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SDGs考察集 vol.09 | 2020.06.25

SDGsに関する商品・サービスを勝手に考察するSDGs考察集。
第9回の目次はこちら。

社会課題に挑む上で重要となるアプローチ
 「SOCIAL OUT」


商品サービス概要

今から2年ほど前となる2018年5月、前職の会社の新規事業(自社事業)として立ち上げたのが「SOCIAL OUT TOKYO」。よりよい社会づくりに挑戦し続けるリーダーと、企業の未来を担う担当者が一堂に会し、これからの時代に求められる「事業の中心に社会性を据えたサステナブルな企業活動」を模索する事業共創プログラムです。全9回、半年以上にわたるプロジェクトのプロセスを通じて、CSRや社会貢献の枠を超えた、収益性のある事業アイデアの創出を企業同士の共創によって試みるというものでした。

視点「当事者の強い想いこそソーシャルプロジェクト成功の必須条件

内容の詳細は取材いただいたForbes Japanの記事プロジェクトのレポートムービーなどに任せるとして、ここで共有したかったのは、プロジェクト名の由来にもなっているそのコンセプトについて。恥ずかしながら、当時の文章をそのまま引用してみたいと思います。

世の中を動かす素晴らしい活動の多くは、まず自分たち自身で「いい!」「楽しい!」と思える取り組みを小さく始め、徐々に共感する人たちが集い、活動が大きくなる、といったアプローチで生まれています。いわば、究極の公私混同。企業での立場や肩書きはいったん捨てて、「好き」の力を原動力に、小さな一歩をまず踏み出す。このように、「これからの自社のあるべき活動」を小さくテストケースとして発信し、そこから本格的な企業活動に育てていくアプローチが「SOCIAL OUT」のコンセプトです。難解な課題に向き合う中で息切れしがちな「SOCIAL IN」の考え方とは違い、自由な視点とやりがいを持って、これからの時代に合った事業を検討します。

我ながらわかりづらいですね。ということで、その概念を示すこのような図も作っていました。

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「PRODUCT OUT」や「MARKET IN」というのはマーケティング用語のようなもので、商品サービスを企画するときのアプローチを示す言葉。その意味については調べれば出てくると思うのでここでは割愛します。一方、「SOCIAL OUT」というのは僕が作った造語で、ここでの「PRODUCT OUT」と「MARKET IN」の考え方がベースになっています。

SDGsイベントを行脚して気づいた、「一人称」不在問題

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プロジェクトの企画を始めた当時は、SDGsがようやく日本でも注目され始め、シンポジウムやセミナーなどが見かけられるようになりつつあった時期でした。企画の内容を詰めていくにあたり、主要なSDGsイベントを行脚していたのですが、共通して感じたのが、「楽しくなさそう、ワクワクしない」ということ。当時、SDGsという言葉はまだ今ほど市民権を得ておらず、一部大企業の役員やCSR部長、外務省、経産省といった関連省庁の重役、地方自治体のトップなど、スーツにネクタイ姿のお偉いさんたちのお堅い言葉という印象でした。そうした人たちが深刻な社会課題に対して何ができるかを頭でっかちに討論している姿からは、一人称を感じないというか、ワイドショーの評論家の意見を聞いているような印象で、まったく熱意が伝わってこない。そもそもとして、やりたくてやっているというよりは、やらないといけないからやっている、という姿勢。このような場所からソーシャルビジネスのムーブメントが果たして起こりうるのだろうかと疑問を感じたことが、先述の「SOCIAL OUT」というコンセプトへとたどり着く大きなきっかけとなりました。

つまり、市場のニーズから逆算して考える「MARKET IN」のアプローチ同様、SDGsに定められているような社会課題から逆算し、頭を悩ませながらソリューションを検討するのではなく、とにかく自分はこの課題をなんとかしたい、こんな事業をやってみたいという自らの想いに焦点を当て、その想いを起点に事業を企画し、世の中に発信していくという「PRODUCT OUT」に近いアプローチこそ、ソーシャルプロジェクトを力強く推進していく上では必要なのではないかという気づきです。目の前にいるたったひとりの人間を助けたいと思う気持ち。自分が経験した具体的な出来事を通じて、そこに潜む課題をなんとかしたいという強い想い。そうした個人的な衝動が呼び水となり、仲間が集い、活動が徐々に大きくなっていく。

新規事業を企画する際にも同じようなことが言えると思いますが、さらに社会課題の解決という難題に立ち向かわなければいけないソーシャルビジネスにおいては、ますますこのアプローチが重要になると感じました。収益性のあるビジネスモデルを通じた社会課題の解決は、単に新規事業を立ち上げること以上にハードルが高いもの。なかなか結果に結びつかない時期においても、根気強く、粘り強く試行錯誤を重ねるメンタリティーが試されます。多くの人が現状に甘んじて見て見ぬふりをしている課題においては、マインドセットを変え、行動変容につなげ、参画を促すという、コミュニケーションやモチベーションのデザインが必要。そのためには、その輪の中心にいる当事者本人の情熱が生み出す求心力が欠かせません。ビジネスモデルのアイデア、イノベーションやテクノロジーの力ももちろん重要ではありますが、もっとも大切なことは、この「やりたい」という強い気持ちなのではないでしょうか。

新規事業企画ワークショップを通じた教訓

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つい先日、レクリエーションやチームビルディングを兼ねて、社内で新規事業を検討するワークショップが行われました。グループごとにアイデアを3つほど検討し、発表するというものです。時間も限られた簡易的なものだったので、アウトプットの精度はそれほど高くはなかったのですが、そのプロセスの中に、個人的には大きな収穫がありました。

僕が参加したグループでは、2つのアイデアの方向性は早々に決まり、残る1つの企画の検討とディスカッションに多くの時間を割く形となりました。最後の案は、なんとなくの方向性のイメージこそあるのですが、議論を重ねれば重ねるほど暗礁に乗り上げてしまいます。どうしてだろうと一歩引いて俯瞰したときに、大きな気づきが生まれました。他の2つのアイデアが、起案者の個人的な体験や強い想いがコアにあるものだったのに対し、最後に残ったアイデアはカテゴリー分けによって複数の案が寄せ集まった集合体のようなもので、確かに課題としては明確なのですが、企画の根幹にあったのは、自分ごとの「やりたい!」という強い想いではなく、「ニーズは確かに存在するのだから、うまくやればビジネスにはなりそうだ」という、どこか他人事のような視点。「やりたい」という気持ちではなく、「してあげたい」というアプローチであることに気づかされたのです。残り時間がわずかな中、これ以上この方向について考えていても、強い企画にはなり得ないと感じた僕たちは、一度そのアイデアと距離を置き、他のことに限られた時間を使うという判断を下すことができました。タイムリミットが刻一刻と迫るなか、とても勇気のいる決断です。

大企業の「新規事業あるある」に潜む課題

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さて、話をもとのテーマに戻すと、最初に出ていた2つのアイデアは、起案者の想いをベースにした、いわば「SOCIAL OUT」のアプローチ。一方、最後に残り、なかなか具体化できなかったアイデアは「SOCIAL IN」のアプローチに当たります。「SOCIAL OUT」の企画アイデアは、全員に刺さるものではないかもしれませんが、一部の人の強い支持を集め、議論が活性化したのに対し、「SOCIAL IN」のアイデアは、全員が「なんとなくいい」とは思うものの、それ以上の議論が生まれにくく、主語と目的語が具体的でないままでした。

実はここに、大企業が新規事業をなかなか生み出せない「あるある」のひとつが隠されています。成熟しきった大企業においては、安定的な収益を生み出す既存事業をいかに効率よくオペレーションできるかが求められることが多く、入社後、日を追うごとに、「個人的な想い」をベースに事業をドライブさせていくアプローチからは遠ざかってしまいます。そんな中、いきなり上層部から「新規事業を考えろ」と言われても、個人の想いをしまっておいた引き出しは完全に錆びついてしまっていて、自分自身の想いなど置き去りに、つい目先のわかりやすい課題の中に答えを求めてしまいます。

また、それぞれ異なる事情や状況を背負ったマネージャーたちが何十人も集まる会議においては、会議を成立させ、何かしらの合意を形成するために、反対する人が一人も生まれないような角の立たない企画が提案されがちになります。出席者全員が「どちらかといえばいいと思う」と思えるものの、誰一人として「ものすごくいい/やってみたい」とは思っていない企画です。この個人的な想いが欠落した、全員にとって70点の企画がまかり通る現状こそ、大企業における「新規事業あるある」のひとつ。理論上は企画として成立してはいるものの、人の心を強く動かすことはなく、鳴かず飛ばずの結果になりかねません。

ソーシャルプロジェクト成功の必須条件

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少し話が長くなってしまいましたが、今回のトピックの結論は、冒頭に示した「当事者の強い想いこそソーシャルプロジェクト成功の必須条件」だということ。先日のワークショップでは、企画のアウトプット以上に、そのプロセスの中でこうした気づきをメンバー全員が共通して得られたことが重要で、とても価値あることのように感じられました。

「SOCIAL OUT」をコンセプトに題したプロジェクトを立ち上げた僕自身でさえ、ワークショップの限られた時間の中でなんとか企画の形にまで落とし込まなきゃというプレッシャーによって、その大切なエッセンスをつい見落としてしまっていたということ。新規事業やソーシャルプロジェクトを考える機会はこれからもあると思いますが、これをひとつの学びとしつつ、今後も企画に取り組んでいきたいと思います。

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