ジョン・ケージが、文字通りニンジンを二、三本さげて出てくるところに出くわしたものである
池田満寿夫(1934-1997)は世界的に活躍していた版画家である。これは2刷で小生が武蔵美に入る年に出ている(初版は前年)。むろんこの本を読んだのはもっと後になってからだったと思うが、ニューヨーク暮らしの実際が気取らない文体で描かれていて面白かったし、アーティストとしての外国暮らしが羨ましかった。池田が『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞するのはもう少し後の1977年。
久しぶりに古本屋の均一コーナーで出会ったからなつかしさもあって買ってみた。勝井三雄(1931-2019)の造本もいかにも70年代の新しい波を感じさせる(タイトルの書体を見よ!)。筒箱、幅広の帯、見返し、扉、コラージュの挿絵を入れた章扉、そして凝ったノンブルにいたるまで勝井デザインで貫かれている。ちょっとはしゃぎすぎな感じもするけれど、均一コーナーのなかでは「おやっ」と思って手に取りたくなる装幀であることは間違いない。
本書は『朝日ジャーナル』での連載に書き下ろしを加えたもの。「ヤスオ・クニヨシ狂騒曲」などは南天子画廊の青木氏のクニヨシ買いについて書かれた貴重な記録だと思うが、ここではスルーして、ニューヨークのアーティストたちを描いた「芸術家の生活」から少しばかりメモしておこう。
池田は中国大陸で生まれ、敗戦の年に帰国して郷里の長野県へ戻った。都会へ出てゆくことを熱望した青年時代だったそうだ。高校を卒業して東京へ出た。
たしかに小生も四国は讃岐の出なので、東京に住んでいたときや、ときおり滞在したりするときに、必ずと言っていいほど有名人に出会うということについては、さすが東京だな、と思わないではいられなかった。たとえば、電車のなかで出会ったのは田中小実昌と加藤一二三、道路ですれちがったのはデビューして間もない田中裕子(はつらつとしてました)など。その姿は今でも脳裏に焼き付いている。
もう一篇、「ニューヨークの日本人画家」も面白い。当時、ニューヨークには日本人画家が約600人以上住んでいると言われていた。画家以外の芸術家(劇場関係者、音楽家、デザイナー、写真家等)も加えると3000人は住んでいるとも。サラリーマンを含めて日本人全体は約2万人が常住。
池田が初めて渡米した1965年には荒川修作、河原温、大館年男、アイ・オー、川島猛、中川直人、吉村二三生、近藤竜男、大橋豊、脇田愛二郎、豊島壮六、草間弥生、木村利三郎、飯塚国雄、福井延之らが来ていた。
いかにもありそうな構図だ(たしか戦前のパリにも同じようなことがあった)。O画伯は岡田謙三か? ならば、I 画伯は猪熊弦一郎だろうか。K画伯はさて? などと想像をたくましくしてみるのも一興である。
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