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木曜日よりの歯医者

歯医者の先生が優しい。木曜日の先生がいつも優しい。三十そこそこの男の先生だ。

歯を削られるのは全然平気だ。正直麻酔は得意じゃないけど、でも嫌ってほどじゃない。先生は「痛かったら左手を上げてください」って言ってくれるけど、まず上がることはない。僕の左手は腹の上から微動だにしない。そうすると先生が段々心配しはじめて、「無理しないでくださいね」って何回も言ってくる。本当に無理はしていないのだ。

削るのは全然平気なのだが、唾液が喉に流れて苦しくなることがある。それで眉間にしわが寄ってしまうと、すぐに手を止めて「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!?」と聞いてくる。早く終わらせてくれたほうがありがたいんだけど、その度中断されてうがいをうながされる。

そこまで心配されると、むしろ「痛い」って言わなきゃいけないんじゃないかという思いにかられる。仕方なくちょびっとシミたときに遠慮がちに左手を上げてみた。先生は、多少嬉しさも混じった調子で「わかりました!」と言い、追加の麻酔を打ってくれた。正直麻酔は得意じゃないけど、それは絶対に言えない。

次行くのは年明け。次回予約を聞かれたのだが、あいだも空くし、固定の担当医を決める医院ではないので、次はいつでもいい。先生に「いらっしゃるのは木曜日だけですか?」と聞くと「そうです」と答えた。僕は「じゃあ木曜日にします」と言うと、マスク越しでも分かるくらい笑ってくれた。

18年ぶりに通い始めた歯医者だし、技術的なことは一切わからない。でも最後までこの先生のお世話になろうと思う。

PORTRA400の写真。やっぱりいいなあ……。

お金よりも大切なものがあるとは思いますが、お金の大切さがなくなるわけではありません。