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SDGs考察集 vol.08 | 2020.06.17

SDGsに関する商品・サービスを勝手に考察するSDGs考察集。
第8回の目次はこちら。

SDGsに取り組む企業の3つのアプローチ
「Link / Launch / Install

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商品サービス概要

パタゴニアの黄金期を築いたローズ・マーカリオ最高経営責任者(CEO)の退任に伴い、先日「Business Insider」で上記の記事が再掲されました。環境配慮型企業の象徴として長年事業を行ってきたパタゴニア。その姿勢はSDGsが制定されるはるか前から一貫しており、登山やサーフィンが趣味の僕としても大好きなブランドです。

ここでパタゴニアについて語りだすと止まらなくなりそうなので、その姿勢や取り組みについて詳しく知りたい方は以下の書籍をぜひご一読ください。個人的には、SDGs時代の企業経営における基本中の基本をコンパスのように指し示すバイブルだと思っています。下手なサステナ系シンポジウムに足を運ぶより、そしてなんなら僕のこのnoteの駄文に目を通すより、これを一度読むほうがよっぽど価値があるのではないか、とさえ思えるほどです。

さて、今回は商品サービスの内容を掘り下げるのではなく、パタゴニアのような企業と、日本でここ数年大量発生している「なんちゃってSDGs企業(以前の記事で紹介した「ウォッシュ」もそのひとつ)」との違いを自分なりに整理し、3つのアプローチに分けてみたので、その考え方を少しご紹介したいと思います。

視点「SDGsに取り組む企業の3つの異なるアプローチ」

制定から数年が経ち、ようやく日本でも実装フェーズに差し掛かってきた感のあるSDGs。2020年の今となっては、コーポレートサイト上でSDGsロゴを掲載し、何かしらソーシャルな取り組みを発信している企業も珍しくはなくなりました。しかし、問題はそのアプローチ。様々な企業の取り組みをウェブサイトでざっと拝見するに、大きく3つのアプローチがあるように見て取れたので、自分なりに「Link」「Launch」「Install」というカテゴリ名を作り、分類してみました。結論から言うと、「Link」より「Launch」、「Launch」より「Install」のアプローチのほうが、取り組みとしては優れているのですが、それぞれどういった内容を指しているのか、順に解説していきたいと思います。


企業のSDGsアプローチ1: 「Link(紐付ける)」

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まずは1つめのアプローチである「Link」。これは「紐付ける」という意味通り、簡単に言ってしまえば「既存の企業活動、自社の取り組みなどを整理し、SDGsの項目と紐付けただけ」というものです。SDGsというわかりやすい指標ができたので、これまで自社が取り組んでいたCSR活動などの社会貢献事業やエシカル商品などをそこに当てはめ、SDGsに貢献してますよ、と世に示すアプローチですね。SDGsに取り組んでいるとうたう企業は増えたものの、日本ではまだまだこうした「Link」企業が大半なのではないでしょうか。

紐付けただけと言うとややネガティブな印象になるかもしれませんが、決してこのアプローチを否定したいわけではありません。まずはとにかく一歩踏み出すことが大事なSDGs。自社とは無縁と決めつけ、何もしていない企業と比べれば大きな前進です。特にSDGsへの取り組みは、その意味、意義の理解や社内への浸透、具体的なアクションプランの策定など、実行においては時間と労力がかかります。まずは大きな目標に向けた第一歩として、こうした整理・紐付けを行い、社内外に発信していくことには大きな意味があるでしょう。

ただ、やはりそのインパクトや意味合いという観点では、これからご紹介する残る2つのアプローチよりは劣ります。まず第一に、既存の取り組みを整理し、そこにSDGsを紐付けただけの「Link」のアプローチでは、プラスアルファとなるような社会的インパクトを創出できません。言ってしまえば、これまで通りやっていきます、と宣言しただけにすぎないアプローチ。過去にも何度か述べてきたとおり、SDGs達成には、社会課題の根幹に切り込み、社会のOSそのものをアップデートするような抜本的な取り組みが新規に求められています。残念ながら、これまで同様ではさらなる課題解決にはつながりません。

第二に、企業が主体的に行うこれまでの社会貢献活動は、いわゆるCSRの枠の中での取り組みがその多くを占めています。もちろん、何もしないよりはるかにマシですが、その社会的インパクトがどれほどのものかと問われれば、答えに詰まるものが大半かと思います。植樹や寄付・寄贈といったように、対症療法的な活動が中心なのも課題。社会課題が深刻化する速度はすさまじく、対症療法的なアプローチではいつまで経っても根本的な課題解決には至れないからです。


企業のSDGsアプローチ2: 「Launch(立ち上げる)」

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続いて、2つめとなるアプローチが「Launch(立ち上げる)」。ロケットなどを打ち上げるという意味の「Launch」。ビジネスにおいては、プロジェクトや事業などを発表する、始動させる、といった意味合いでも使われています。ここでの意味は、SDGsに取り組んでいく上での旗印となるような新規プロジェクトなり事業を企画し、スタートさせるということ。先ほどの「Link」と違い、旗印となりうるフラッグシッププロジェクトを新規に生み出すアプローチのため、アディショナルなインパクトが期待でき、取り組みの意義はそのぶん大きくなります。

最近では、様々な企業がエシカル系の新商品や新規のソーシャルプロジェクトを発表することが増えてきました。サステナビリティーが注目を集める昨今、当然ながら新規性の高いソーシャル施策は、そのぶんメディアにも取り上げられやすく、PR効果も大きくなります。自社の広報活動やブランディングにも繋げられるアプローチのため、一石二鳥と言えるかもしれません。

SDGsの課題に切り込む本質的な施策をゼロベースで検討できることから、うまくいけば大きなインパクトを生み出せるアプローチと言える「Launch」ですが、もちろん課題も存在します。それこそが、PR効果に目がくらんだ「なんちゃってSDGs」パターン。とりあえずプラごみを再利用したファッションアイテムを作るとか、人種やジェンダーの課題に配慮したプロジェクトを発表するとか、とにかくここ数年大量発生している類のものです。切り口が明確でメッセージがわかりやすいのでメディアでも取り上げられやすく、いいことには違いはないのでブランドイメージ向上にも寄与するかもしれません。もちろん、中には優れた取り組みも多数あるのですが、一方で、よくよくその内容を見てみると、取ってつけたような表面的な施策であったり、例えば「それやってどれだけプラごみの削減効果あるの?」と疑問が生まれるような、課題解決力が眉唾モノであったりと、玉石混交状態なのがその実態です。

また、まさに「Launch(打ち上げる)」の文字通り、打ち上げ花火的な一過性の取り組みが多いのも課題。最後に紹介する「Install」とは違い、とりあえず予算をつけて新規にやってみる的なアプローチになりやすく、最大瞬間風速は出るものの、なかなか継続的な事業にするのが難しい傾向があるように思えます。いわゆる広告的なキャンペーンやプロモーションの枠を超え、中長期的なプロジェクトにまで成長させていくには、立案者の相当の企画力と、担当部署の根気強さ、そして企業としての並外れた覚悟が必要となってくるでしょう。


企業のSDGsアプローチ3: 「Install(実装する)」

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さて、最後にご紹介するアプローチが「Install(実装する)」。文字通り、SDGsの概念を企業活動や事業内容の根幹にインストールし、アップデートを行うアプローチを意味します。具体的には、主力商品における調達(原料・サプライチェーンなど)、製造手法の見直しや、ビジネスモデルの刷新、SDGsを根幹に据えた新規事業の推進など。先ほどの「Launch」とは違い、既存事業、主力商品、新規事業といった、ビジネスそのものにイノベーションを起こしていくアプローチとなるので、当然ながら社会的なインパクトも大きく、かつビジネスが拡大すればするほど、その効果も比例して大きくなるサステナブルな仕組みが築けます。

一方、最も難しく、根気と覚悟がいるのもこのアプローチ。軌道に乗せていくにはコストも時間も必要で、「Launch」のように手っ取り早く目立てるものでもないため、これからの時代と向き合い、しっかりと腰を据えたアクションが求められます。冒頭に挙げたパタゴニアも、今でこそ頻繁にサステナブル企業の代表事例として取り上げられていますが、今のその姿は、まだ大量生産・大量消費が当たり前だった時代から地道に環境活動に取り組み続けた長年の努力の賜物であることは間違いないでしょう。先の記事の中でローズ・マーカリオ最高経営責任者(CEO)も次のようにコメントしています。

次の10年、私たちはあらゆる産業分野の企業に対し、意味のある行動を断固として求めていかなくてはなりません。派手なマーケティングキャンペーンとプレスリリースを通じた約束だけではまったく足りないのです。私たちが必要としているのは、サプライチェーンにおける環境負荷の低減や実効性のある温室効果ガスの削減、大気中の二酸化炭素量を減らすソリューションといった、客観的に証明できる真実の結果です。

今回、企業のSDGsに関する取り組みを難易度の異なる3つのアプローチに整理してご紹介しました。「Install」に近づけば近づくほど、企業としての確固たる哲学やカルチャーが必要不可欠となりますが、その醸成は一朝一夕でできるものではありません。また、先述したように、SDGsの事業への落とし込みという意味では、第一歩となる「Link」や、わかりやすくスピード感をもって社内外にメッセージを発信できる「Launch」のアプローチも大切です。しかし、やはり本質的で理想形なのは企業活動の根幹にSDGsを実装する「Install」のアプローチ。各企業においては、自社のSDGs浸透フェーズと向き合いながら、これらのアプローチをうまく重ね合わせつつ、取り組みを推進していく力が問われているように思います。

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