村上春樹『ノルウェイの森 上』(講談社文庫、2005年5月16日5刷)、『ノルウェイの森 下』(講談社文庫、2004年9月15日1刷)。
村上春樹全作読破! するつもりは全くないが、何十年ぶりかで再読した。1987年が初刊だから、それからあまり経っていない時期だったと思う。単行本で読んだ。しかし、正直、ほとんど何も印象が残っていなかった。ただひとつ、小林書店のくだりはおぼろげながら覚えていた。
この描写には町の書店に対する偏見が満ちている?(もちろんヒロインの一人「緑」の意見ですので村上氏の見方そのものではないかもしれません)。同じような書店を経営していた人なら、このくだりを読むと、きっといろいろ違和感があるんじゃないかと思う。《文房具まで売ってるのよ》って丸善だって昔から売っている。
緑の父が死んで、書店をついに手放すことになる。
主人公のワタナベ君は、この夜、緑とふたりでこの店(緑の実家ということです)に泊まるが、関係はもたない(それは物語の最後までつづく)。緑が寝息をたてはじめたので「僕」は何か本を読もうと階下へ向かう。
1960年代末の性風俗のさまざまな様相をストレートに描いてみせた小説で、あられもないと言えばあられもない。小説の結構は、例によって三角関係の重なり合いであり、ユートピアへの逃避と逃避からの脱出という『街とその不確かな壁』(新潮社、2023)にもくりかえされている村上のオブセッションである。