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SDGs考察集 vol.07 | 2020.06.10

SDGsに関する商品・サービスを勝手に考察するSDGs考察集。
第7回の目次はこちら。

社会課題の多くに共通する要因
「グローバル資本主義

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今回はこれまでのような事例をベースにした考察ではなく、過去にIDEAS FOR GOOD主催のイベントに参加した際、「言われてみれば確かに。なるほど!」と膝を打った社会課題に関する大切な考え方についてシェアしたいと思います。SDGsでも17のカテゴリごとに様々なターゲットが示されている社会課題ですが、実はその原因の多くには、ある共通の要因が潜んでいる、というお話。やみくもに社会課題と向き合うのではなく、根本的な原因や要因を認識し、その上でソリューションアイデアを考えることが重要な中で、このイベントでの学びは自分の中でそれまで行っていた様々な思考の横串となるようなものであり、とても感銘を受けました。


視点「社会課題の多くに共通するグローバル資本主義」

社会課題の原因の多くは、グローバル資本主義によってもたらされたものであり、簡単に言ってしまえばそれは、生産と消費の距離が一気に広がったことにある、というのがイベントの内容の主旨です。グローバル資本主義によって、消費を行う先進国の都市と、生産を行う途上国の地方との間に、目視はもちろんのこと、お互いの存在すらも感じられないほど途方も無い、文字通り地球規模の物理的な距離が生まれました。ミルクボーイ風に言えば、「生産者さんの顔が浮かばへんのよ!」という状況です。そして、お互いの顔が見えなくなったことをカバーするべく発展してきたメソッドこそがマーケティング戦略というわけです。お互い気の知れた人同士が暮らす自給自足の小さな村では、本来マーケティングなんて必要なかったわけですね。

距離が広がり、関係が断絶され、顔が見えなくなった結果生まれた社会課題は多岐にわたります。人権問題や環境破壊(苦しんでいる人、破壊されている環境が直接見えない)、長距離を運搬するのに必要な膨大な燃料によるCO2の排出、軽量で運搬に適したプラスチックによるプラごみ問題、サプライチェーンの複雑化による需給の不一致や厳しい賞味期限の設定によるフードロス、長期の運搬に耐えるための保存料や食品添加物、労働力の安い国や地域に生産能力が集中することで起きる貧困格差、マーケティングの失敗によって発生する製品の売れ残りや廃棄、などなどです。

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(IDEAS FOR GOODの資料より)

便利になった一方で、自給自足はどんどん失われ、自分の身のまわりのものがいつどこで作られたのか検討もつかない世の中になり、多くの社会課題が生まれました。逆に、この生産と消費の距離を人間のクリエイティビティーによって縮める、あるいはなくすことができれば、SDGs達成に向けた大きな可能性がもたらされることになります。そのために必要不可欠なのが、デジタルやテクノロジーの活用。アグリテックによる都市型農業や、ブロックチェーン・AI活用によるサプライチェーンの最適化、オンラインを介した、メーカーとユーザーとのダイレクトな結びつき(いわゆるD2C)、シェアリング・エコノミーやサーキュラー・エコノミー、3Dプリンターによるものづくりの民主化などがそれに当たります。生産と消費の境界がどんどんあいまいになり、生産側は消費のプロセスに、逆に消費者側は生産のプロセスにこれまで以上に介入していく時代になるという予測で先述のイベントは締めくくられていました。

ここ数年、企業と消費者との間のビジネスにおいては「共創」という言葉がバズワードになっており、企業同士のビジネスにおいても「オープンイノベーション」や「コレクティブインパクト」がしきりに叫ばれてはいますが、社会課題解決にも繋がる本当の意味での「Co-creation」「Co-innovation」はまだまだこれからという状況です。グローバル資本主義によってもたらされた距離の問題にどうやってアプローチし、ソリューションを創造していけばいいのか。社会課題と向き合う上でのひとつの大きな切り口であることは間違いないでしょう。


マイナンバー普及の鍵は政府との信頼関係「CPR(Central Persons Registration)」

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CPRとは、デンマーク語でDet Centrale Personregisterの略で、市民登録システムのこと。日本におけるマイナンバー制度と似たような制度です。日本ではごく最近できた仕組みという印象がありますが、なんとデンマークでは、今から50年以上も前となる1968年の市民登録法によって導入された歴史ある制度。氏名や住所、家族、仕事など、様々な情報が常にアップデートされながら保管されており、公共機関や一部の民間企業なども条件付きでその情報へのアクセスが許可されています。

 

視点「DXとSDGsの切っても切れない関係」

この内容もこれまでとは毛色が違う、番外編的な位置づけです。北欧やエストニアなどの周辺諸国ではIT化が進んでおり、ちょうどgreenz.jpの記事でデンマークにおけるマイナンバー制度「CPR」が取り上げられていたので、少しご紹介したいと思います。というのも最近、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れを痛切に感じていたのがその理由です。ひとつは、コロナ対策における一連の流れ。給付金や補助金の申請・交付をめぐるアナログで複雑、時間を要する政府の対応や、リモートワークにより未だ根強いハンコや書類文化が浮き彫りとなりました。一方、隣国台湾のIT担当大臣の対応がもてはやされたりと、コロナを通じて、様々な面でデジタルソリューションを意識する機会が増えました。

もうひとつが、かなり個人的な話になりますが、最近行った引っ越しでの体験によるもの。引っ越しそのものの手続きや、役所での転入・転出、公共料金の契約変更、郵便局や警察署での手続きなど、各所揃いも揃って紙・直筆・ハンコ・電話・現金払い。マイナンバーカードは発行済みですが、それがあれば手続きが一気に簡易に、例えばオンラインで簡単申請!や、一括で変更手続き完了!なんてことはなく、日本の公共サービスがUXと大きくかけ離れた世界であることを改めて痛感させられました。

ここ数日、メディアでは給付金支給をめぐってマイナンバーと銀行口座の連携の是非が議論されていましたが、パソコンも使えず、USBが何かもわからない人がサイバーセキュリティー大臣を務めていた国に個人情報をすべて管理されることのリスクが、マイナンバーによる恩恵に対しあまりに大きすぎる、とのコメントが視聴者の共感を得ているようでした。

そんな中での先述の記事です。このようなデジタル施策を浸透させていく上での鍵は、国と国民との信頼関係をより良い形で築くこと、というのがその要点。コロナをめぐる政府の対応に不信感が膨らむ日本においては、耳が痛くなるような話です。この不信感、信頼関係というものは、すぐさま致命傷を与えるようなものではありません。しかし、トップが求心力を失った企業の組織がじわじわと腐敗・崩壊していくのと同様に、目に見えないところでゆっくりと進行し、重たい負の側面を生む要因になりかねないのが信用というもの。そうした国と国民との信頼関係が国家のDXにも影響しうるという、思わぬ気づきを得た記事でした。

SDGsからは少しそれてしまった気がしますが、ひとつめのイベントでの学びの話と共通しているのは、DXの推進によるテクノロジーの有効活用と、それによる社会課題の解決。テクノロジーを正しく使いこなすことができれば、様々なコストや無駄が削減でき、資源やリソースの最適活用に繋がります。これが通例だから、前例がないからと、目をそらしたり思考停止に陥るのではなく、そもそもの部分に蔓延る課題に切り込んで、テクノロジーを使ってなんとか解決できないか、と食ってかかる姿勢を大切にしていきたい。発券機が無機質に吐き出す番号を強く握りしめながら、そう切に感じた今日この頃でした。

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