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2016年末に降る雪は

メリークリスマス! こんな日に一人ですごのにぴったりの曲を紹介するよ! 音楽の好みなんてひとそれぞれだから、どうせ趣味合わないだろうと思ってここで読むのやめちゃうかもしれないけど、せっかくのクリスマスなんだから最後まで読んでってくださいよ。一人で過ごしているなら、私はあなたの味方です。

キリンジの「千年紀末に降る雪は」。貼った動画はビルボードで行われたライブ映像だけど、本当は原曲で聞いてほしいから、買うか借りるか、Apple Musicに登録している人はぜひそちらで。

実は先日、星野源と秦基博がそれぞれラジオでこの曲をおすすめしていて、特に星野源はこの曲の詞について結構具体的に話していた。多分に重複するけど、本当に素晴らしい詞なので書いてしまおうと思う。作詞は堀込高樹さん。なんでさん付けなのかは後述するけど、作詞家としても僕が一番好きなミュージシャン。

戸惑いに泣く子供らと 嘲笑う大人と
恋人はサンタクロース 意外と背は低い
悲しげな善意の使者よ

何のことを歌っている曲かというと、サンタクロースが信じられなくなった現代におけるサンタクロースの悲哀。いきなり本物のサンタが現れて、子どもは恐がって泣いちゃうし、大人たちは馬鹿にして笑っちゃう。「恋人はサンタクロース」はユーミンの曲から持ってきてるけど、「意外と背は低い」の現実的な物悲しさ。

曲はひたすらサンタの悲しさを綴っていく。何百年もプレゼントと愛を子どもたちに配り続けてきたサンタ、時代にそぐわなくなった彼にだれが愛を返すのか。ひたすらサンタ追い詰めた挙句、最後の方でこんな詞が出てくる。

知らない街のホテルで静かに食事
遊ばないかと少女の娼婦が誘う

世界中でプレゼントを配り、一休みに立ち寄ったホテルで本当に辛い現実を目の当たりにする。ここまで書くか。

ではこの曲はひたすら悪趣味な詞なのかというと、決してそんなことはない。

My old friend, 慰みに
真っ赤な柊の実をひとつどうぞ さあ、どうぞ

真っ赤な柊の実というのは「赤鼻のトナカイ」のこと。トナカイがサンタに鼻先を寄せていく様子が描かれる。なぜ「トナカイ」と書かないかというと、トナカイは自分をトナカイとは呼ばないから。つまり、この一文によって、この詞がトナカイの視点で書かれていたことがわかる。この孤独なサンタに、トナカイだけはずっと寄り添っていたのだ。

絶望的な状況の中に見出される「愛」だからこそ、より美しく見える、見事な詞だ。他にも堀込高樹さんの作詞家としての凄さはこんなところにも出てる。

帝都随一のサウンドシステム響かせて
摩天楼は夜に薫る化粧瓶

この、空から眺めた東京の街の描写。「サウンドシステム」は野外のイベントとかで使うでかいスピーカーを積み重ねたやつで、それを「響かせて」重々しいビル群に例えてる。そして電波塔や尖ったビルを化粧瓶に。このたった30文字足らずで、夜の東京の光景という視覚だけでなく、聴覚と嗅覚にも訴えかけている。どうしたらこんなの書けるんだよ。

とまあここまで来て後出しジャンケンなんだけど、実は以前堀込高樹さんにインタビューして、軽くこの曲について聞いたことがあった。

堀込:ねえ、なんだったんでしょうね。昔のなんか全然わかんないんですよ。「千年紀末に降る雪は」(『3』収録)って曲があるんですけど、もう何を歌いたかったのか忘れちゃって(笑)。
リアルサウンド

これだけの完成度なのに、実はまだその奥に意味があると。まじですか。これ原稿だとかなり端折ってるけど、「サンタ」とか「トナカイ」とか「摩天楼」とか、それぞれのパーツがパズルみたいに入れ替えられるようになってるって言ってた。

堀込高樹さんの歌詞は本当に縦横無尽というか、こういう詞を書いたと思ったら、どストレートな情感を書いたりとか、風呂だけをテーマに書いたりとか、かつての歌謡曲にあった、詞を聞く喜びがある。詞というより、俳諧とかに近い気がする。それって当時のポップスと言えるものだ。現代のポップスの詞とはどういうものか、ということに凄く意識的な人なんだと思う。

本当はデビュー前に書いていた「乳房の勾配」という、本当にどうかしてるとしか思えない(褒め言葉)、ひたすらベッドでいちゃついてるだけの曲についても書きたかったんだけど、もう書きすぎたから今度に。この曲がほんとすごいんだよ。だってタイトルが「乳房の勾配」だよ。恋人と過ごしてる人はこっちを聞くといいよ。恋人との曲じゃないけどな!

では、世界中の人たちが、少しでもマシな2016年末の一日を送れますように。


お金よりも大切なものがあるとは思いますが、お金の大切さがなくなるわけではありません。