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豊島紀 ①銀河戦決勝トーナメント1回戦

毎日二十時間ぐらい豊島将之のことを考えていて仕事にならないので(どうも睡眠障害に陥っているようで毎日四時間ぐらいしか眠っていない。豊島のせいじゃないとは思うが)考えていることを文章に残すことにした。豊島将之と将棋とそこからつながる主にくだらない話になると思うのだがとにかく吐き出さないことにはどうにもならないので書きます。毎回ムダに長いと思います。長文好きなので。なお、基本、人名は敬称略です。

なんで今日から始めたかといういと今日から12月だというのもあるけれど豊島の対局がある日に対局見ながら何を考えてどう過ごしてるかを記録しようと思ったのである。バカ者の記録である。

そして今日は銀河戦の対局が囲碁将棋プレミアムで放映される。なので本日からはじめることにしました、豊島紀。(って言ってたら書くのに時間がかかって公開日が12月2日になってしまった)

話はちょっとそれますが、新銀河戦というのも今年できたが、新銀河という名称はどうかと思う。洗濯機か。

豊島についての思いを吐露するといって始めたnoteの一発目に中山美穂の東芝新銀河……こっちのほうがどうかと思うが、
1992年といえば豊島将之2歳。
まだ将棋はおぼえていない。そして新銀河が豊島のオムツを洗ったかもしれない。……当時もう紙オムツの時代ですか。

で、この銀河戦をリアルタイムで見るにはCSの『囲碁将棋チャンネル』か動画配信サイトの『囲碁将棋プレミアム』に入らないといけない。うちのテレビにはBSやCSのアンテナがつながってないし、「パソコンで豊島の対局を見ながらその横にエディタ出して仕事したらいいじゃん!」と思って『囲碁将棋プレミアム』に課金した。しかしこの計画は失敗だった。

豊島が対局してたら仕事なんか手につきゃしねえのだった。

まあ手につこうがつくまいが豊島を見ないという選択肢はないので『囲碁将棋プレミアム』に登録したことは正しい。ふつうこういう有料動画サイトってのは「初月無料!」で客引きをするものだが、囲碁将棋プレミアムは登録した瞬間から金を取られる。堂々たる商売だ。でも私は好きになったものに関しては小銭は惜しまないので喜んで払った。

(最近、youtubeに『囲碁将棋プラス』という有料チャンネルも開設され、そっちは「囲碁将棋プレミアム・ライト」というか下位互換的なチャンネルのようだがそっちも登録した。というのも、『囲碁将棋プレミアム』を見てるとパソコンのメニューバーからボリュームボタンはじめいくつかの重要なボタンが消えるのである。これはNetflixやNHK+でもそうなるので(TVerもちょっと前までそうだったが今は改善した)ある種の動画とMacOSが不具合を起こしてると思われる(単におま環ってやつかもしれないが)。youtubeならそういう不具合がないから囲碁将棋プレミアムでしか見られないものだけをそっちで見ようと思う)

ということで、ボリュームボタンが消え不便であるが囲碁将棋プレミアムで銀河戦を見る。21時時放送開始。やけに遅い時間であるがこの銀河戦というのは「早指し将棋」で早く終わる。……というだけじゃなくてこの対局はもうとっくに終わってるのである。録画中継。たぶん八月か九月の頭には終わっている(放送が始まったら9月2日収録とテロップ出てた)。

でも結果は秘密にされてるんですよ!

放送するまで結果は内密。密室で二人っきりで指して自分たちで計時して棋譜とって勝敗は二人の胸の裡、っつーならまだ納得もするが関係者とか他のトーナメント出場者とかこの対局撮ってる囲碁将棋チャンネルの人やメディア関係者、みんな結果は知ってるんだよ! 他にもこういうのはあって、毎週日曜日にNHKでやってる『NHK杯将棋トーナメント』もそれ。終わってるのに結果は秘密。

こういうの、どっかの棋士か記者がスナックのママとかに「さっき銀河戦終わってさー、あヤバイこれナイショね」的に漏らしちゃって、そんでスナックママも将棋なんか興味ないもんだから藤井聡太の話題以外すぐ忘れちゃって結果的に秘密は守られたが……みたいなことはないのだろうか。宝塚歌劇団のスター退団情報とかもときどき「お漏らし」みたいなことが起こってるし、こっちだってどっか漏れるとこでは漏れてると思うよ。

(隠されたものは暴きたいのが人情であって、公式記録や書面や棋士たちの予定や関係者の一見無関係な発言からトーナメントの勝敗を割り出す、という「分析班」もいて、そこではすでに今年の銀河戦の優勝者も9割がた特定されたりしているが、まあそれはそれということで)

で、中継が始まった。
決勝トーナメント一回戦、豊島将之九段vs星野良生五段。
銀河戦ならではのギラギラした桃山調の座敷スタジオで、いつもの美しい手が「ぱちり……ぱちり…」と駒を並べてるなと思ったら、いきなり司会者が千日手で指し直しとか言い出した。えー!

なんだそれ聞いてねえよ! まずは千日手になるまでを「途中からご覧ください」ってやりはじめたがいきなり豊島が評価値99パーセントまで攻め込まれていてこっからどうやって千日手に持ち込むんだよ! 千日手で指し直しですって言ってるんだから千日手になるに決まってるがけどあまりに形勢が悪くて「じつは負けてるんじゃないか」と思ったですよ!

が、こっから千日手になるまでが面白かった。両者持ち時間を使い果たして一手30秒。すぐ秒読みが始まるもんでバタバタである。「にじゅーびょう、いち、に」のあと「はち、く」あたりまでギリギリ考えて慌てて指すから画面はもーバチバチ。奇しくも数日前に桐山清澄九段引退慰労会のyoutubeがアップされ、弟子である豊島のスピーチで、

「私が駒音高くビシッと指した時は、闘志は内に秘めて指すようにとアドバイスをいただいて、それが強く印象に残っています」

桐山清澄九段引退慰労会より


という思い出話が披露され、「さすが桐山先生」「さすが豊島先生」と賞賛の声が高まった。豊島がああいう美しいたたずまいの棋士に育ったのは桐山先生の教育と薫陶のおかげなのだ、という象徴的エピソードとしてみんなうっとり聞いていたのである。だからその数日後にバッチンバッチンやってるのにはつい笑ってしまった。追い詰められたらかっこつけてられんということか。置かれた駒も乱れるし一回取り落としそうになって他の駒ふっとばしたりしてたし。もちろん私は、あの豊島将之がそんなんなっちゃってるのを見るのが大好きです。

そしていつまでたっても99パーセントまで攻め込まれたままで、打開策があるんだかないんだか、99パーだからほとんどないってことだよな、と思いながら見ていたら、ほんとにじりじりと千日手に持ち込んでしまった。うわ、すげー。それで千日手指し直し局をアタマから始めたわけであるが、すでに持ち時間なしで一手30秒。さっきほどじゃないがやはりバタバタやってるうちにまた99パーセントまで攻め込まれてる。なんだこりゃ。

それでギリギリと盛り返して最後はお勝ちになられましたのですが、その盛り返し方の感じがですね、私がかねがね「豊島という棋士は、ああ見えてけっこう〇〇なんじゃないか」と思っていた、その思いを補強してくるようなところがあった。その〇〇が何かというのは、考えなしに書くと誤解をまねく気がするしまだ確信に至ってないのでこれから追々考えを深めたうえで発表したいと思います。

この対局を見てて思ったのは、99パーセント攻め込まれることが、たとえば黒い小さな虫が大量にジワジワとこちらの体に這い上がってくる状況だとして(100パーセントは、体全部を虫に覆い尽くされるってイメージ)(ただしすべての攻め込まれる将棋がこのイメージなわけではない。いずれ書くことになるが藤井聡太に攻め込まれる時も永瀬拓矢に攻め込まれる時も、その有様はそれぞれちがう。虫這いのぼりはこの、銀河戦の星野良生五段戦での話です)、

豊島は、慌てず騒がず、自分の体に這い上ってくる虫を、静かに見つめてあの指で一匹ずつつまみあげ、ぷち、ぷち、とつぶしていく……

ようだった。あのきれいな指は、つぶれた虫の汁で赤く染まっていくのであった。……なんてことを勝ったから書いてますけど見てる時はおいおいおいどうすんのこれどーなるんだうわあああ……あ、あ、……勝った……(がっくりとひざをつく)。なんて調子で精神がジェットコースターみたいに揺さぶられて大変でした。ほんとに豊島の応援は楽しいことがいっぱいですね!

虫も殺さぬ顔で勝利者インタビューに答える

さて12月1日は、毎年暮れの恒例、『ユーキャン新語流行語大賞』が発表になる日だった。私はこの『新語流行語大賞』とか、清水寺の坊さんが大筆で書いて発表する『今年の一文字』とか、『今年の変わり雛』とか、ああいうものが、

本当に、大っ嫌い

なんです。でも今年に限りましては「私が選ぶ・新語流行語大賞」を発表したいと思う。それは、

ひどいうっかり

忘れもしない第72期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグ最終局の、終局後インタビューにおける豊島の言葉です。

将棋には「緩手」とか「悪手」とか言われるものがあってその一手で形勢ががらっと変わってしまうのだが、「ひどいうっかり」の豊島のそれは「何かの間違いではないか」と見物が絶句したそれであって、それをリアルタイムで見ていたから今年いちばんの衝撃であった。衝撃のあまり二時間ぐらい気絶してしまったほどだ(それは昼寝だろう、などと心ない人は言う。勝手に言ってろ)。二時間たって意識を取り戻してよろよろと対局がどうなっているのかを見てみると、私が気絶している間も豊島は首に縄をかけられて足元の踏み台を蹴り飛ばされ、片手で首縄を握りしめ宙ぶらりんにぶらさがりながら残った片手で駒を指し、五時間近く粘ったのちに投了した、その後にむりやりのように笑いながら、「ひどいうっかりをして」と言ったのだった。あの笑い顔とともに、忘れがたい言葉である。

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