2年F組

「朝ごはん食べないから!」
「ちょっと…」
背中に降りかかる母の声を
勢いよく背負ったカバンで跳ね返して
玄関扉に手をかける。

日の光が眩しい。
くぅー。
両手を高く伸ばして深く息を吸う。
はぁー。
そして私は、冨田沙里になる。

「おっはよーう!」
「サリー!あのさ!」
「数学の宿題でしょ?」
恵理子は上目遣いでキュッと唇を結んでる。
「おっけーおっけー」
春風に黒髪がなびいて甘い香りが鼻に触れる。
「ありがと!ほんっと、ありがと!」
甘い香りより鼻に付く態度に
眉間のバランスが崩れて少し焦る。
おもむろに取り出したメンソールを
唇に塗り込んで「沙里」に戻る。
「数学の授業始まるまでに返してよ」
「うんうん!絶対返す!」

ありがとう、ありがとう、ありがとう、
鼓膜をトランポリンにして
恵理子の声が頭の中で跳ね回っている。
嫌い。
嘘、嫌いじゃない。
「沙里」は誰のことも嫌いじゃない。

ペットボトルのキャップをひねって
気持ち悪い感情を押さえ込む。
喉に冷たいミルクティーを流すと
ごくりと鳴った。

コーヒーとシロップ / Official髭男dism


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