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木曜日の先生、ありがとうございました

木曜日は歯医者の日。今日もいつもの死ぬほど優しい先生に、軽めのところを二箇所治療してもらった。最初に歯科医院の門をくぐってから三ヶ月、この歯医者通いはいつまで続くのか、一度も先生に聞いたことがない。それは自分への戒めである。

18年間放置した自分の口腔、神経一つ、歯一つ取ることなく済んだこと自体が僥倖であり、早く終わってほしいなどと思うこと自体がおこがましい。いつ終わるともわからない歯科治療でも、当然受け入れるべき。ましてや(ちょっとの狂気は備えているけど)死ぬほど優しい先生にそんなことを求めるなんて、お前は何様のつもりか。という理由だ。

今日の治療は麻酔無しでさらっと終わった。次回はもう一箇所軽めのところやりましょうとのこと。まだあるのか。いや、なにを調子に乗っているんだ俺は。必死に笑顔を取り繕い「はい!」と元気よく返事した。

受付で支払いを済ませ、次回予約日を決める時にそれは起こった。もちろん僕が来たいのは木曜日。死ぬほど優しい先生は木曜日にしかいない。ところが受付の女性は来週木曜日は休診日なので、他の曜日はどうかと聞いてくる。いや、だったら再来週でもと言いかけたところで、死ぬほど優しい先生がやってきた。

「あの、僕ここ今日で最後なんです」

そんな……! うそだ! そりゃ僕は人生の内半分で歯医者を無視して生きてきたよ。だから歯医者のことなんてなんにも知らない。歯医者の腕が良いとか悪いとか一切判断できない。でも先生の優しさだけは知ってる! 腕なんてどうでもいい! 僕は先生に決めたんだ! この僕の18年分の虫歯を、全部先生が受け止めてよ!!

もちろんそんなことを口に出したら、心の方の病院に送り込まれる。そうですか、残念です。今まで本当にお世話になりました。とお礼を言った。先生は遠方の歯科医院に固定で入ることになったらしく、都内からは到底通うこともできない距離だった。受け入れるしかないことなのだ。

僕からのお礼に恐縮しながら、先生はこう言った。

「治療が必要なのは、あと一箇所です。それが終わったら、以前から言っている親知らずを一本抜くことになります。もうすぐ終わりですので、がんばってください」

僕が聞きたくて、聞きたいと思うことさえおこがましいと思っていたことを、先生はさらりと教えてくれた。もちろんこの僕の気持ちなんて知るよしもない。だけど、狂気に達する優しさが突き抜けすぎて、もはや超能力レベルで、僕の抱えていたものに応えてしまったのではないか。ここまで書いて、やはり心の病院も必要な気がしてきた。

いつも木曜日の午後は、麻酔がきいてじんじんしながらオフィスで仕事をするのだけど、今日だけは目頭をじんじんさせながら原稿校正をした。先生、本当にありがとう。新しい場所でもがんばってください。

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お金よりも大切なものがあるとは思いますが、お金の大切さがなくなるわけではありません。