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SDGs考察集 vol.05 | 2020.05.27

SDGsに関する商品・サービスを勝手に考察するSDGs考察集。
第5回の目次はこちら。

ボーダレス・ジャパンが電力小売事業に参入
「ハチドリ電力


商品サービス概要

事業を通じて社会課題解決を図るソーシャルビジネスにおいて、社会起業家を支援する独自の仕組みを作るなど、注目を集めている企業、ボーダレス・ジャパンをご存知でしょうか。つい先月、カンブリア宮殿にも取り上げられたばかりのボーダレス・ジャパンですが、今月になって電力小売り事業への参入が発表されました。自然エネルギーをできるだけリーズナブルに提供するべく、自社の収益は月会費の500円のみとし、電気代からは一切利益を取らないビジネスモデル。契約者は毎月の支払い額の1%をNPOへ寄付できる仕組みも備えています。サービスの詳細は公式サイトや以下の記事をご覧ください。


視点「震災でも変わらなかった日本の電力事情に挑む」

SDGsについて考えるときに欠かせないのが、理性や真面目さだけでは人の行動は変えられない、という事実です。もちろん、一部の人は行動を改めるかもしれません。しかし、世の大衆を動かし、行動変容の大きなムーブメントにつなげるには、人間の高尚な人格(タテマエ)に対するメッセージだけでは不十分であり、生理的な人格(ホンネ)、すなわち感性への刺激が必要不可欠となります。例えば、「得したい」「人気・噂のものを体験したい」「快適になりたい」「綺麗(オシャレ)になりたい」「モテたい」「ラクしたい」「楽しみたい」「満足したい」「安心したい」「現実逃避したい」「感謝されたい」「感動したい」「自己表現(自己実現)したい」「目立ちたい」「気持ちよくなりたい」などです。この理性と感性の両面を兼ね揃えなければ、人(大衆)の行動変容は作れません。

自然エネルギーにおいて、この事実を痛感したことがあります。自身で企画したプロジェクトにご登壇いただいた、株式会社TOKYO油電力 代表取締役 染谷ゆみさんのスピーチでの一コマです。(以下、レポート記事より抜粋。)

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原発に関する問題は、まだ何も終息していないんですね。知らないというのがいちばん怖いし、知らないというか、考えていないというのがいちばん困ると思います。私はもうすぐ50歳を迎えるのに、原発がここまで危険だとは事故が起こるまで知らなかった。原発事故が起きた後、私ら世代の人はみんな「知らなかった」って言うんですよ。知っていて(原発エネルギーを)選んでいたなら話は別だけど、知らずに扱っていて事故が起きたときに、あー、どうするんだ、って騒ぐのはよくないな、と思いました。 でもおもしろいもので、都内で原発反対の大規模デモに参加している人に「それで、電力会社は変えたの?」と聞くと、「いや、そのまま」って人が結構いるんですよね(笑)。一般の人でも、震災の当時は原発をすごく嫌がっていなはずなのに、時間が経ってきて、なんとなくそのまま原発エネルギーを使い続けている。(中略)コンセントの向こう側にある世界、自分はどんな電気を使っているのか、というのを想像していただきたい。私は購買の仕方、消費の仕方を変えることで、社会は必ず変わっていく、ということを提案したいんです。皆さんが再生可能エネルギーを選ぶことで、エネルギーの未来は変わります。

このシーンで、染谷さんは会場に対して簡単なアンケートを取りました。「震災以降、自宅の電気を再生可能エネルギーに切り替えた人、いますか?」 会場には、サステナブルなビジネスに取り組みたいと考える著名企業の新規事業やマーケティング、CSR担当者らが詰めかけていました。しかし、挙がった手の数はほんのわずか。それが現実でした。

自然エネルギーへの切り替えを促すメッセージやプロモーションは、震災以前からありました。しかし、いずれもほんの一部の人止まり。そこに震災が起きました。ほぼすべての日本人が、原子力発電所の爆発という、SF映画のような惨事を目の当たりにしました。その後の政府や東電の対応などに不信感を抱いた人も数多くいたと思います。当時のテレビの映像は、それまでの再エネを促す様々なコミュニケーションが束になっても敵わない、誰もの心に強く突き刺さる強烈なメッセージとなりました。その後、原発に対するデモも起きました。電力自由化も起きました。それでも、未だに日本の多くの人は、たとえそれがサステナ系のプロジェクトに参加するような人であっても、変わらず東京電力(やそれに準じる旧来型の電力会社)を使い続けている。その現実を突きつけられた瞬間でした。

自然エネルギーによる電力はどうしても割高になりがち。その高い料金こそ、切り替えや普及を阻んでいた大きな要因のひとつでした。環境にいいことだと頭ではわかっていても、人はどうしても感性に左右されてしまいます。特に、お金に秘められた力は圧倒的。得したい、安く済ませたいというホンネに、人はなかなか勝てません。エコバッグやキャッシュレス普及の大きな鍵となる/なったのも、レジ袋有料化や増税に伴うキャッシュレス還元でした。

先ほどのハチドリ電力でシミュレーションを行うと、1%の寄付を含めて今よりやや高い程度か同等、場合によっては安くなるような料金が設定されており、これまでのコスト面でのハードルはかなり下がっているように思いました。このような取り組みを通じて、多少なり自然エネルギーの普及が加速していけばいいと思うものの、「切り替えるのが面倒」という次なる行動ハードルがそこには待ち受けています。これらのハードルをひとつずつ突破していくためには、先ほど挙げたような様々な感性スイッチを多面的に刺激していくことが重要であり、そこにこそ、コミュニケーションデザインの力が必要とされている気がします。


麻薬ではなく香水を育て、平和をつくる
「ピース・パフューム」

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商品サービス概要

「私たちは〈香水〉で平和を目指します」と語る、全米展開中のインディーズ香水ブランド「ピース・パフューム」。今から10年以上前、まだビューティー業界に“エシカル”が浸透していなかった頃から「究極のエシカル〈平和〉」を掲げ、活動を続けています。貧困という背景から、高値で売れる違法ケシの栽培を余儀なくされていたアフガニスタンの農村部に対し、「私たちの香水のために花を栽培する方が、違法のケシ栽培をするより、2倍も多く稼ぐことができます」と訴えた創業者。現地の農家から公正な価格で精油を取引することで、紛争や災害からの復興に取り組む地域の農業支援を行っているブランドです。(詳細はこちらの記事を参照ください。)
 

視点「ソーシャルビジネスの難しさと、そこに挑む信念」

サステナブル関連の事例として個人的に好きなのが、こちらの「ピース・パフューム」。ケシの栽培という社会課題の根本にある、途上国での難しい社会構造をしっかりと捉え、ケシ栽培より収益の見込めるビジネスを新たに提供することで、現地の農業支援を行っているブランドです。平和への一助となることまで目指しているのもすごいですが、リスクの多い紛争地帯を相手にビジネスを作り上げるその熱意と信念もすごい。

当然ながら、商品そのもののクオリティーやブランドデザインにも力を入れており、事業として成立させ、ビジネスでしっかり収益を上げながら、同時に社会貢献を実現するという、SDGs達成に向けたあるべき事業モデルのお手本のような形です。実は先ほど挙げたボーダレス・ジャパンもこれと近しい事業を立ち上げており、注目されている社会課題解決のアプローチであることが伺えます。

このような、課題の本質にうまく切り込み、サステナビリティーを根幹に据えたビジネスモデルと、先述したような、理性だけでなく感性面までを兼ね備えたマーケティング戦略が揃ってはじめて、ソーシャルビジネスとしての継続的な収益性が担保できるようになります。そして、その実現にはこの事例同様、並外れた信念が必要。見せかけだけ、あるいは継続性や収益性のない事業にならないよう、事業を作り上げていくことはとても難しいことではありますが、クリエイティビティーが今もっとも求められている領域であり、そこへのチャレンジが多くのブランドにとって、これからの時代に向けたひとつの試金石となることは間違いないでしょう。

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