村上龍『空港にて』評
村上龍の『空港にて』が殊に優れた短編小説であることは、皆様すでにご承知のことと思います。ここに明かされるのはその傑作たる所以なのですが、よしんばそれが明かされたとしても、それをもとに上質な短編を狙って書こうというのは、どだい無理な話でしょう。もちろん技法も大切ですが、着想は決まって幸運がもたらすもので、狙って作れるものではないのです。しかしこんなことはわざわざ言うまでもなく、『空港にて』が、それがとても短い作品であるにも関わらず、いかに複雑な象徴関係によって成立しているかを