の一票を投じてくれることを願うだけじゃな」

青年の言葉に対し、陰陽師は微笑みながらうなずく。そして、時計に目をやり、再び口を開いた。

「もうこんな時間か。気をつけて帰るのじゃぞ」

『今日も遅い時間までありがとうございました』

そう言い終えると、青年は立ち上がり、深々と頭を下げる。
陰陽師はいつもの笑みで手を振り、青年を見送った。

帰路の途中、青年は現行の選挙システムについて思案していた。
投票率の低さと、候補者を選ぶための啓蒙や教育を、なんとかできないものだろうか。
しばらく小さく唸りながら歩いていたものの、都民の義務としての責任ある一票は投じるとしても、自分の天命は法律に関わるものではないことに気づき、自分がなすべきことに集中しようと気持ちを改めたのだった。

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