クロ神様は、生き残りのポンコツ信者のせいで大変です。

第五話 化物よりも化物らしい


「グギャ、ギャキャス、ギャィア」

 ここはいい洞穴だ。人間たちからは気づかれにくく、水場も近い。獲物もトロイ奴が多い。それに……

「グギャ? ギャギャギャギャ、ググ、グギャ、ギャッ、ギャ」

「ギャギャ! ギャッギャ!!」

 今日も真昼間から、人間のメスが森の中を護衛もつけずに歩いている。最初は罠かと思ってボスに連絡して警戒体制を取ったが、メスの他には誰もいない。絶好の獲物だった。

「グギュギュギュ、ギャギャ、ギャァ、グギャ、ギャグィ、ギャギャ」

「ギャフフフ! ギャッギャ、ギャッギャ、グギュギュ!」

 相棒はすっかり有頂天になっていた。この前捕らえた人間と子どもを作った記憶が蘇ったのか。ゲスな笑みを浮かべて、下腹部を膨張させる。

 ゴブリン同士で子どもを作るよりも人間と作った方が強い個体が出来やすい。
 ゴブリンの女と人間のオスが子どもを作れば、ゴブリンの力がさらに強化され、好戦的で道具を使うのが上手な個体が。
 ゴブリンの男が人間のメスと子どもを作れば、少々非力になるが頭脳、手先の器用さ、邪悪な思考、カリスマ性に満ちた個体になるのだった。

(オスよりもメスの方が捕らえやすい。それに珍しい杖持ちだ。きっといいゴブリンメイジを産むだろう。俺も楽しみだ。何人子どもを産ませられるか。あのメス細いから)

 そう思いながらも、仕事は仕事。人間を襲う時はいつも命がけの危険な男の仕事である。なので単独行動はせず、仲間と共に確実に襲う。

「グギャ、ギギギギギ! ギャース! ギャギィギギギギギ、ギャース!!」

 相棒と一緒に森に潜んでいる仲間に合図をだす。すると一斉に獲物に向かって飛びかかる仲間。これで決まったと思った。人間の気配が変わるまでは。

「臨戦態勢……どおりゃあ!!」

 人間は木製の杖を同胞たちに向かってフルスイングする。すると飛びかかった仲間の首が一匹残らずへし折られた。

「ギャッ……?」

 目の前の出来事が信じられない。いきなり人間の発する気配が変わった。何の強さも感じられなかったメスが深く冷たく禍々しい怪物へと変貌する。

 少女は折れた杖をつまらなそうに投げ捨てると辺りを見渡す。そして、囲まれていることを理解すると、人間がしないようなおぞましい笑顔を見せるのだった。

「アア、コレモクロサマノオボシメシデスネ。コンナニカンタンニ、ミツカルナンテ。ジャアコロシマショウカ。イッピキノコラズ」

 カウンターを決められた。クリティカルだった。武器を両手持ちで使っていた。一撃で殺される要因はいくつもある。

 だが、勝てる気が全く起きない。

 そいつは、同胞の首を持ち上げるとそこからこぼれる緑色の血をマズそうに啜る。それは次はお前たちがこうなるという恐ろしい宣言だった。

「グギャャャャャャャャャヤーーーー! グギャャャャャャャャャヤーーーー!」

「フゥ……ヨウヤクサケンデクレマシタカ……アリガトウゴザイマス。ソレデハ、バイバイ」

 ガチャガチャと金属が擦れる音がすると、突然メスの体が上下逆さまになる。
 なんのことか分からなかったが、視界に入ったそれを見て驚く。なぜならそれは首が強引に断ち切られた自分の体だったからだ。


「98、99、100、しゅーりょーっと」

 明らかにゴブリンの討伐依頼という括りではない。大量発生のレベルだった。そのせいで腕の数字はすごいことになっていた。

「あっ……半殺しにすればよかった」

 私の腕に刺青のように複雑な紋様が浮かび上がる。それは私の強さの一部であり、厄介な点でもあった。

「罪過って強いけど戦闘の後は不便ですね……」

 次々と襲いかかってくるゴブリンの首を折り続けて百匹目。短時間に殺し過ぎたせいか罪過がたまりきっていた。これでは視界に入った知的生物を皆殺しにしてしまう。

「クロ様……どうしたらいいんでしょうか。これ?」

 すると今は起きていないのか。作ったような甲高い女性の声が鳴り響く。

『命の弄びと、異常者、の称号を、破棄します? それか、街の外で、野宿。キャンプだ、キャンプだ。わーい、嬉しーなー?」

私の脳内に舌足らずで調子外れの音が響く。最初は大人なお姉さんだったのに。その人は年々小さくなっているのだった。

「うえぇぇぇ……メグさんと違って私はお外で寝るのきらいです。それにこれは私の気持ちだから……捨てたくありません」

 私は眉間に力を入れて合言葉を言う。

「ステェタスオープン」

 すると目の前に触れない透明な板が出現し、そこに複雑な文字が浮かんできた。

 クロ様曰く、これは私の全てを数値化したものらしい。

 なんて読むのかは全く分からない。だけど、どんな効果かは、不思議とスラスラ理解することが出来た。

「それにしても……闘いに関するものばっかりです」

マリアレベル25     

お祈り増長ギプスレベル3装備 

体力 11000(33000)

攻撃力 552(475+950+232=1657)

防御力    189(160+320+80=567)

魔法攻撃力 56(168)

魔法防御力 50(150)

敏捷力 245(510+205=735)

神威  114(342)

知性  63(190)

神へのお祈り 6170(18510)

「むむむぅ……やっぱり私って冒険者としてめちゃくちゃ才能ないのでは……コンジキとシロガネなかったらヒトぐらいしか殺せません……」

 神威増大ギプスで能力値が落ちる前でも一般的な冒険者の能力値よりは低かった。それに通常時のスキルも一つしか覚えていない。

スキル

『臨戦態勢』

使用神威 100   

効果 全ての能力値を五倍にする。また発動時に自分にかかっている全ての状態異常を無効化する。臨戦態勢使用時は新しいスキルが追加される。

習得条件 細胞に備わっている神威リミッターを全て外し、肉体を人間の限界以上に活性化させる。

称号

『命の弄び』

効果 知的生物を殺すたびに罪過カウンターを一つ乗せる。最大200個貯まる。

習得条件 知的生物を、ごくごく短時間に百匹殺す

『異常者I』

効果 罪過が乗せられる時にカウント一つ乗せる代わりに二つ乗せる。

習得条件 知的生物を殺す時に一切の罪悪感を抱かず、楽しんでいること。

(罪過)状態以上 罪過

攻撃が当たった場合、その対象の防御力を無視して罪過カウンターの数×1%の武器を除いた攻撃力を与える。

また、罪過カウンターが貯まっている場合、大事件を起こす確率が1%増加する。


 これを見ると自然と胸に暖かい気持ちが湧く。これは私のクロ様に対する敬愛のトロフィーだ。消すなんてもったいなさ過ぎる。やはり野宿で我慢するしかないようである。ぐすん……

『マリア、さん。それでは、新しく称号上げるから、野宿で我慢して、ください。はい』

 気の抜ける掛け声と共に頭の中で音楽が鳴り響く。すると脳裏に称号が刻まれた。

『ゴブリンキラーI』

 効果 ゴブリン系に対する攻防力が5%乗算される

 習得条件 ゴブリンを累計百匹殺す。


「……地味です。なんというか……えぇ?」

『ゴブリンキラーⅤ、まで取れば結構使えますよ。それとも、マスターさん、起こしますか?』

「いや、メグさんそれはやめてください。クロ様を起こしたくありません……」

 神威を使った影響か、クロ様はぐっすり眠っている。ぐっすり眠っているということは起こしたらかなりフキゲンになるのだった。

(頭吹き飛ばされたのは怖かったなぁ……後は手足もぎられたの。普段はあんなに優しいのに。クロ様ってたまにすご〜く怖くなる)

 思い出すだけで身の毛がよだつ。そうしていると同胞の血の匂いに惹かれたのか。ゴブリンたちが騒ぎながらやってきた。

「ギャギャ! ギヤァァァァァ!! ギャギィィィ!!」

 今度は棍棒、包丁、鉈、斧、鎌、などの生活用品で武装した一般兵ではない。
 服や鎧、ローブを着た人間の身長程度の戦闘兵がゾロゾロと出てきた。彼らは大剣、槍、弓、盾、杖などで武装していた。

「いい目ですねぇ……実に殺しがいがある。ゾクゾクするじゃありませんか」

 彼らは憎悪の瞳で私を見つめるが、ちっとも怖くない。むしろ、新たな敵の出現に高揚感が増す。私は興奮のあまり舌なめずりをした。もっと殺したくて殺したくて殺したくて仕方がなかったのだから。

「メグさん。ゴブリンキラーⅤの取得条件って、どんな条件でしたっけ?」

 私はロッドを地面に捨てるとコンジキとシロガネを抜刀する。そして神威を一気に解放させると一足で後衛に辿りつき、弓持ちの喉笛を噛み切った。

「ギィ……」

 弓持ちの目の光が亡くなる。即死だった。当然である。神威を解放した顎の頑丈さならそこらの獣以上の力があるのだから。

「うん、いつ食べてもまずいですね。マズマズです」

「ギィギャ! ギャギィィィ、ギィャア!」

「おっととと、これじゃあ食べづらいですね。てや……」

 グチャグチャと仲間の肉を噛むのが恐ろしいのか。数で優っているのに彼らの攻撃は今ひとつ精細に欠ける。その隙をついて死体を盾にして彼らから大きく距離を取った。

 仲間の死体が使われたことに、ゴブリンは起こったのか。リーダー格のゴブリンが吠える。

「コロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥゥゥ!!」

 すると仲間の目が一気に赤くなる。恐怖を『スキル』で強引に打ち消したらしい。先程までは訓練を積んだ兵士だったのが、咆哮で死兵となるのだった。

 これは珍しい。魔に属するものの癖に共通言語が喋れたのか。ならばアイツを活かしておけば色々分かるだろう。
 そうして腹を満たしているとメグさんが、ゴブリンキラーⅤの取得条件を教えてくれる。

『えーと、ですねー。取得条件はゴブリンを累計1000匹ですね。がんばって、ください。マリアさん』

「はい。きっちり殺します。お金欲しいので」

 まずは、取り巻きを蹴散らそう。そうしたら、あいつを尋問する。我ながらナイスプランである。

「グギャヤァァァァァァ! ギャァァァァァ!」

「ははは……怒ってる。怒ってる」

 こうして私は、ここらでめぼしいゴブリンは全て狩り尽くすのだった。

『ゴブリンキラーⅤを取得しました』

 効果 ゴブリン系に対して攻防力が30%増します。

 取得条件 ゴブリンを累計1000体倒す。



用語集 『称号』

『命の弄び』 

効果 知的生物を殺すたびに罪過を一つ乗せる。最大200個貯まる。
習得条件 知的生物を、ごくごく短時間に百匹殺す
フレーバーテキスト その者は、命を刈りとる死神だ。決して隙を見せないように。なぜならば気づいた時には背後にいるのだから。

『異常者』 

効果 罪過が乗せられる時にカウント一つ乗せる代わりに二つ乗せる。
習得条件 知的生物を殺す時に一切の罪悪感を抱かず、楽しんでいること。
フレーバーテキスト 高度な知的生命体なら良心の呵責に囚われることもあるだろう。しかし、その者は一切の罪の意識を感じない。内臓が破裂し吹き荒れる血の匂いに、肉から飛び出す白い骨の美しさにどこまでも魅了される。

『ゴブリンキラーⅠ』

効果 ゴブリン系に対する攻防力が5%乗算される
取得条件 ゴブリン系を累計100匹殺す

『ゴブリンキラーⅤ』

効果 ゴブリン系に対する攻防力が30%増加する。
取得条件 ゴブリン系を累計1000匹殺す


フレーバーテキスト 緑の奴らが憎い。奴らを殺した数は奴らと戦うさいに大きな手助けとなるだろう。手にした、強靭な矛と、堅牢な盾で奴らを殺し尽くせ。

称号はI〜からⅤまで存在して経験値を貯めることや神威で無理やり獲得することができる。また神威でレベルの強化も可能。しかし、神威で称号の取得条件を無視することや、レベルを上げることは生物に取って推奨されない。

神威による称号の成長や獲得は魂の記憶に、悪影響を及ぼす。またなんらかのきっかけで称号の効果が発揮された場合、目眩や頭痛、記憶障害など悪影響を及ぼす。

なお、これは使用するたびに徐々に改善されるが、そういう者は金にものを言わせて教会に多額の寄付をして称号を買うので効能が使われることは滅多にない。

状態異常

罪過

 攻撃が当たった場合、その対象の防御力を無視して罪過の数×1%の武器を参照した攻撃力を与える。また、これは他の効果の影響を受けない。
 また、罪過が貯まっている場合、大事件を起こす確率が1%増加する。


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