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私は一瞬どきんとしたことがある


坂口安吾「花妖」の『東京新聞』連載第17回のコピー
「らんぼお」の開店広告

坂口安吾「花妖」の新聞連載第17回のコピーを頂戴した。この小説は『東京新聞』紙上で昭和22年2月17日から5月8日まで連載されたが、打ち切られ、未完に終わった。挿絵が岡本太郎というのも注目に値する。

坂口安吾 花妖
https://ango-museum.jp/work-detail/?w_cd=0203

ただし問題は小説ではなく、そのタイトルの横に掲載されている「らんぼお」の広告である。写真では読みにくいかもしれないので文面を引用しておく。

文画壇人後援による喫茶と酒場
十日開店
三日間一流作家、画家の記念冊子呈上
らんぼお
急求麗人
教養ある二十五歳までの方特に優遇す
神田神保町一(富山房うら)

ここで言う記念冊子が『蘭梦抄』であろう。開店披露会は3月9日と10日の両日、文化人を招いて行われた(『本の手帖』別冊、1970、p185)。

母音
https://sumus2013.exblog.jp/25413585/

この「急求麗人」広告を見て鈴木百合子こと武田百合子が面接に来て「らんぼお」のウエイトレスに採用された、のだったらビックリ仰天なのだが、拙著『喫茶店の時代』(ちくま文庫)によると、玉チョコレート売りとして何度も店にやって来ているうちに二階に住み着いてしまったというのが本当のところのようである(p281、出典は武田百合子『遊覧日記』)。

巖谷大四『戦後日本文壇史』から「らんぼお」時代の武田百合子についての描写を引用しておく。いかにも魅力的な女性だった。(『文芸朝日』昭和38年6月号掲載、『本の手帖』別冊、1970、からの孫引き)

 幾分赤味をおびた、ふさふさした髪の毛の下の丸顔は小さく、そのために、一層眼のパッチリと大きいのが目だって、茶色い眼がうるんでいるようで、うけ口のように見えるいく分つき出た下唇が異様に赤く、キカン気で、また無類に天真爛漫のように見えた。
 新宿のハモニカ横丁で、どこからか買ってきたアイスキャンデーを、道ばたの石にちょこんと腰をかけ、赤い唇をあてて、むさぼるようにしゃぶるのを見た時は、妙に新鮮で、西部劇に出てくるカラミティー・ジェーンを思わせ、私は一瞬どきんとしたことがある。

『本の手帖』別冊、p190

カラミティー・ジェーンは西部開拓時代に実在した女性。ドリス・デイ主演の映画「カラミテイ・ジェーン」(1953)が日本で封切られたのは1955年である。

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