見出し画像

リーンシックスシグマ(LSS)の基礎-ムダとバラツキを極限まで小さくする-

「リーンシックスシグマ?なにそれ?」

そんな声が聞こえてきそうです。もしくは、聞いたことはあるかもしれないけれども、具体的にはどういうものなのか知らない人もいるかもしれません。

リーンシックスシグマとは簡単に説明すると、トップダウンによる継続的改善の仕組みです。現在のビジネスにおいて、プロセスを改善することは非常に重要な要素になっています。

日本では、エドワード・デミング博士らによって発展してきたTQC(総合的品質管理:Total Quality Control)活動によって、QC活動などのボトムアップの改善が行われてきました。

この活動によって、日本での製品の品質が大きく向上していきました。それを脅威に思った海外の企業が、日本にできるなら自分たちも同じことができないかと、日本のTQCを学んだり、独自の手法を発展させてきました。

そのうちの1つが、リーンシックスシグマというわけです。

これが、なぜ海外でよく使われているのかというと、リーンシックスシグマが継続的改善の仕組みになっていることです。つまり、一度導入すれば、組織内で継続的に改善が進められることを期待できるようになるのです。

今回の記事では、このリーンシックスシグマの使い方について説明していきます。

リーンシックスシグマの歴史

リーンシックスシグマというのは、2つの手法の良いところを、組み合わせた手法です。1つはリーンで、もう1つがシックスシグマです。

まず、リーンについて説明します。リーンはTPS(トヨタ生産方式:Toyota Production System)から発展してきた手法です。TQCと同時期にトヨタ生産方式に関しても、アメリカで普及活動が行われ、研究が行われていました。その中で、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)にいるジェームズ・P・ウォマック博士らが、研究した結果を発表し、LPS(Lean Production System)が生まれました。

TPSをベースにしてはいるのですが、そこから異なる支流として発展してきたので、TPSとは厳密には異なります。TPSを海外の人が解釈して出来たものが、リーンということになります。とはいえ、似ているところは多いので、TPSについて知ることはリーンの理解にもつながります。

ちなみに、leanというのは"痩せた"という意味のある言葉で、ムダな贅肉をそぎ落として痩せさせることを目的としています。ムダを取り除くための手法がリーンなのです。

もう1つの、シックスシグマについても説明します。シックスシグマは、1980年代にモトローラで開発された手法で、日本のTQCのQC活動などを参考にして作られた手法です。

シックスシグマというのは、統計学で使われる標準偏差からきています。標準偏差の単位は、σ(シグマ)で表すことがあります。製造において、「100万個作るうちの不良品の数を3.4個に抑える」ためのスローガンとして6σ(シックスシグマ)と呼ばれるようになりました。

モトローラで開発していた製品では、このような数字は現実的に可能であったのかもしれませんが、全ての製品でこれが可能というわけではありません。そのため、実際に6σまで不良が出ないようにするわけではないので、6σからSix Sigmaと書き換えられるようになりました。

このように大きな標準偏差まで、良品が作れるようにするということは、つまり、バラツキを少なくなっているということになります。バラつきが小さくなれば、品質が良くなるというのが、シックスシグマを使う目的です。

この2つを組み合わせた手法が2001年に『Leaning into Six Sigma』という本で紹介されました。工場での品質とサイクルタイムを向上させるために、リーンとシックスシグマを組み合わせることにしたのです。

要するに、リーンでムダをなくしながら、シックスシグマでバラツキを少なくする。両方を1つの手法で使うようにしたのが、リーンシックスシグマなのです。

リーンシックスシグマの組織構成とは?

リーンシックスシグマには、さまざまな役割が定義されていて、その各人が役割通りに業務を行うことによって、組織の継続的改善活動が行われるようになります。

組織でリーンシックスシグマを運用しようとした場合、各役割は階層状になります。それぞれの担当者は、専任のこともあれば、他に通常業務を持っている人もいます。そのため、リーンシックスシグマの組織は、バーチャル的な組織になります。

まず一番上には、"チャンピオン"と呼ばれる、リーンシックスシグマ全体の推薦責任者がいます。リーンシックスシグマ上で一番重要な立場の方になるので、事業部長レベルの立場の人がつくことが多いでしょう。

その次に"スポンサー"と呼ばれる、リーンシックスシグマのプロジェクトの責任者がいます。プロジェクトの担当者たちが確実に成果を出せるように監督する立場にあります。また、スポンサーは、プロジェクトの活動テーマを決めたり、各プロセスが期待通りに進んでいるかレビューを行う意思決定者でもあります。

次に、MBB(マスターブラックベルト)と呼ばれる役割があります。リーンシックスシグマに関する、豊富な知識を持っている人で、スポンサーの相談役にもなります。リーンシックスシグマの活動が正しく行われるようにブラックベルトやグリーンベルトにアドバイスもするリーンシックスシグマの有識者です。

次がBB(ブラックベルト)です。ブラックベルトは、プロジェクトの専任担当者です。プロジェクトマネジメントで言えば、PM(プロジェクトマネージャー)のような立場になる人です。スポンサーが決定したテーマに対して、プロジェクトを推進していきます。

次のGB(グリーンベルト)は、プロジェクトの担当者です。実際にリーンシックスシグマのツールを活用して、プロジェクトを進めていきます。

YB(イエローベルト)と呼ばれる人たちはグリーンベルトの作業のサポートなどを行います。

最後にWB(ホワイトベルト)は、リーンシックスシグマについて、最低限の知識を備えている人たちです。

このようにリーンシックスシグマの役割が定義されていることで、組織的なシステムになっています。この組織をうまく回すことによって、継続的改善が行われるようになるのです。

このような仕組みがない場合、どこで誰がどのように改善活動をしているのが見えにくくなったり、権限や責任も不明瞭になります。また、他の部署と連携した改善活動が行いにくい場合もありますね。

そうした問題を解決するために作られた仕組みなのです。

リーンシックスシグマの活動プロセス(DMAIC)

それでは、実際に、リーンシックスシグマを進めていくプロセスを紹介しましょう。

組織で初めてリーンシックスシグマを導入するとき、多くの人がリーンシックスシグマについて知らない状態から始まることでしょう。つまり、最初は研修から始まることになります。

手法やツールはまた後で説明しますので、ここでは全体の流れを説明していきます。

リーンシックスシグマのプロセスは、DMAIC(デマイク)と呼ばれる5つのステップで進められます。DMAICは、それぞれのステップの頭文字を繋げたもので、それぞれのステップは以下のようになっています。

D:Define(定義)
M:Measure(測定)
A:Analyze(分析)
I:Improve(改善)
C:Control(管理・評価)

それでは、各ステップについて詳細を説明していきます。

D:Define(定義)

まず最初のDのフェーズは、Defineと呼ばれるフェーズです。

ここでは、リーンシックスシグマを活用していく、プロジェクトの対象(テーマ)を決定します。どうやってプロジェクトのテーマを選ぶかというと、会社にとって改善したら価値が高い領域を選びます。例えば、お客さんの声(VOC:Voice of Customer)を活用して、お客さんからのクレームが多い問題などです。

会社にとって価値のあるテーマとは、つまり大きな経済効果が見込める領域になります。つまり、大きなコスト削減ができるか、売上が伸びるか、などです

リーンシックスシグマには多くの人が関わるため、やっても無駄なことにリソースかけたら、ムダなコストがたくさんかかってしまうことでしょう。

この選択はとても重要なので、スポンサーと呼ばれる責任者が、テーマを選ぶことになります。

M:Measure(測定)

次のMはMeasure、つまりデータの測定をしていくことになります。

このステップでは取り組むことが決まったテーマに対して、実際の状況を調べていくステップになります。

そのテーマに関わるプロセスを探したり、そのプロセスの中でどんなタスクがあって、どのぐらいの時間がかかっているかなど、現状の分析を行うのがこのステップです。

実際にデータを調べてみると、自分が思っていたのと違うデータが出てきたり、新しい発見があることでしょう。

A:Analyze(分析)

データを集めたら、そのデータを分析するAnalyzeのフェーズに入ります。

このステップでは、Measureで測定したデータを基に、何が根本的な原因なのかを分析していきます。

どんな問題でも、根本原因に手を打つことが重要になります。根本原因でないところを改善しても、思っていたような改善結果が出なかったり、想定より影響が小さい部分の改善になってしまうことでしょう。

必要なデータが揃った後で、分析を行うことで、見落としがないようにします。

I:Improve(改善)

根本原因を見つけることができたなら、次は改善していきます。

つまり、根本原因をどう直したら、その問題を解決することができるのかを考えていくステップです。

また、このフェーズでは、解決策ではどのぐらいの効果が期待できるかについても、想定される結果を導き出していきます。また、想定されるリスクなどもこの段階で検討しておきます。

改善する策が決まったら、実際に解決策を実行していくことになりますが、本格運用する前に、試行的に小さく試すこともあります。

C:Control(管理・評価)

最後にCのControlのフェーズです。

このフェーズでは、解決策を恒久的な対策に変えます。つまり、実際に実行した結果、どのぐらいの効果が出たのかを、評価して今後も続けるか検討します。

お客さんの声がどのぐらい軽減されたのか、財務的な効果、作業時間の変化、など、当初に決めた目標値に照らし合わせて評価します。

また、対策が今後も継続して行われるよう、変更したプロセスをどのように維持していくのかも決めておく必要があります。一度、対策したからといって、全員がそのまま解決策を実行するかはわかりませんし、対策が効果がない場合もあるかもしれません。

そうした場合に検知できるような仕組みも必要になるかもしれません。

DMAICプロセスの管理

これで、DMAICのすべてのステップが完了しました。なんだか、当たり前のことを、当たり前にやっているだけのような気がしませんか?そうなんです。

要するに、プロジェクトとしてプロセスを改善しているだけなんですね。ただ、途中で上位者のチェックが入りますし、活動範囲が広く、多くの部署が関わることになるだけです。

このDMAICのプロセスを、プロジェクトにもよりますが、ブラックベルトが大体半年に1回まわしていくことになります。つまり、各ステップを大体1ヶ月に、1つずつ進めていくことになります。この時、各ステップから次のステップに移行できるかは、スポンサーの意思決定で決まります。

また、スポンサーから、改善するテーマが落ちてくるので、ブラックベルトはそのテーマに対して、実行していくことになります。トップダウンの継続的改善システムになっていることがわかるでしょう。

トップダウンで改善活動を実行する利点としては、改善の範囲が広くなるということです。ボトムアップの場合、自分たちで改善できる場所には手をつけますが、それ以外の場所には手をつけづらいこともあるでしょう。

そうした箇所に、上からの支持を得ながら取り組むことができるとやりやすくなりますよね。

リーンシックスシグマの標準

ところで、リーンシックスシグマのDMAICステップの活用方法については、ISO(国際標準機構)から標準がいくつか発行されています。

2011年にDMAICの活用方法とツールについて標準が発行され、2015年には適格性を評価する標準が発行されました。

ISO13053-1:2011 プロセス改善における定量的方法-シックスシグマ-第1部:DMAIC法
ISO13053-2:2011 プロセス改善における定量的方法-シックスシグマ-第2部:ツールと技法
ISO18404:2015 シックスシグマおよびリーン実施に関する主要専任者の能力と組織の適格性

リーンシックスシグマでよく使うツール

リーンシックスシグマには、様々なツールがあります。

…といっても、リーンシックスシグマで使うツールは、リーンシックスシグマに限定されるものではなく、QC活動や統計学から来ている手法などの寄せ集めだったりします。なので、既に知っているツールも多いでしょう。

これらのツールを全部使わなければならないかというと、全然そんなことはありません。プロジェクトによって、使った方がよく見えそうだなと思うものを、使ってみるような感じでいいでしょう。

英語のサイトですが、以下のリンク先に、よく使われるツールの一部がステップごとにわかれて紹介されています。

個人的には、以下のツールは覚えておきたいですね。

Swimlane Process Map
Cost of Poor Quality Calculator
Voice Of the Customer (VOC) Translation Matrix
Value Cycle Time Analysis
Value Stream Map

日本語でのツールの解説は、要望があればします( ̄▽ ̄;)


ここまで読んでいただけたなら、”スキ”ボタンを押していただけると励みになります!(*´ー`*)ワクワク

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?