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線路は続くよ

 まだまだ風の冷たい2月の上旬。何だかんだで、次男は幼稚園を長いこと休む羽目になった。それも合計3週間。
人との接触は避けなければいけなかったが、基本、身体は元気で体力も時間もありあまっている。私たちはボールだけ持って、誰もいない公園に遊びにいった。

 2人だけの公園はすぐに飽きてしまう。遊具も触らせてあげられない。でも落ちている棒なら‥。私が何の気なしに丸を描くと、次男はアンパンマンを描き始めた。
3つ目くらいで変なアンパンマンだと思って見ると、へのへのもへじだった。令和の6歳児も、へのへのもへじを知っているのだな。幼稚園で教えてもらったらしい。

 その次は、大きな丸やら小さな丸をつなげて、ケンケンパ。今の子どもたちは、アスファルトの地面に軽石で絵を描いたりはしないので、ケンケンパなんて知らないかと思ったら、これもどこかで覚えたらしく上手に跳んでいる。
大人と子どもは歩幅が違うので、互いの描く円が意外と跳びにくくて面白かった。身体もぽかぽかと温まった。

今度は線を描いてみた。3年ほど前になるが、息子が遊ぶには、当時遊具は対象年齢が高すぎて、グラウンドで電車ごっこをしたことを思い出したのだ。
 貸切状態のグラウンドに、ひたすら線を引いて線路にする。その時のことは忘れていたであろう次男も、すぐに意図を理解して線路を伸ばし始めた。真っ直ぐだと描くのに飽きるので、時々くねって戻ってくる。たまに駅を描き、そしてまた線路を継ぎ足して路線を増やす。

気がつくとトンネルや踏切、そして車用の道路や信号まで加わった町ができ始めていた。私たちはそれぞれ自由に線の上を走り回った。
特急で駆け抜け、疲れたら鈍行列車になるか、駅で休憩する。正面衝突しそうになったらその前にジャンケンぽん。元々乗り物好きな次男は嬉々として電車になり、駅員になり、そしてまた踏むたび薄れていく線路の補修工事をした。

そうこうしているうちに、予定外のことが起こった。それまで、犬の散歩に立ち寄る人以外誰も来なかった公園に、下校途中の中学生たちがやってきたのだ。試験中なのか入試前の懇談期間か。6、7人の男子生徒たちは談笑しながら公園に近づいてきた。
 次男は何も言わず私の隣に戻ってきた。
女子は、誰かと帰る時でも大抵は2、3人か、あまり5人を越える人数では見かけないが、男子は中学生でも、結構こんな風にワイワイ集団で帰ってきたりするんだなぁ。そんなことを思いながら離れて見ていると、何人かが足元の線路に気がついた。
 お、という感じで線を消さないように避けてくれる。それに気づいた他のメンバーも地面に目をやって、これは何?柵?俺ら囲まれてんの?などと笑いながら足を止めて、離れた次男に目をやると、これまた線を踏まずに越えて行った。お前よー、遊んでんの邪魔したら悪いやろーなどと小声で照れ臭そうに言いながら、通過していく。私は、いえいえ全然邪魔なんかじゃない、むしろ気づいてくれてありがとうと胸の中で言いながら、軽く頭だけ下げた。

 彼らも数年前はこの公園で遊んでいたんだろうなぁ。ボール蹴ったり、枝拾ったり、鬼ごっこしたり。電車ごっこもしただろうか。したことのない子もいたかも知れない。彼らがグラウンドを横切る時、足元をうらやましそうに見ていると思ったのは、私の気のせいだろうか?

 私はちょっとだけ、彼らと息子とが一緒に電車ごっこをしている様子を想像してみた。うん、楽しそう。そして、今度は息子が中学生になったところも想像してみた。こちらはあまり想像できなかった。

と言うより、それはまだおいておこうと思った。まだまだ、地面に描いた線路を、走り回っていて欲しい。どこまでも自由に線路を描いていて欲しい。そうだ、2歳上の長男にも、今度また電車ごっこを誘ってみよう。案外乗り気になって線路を走りまくってくれるかも知れない。

 正午を告げるチャイムが流れ、私は次男を連れて公園を去った。さっきの中学生たちは少し離れた樹々の根元に鞄をおいて、何人かは喋り、残りの数人は追いかけっこをしていた。楽しそうだった。

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 せんろはつづく という絵本があります。

竹下文子さん 作、鈴木まもるさん 絵のこのお二方の作品は人気があってシリーズにもなっているようです。
 次は?次はどうする?とワクワクしてしまう、想像力の余地が残されていること、暖かく優しい絵柄だけれど、乗り物や背景に丁寧な描写があって、ことばにはなくとも各ページに発見があること。
文字数が少ないので小さい子にも読み聞かせしやすいですし、我が家は比較的大きくなってからでも自分で引っ張り出してよく読んでいます。
電車好きな子どもにはもちろん、特に乗り物に興味のない子どもでも楽しめる、素敵な絵本だと思います。ぜひ。



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