「す」と「れる」の境目を

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以下、映画「ミッシング」に
関連する内容・個人的な感想が含まれます。
未鑑賞で情報を入れられたくない
場合は、閲覧をお控え下さい
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現実は演じていない
演じていることは虚構だ
 その2つの世界の境目を消すことが
私たちの宿命なのだ

…中世イングランドの劇作家
   ボック・オーの自伝より抜粋…

まがりなりにも表現に携わる人間として、心底「難しい」と思わされる瞬間だったりする。俳優が役柄を産み出そうとする、その過程や苦しみがどことなくこちらに伝わってきてしまう…感じ取れてしまう…そんな瞬間。

大仰な書き出しだったりするが、早い話が、さも高尚なことにように見えて「良くないんだソレ」が言いたいだけだったりする。

おそらく散々に繰り返し語られ、これでもかと擦り書き返されてきたことだとは思う。俳優のアプローチや、組み立て論なんてものは、せいぜい作り手側や、せめてその俳優を志す側が、深く掘り下げれば良いことであって、観客である観る側には知られる(わざわざ)必要はなく、なんだったらそんなものは感じさせずに「●●さんのアノ役、凄く良かったよね」と思ってもらえさえすれば良いのだと思う。


映画自体は、とても面白かった。

「児童失踪」という痛ましい事件がテーマではあるが、それは日常に近く、空想や遠い世界でしか繰り広げられていない事件や事故ではなく、その事柄について「これまでに考えた事があり」「それらに関連する事象についても多少の知識がある」内容なので、当事者である登場人物との感情の共有も、輪郭を濃く行うことができる。

あまり内容に踏み込みすぎたくないが「自身でもそう思う事があった」を再確認し「それがたどり着く先では何が起き、誰がどう思っているのか」を知ることで、作中で「いつから世の中はこんなに狂ってしまったのか」と表される「現代の麻痺した感覚」に毒されかけているのかもしれない自分を俯瞰して見直すことになった。

吉田恵輔監督作品は、1つ前の劇場での鑑賞が「空白」でサブスクでが「神は見返りをもとめる」なのですが、とにかく鑑賞後の心情が「自分だったらどう思うか(するか)」で埋め尽くされるので、めちゃくちゃ心が疲弊します。

ですが、その疲れ・重さというのは決して絵空事ではなく「いつかどこかでこの決断を(近い判断を)することがあっても不思議ではない」と思わされる内容になっています。だからこそ、作品の厚みと奥行きが半端ではないのですが。

今回、題材としては「児童失踪」「事件による当事者の日々にのしかかかる事」「まつわるマスコミが抱える問題」と私たちの日常から遠くない、情報・知識もある程度身近にある事柄なので「自分だったら」の思考にたどり着くのはそう難しくない。

作品としては…だ。ただ、だいぶ遠回りしているが、主人公「沙織里」を演じている石原さとみさんをどう観るか、どう受け止めるか、だと思う。延々と内容に絡めて細かくほじくっても仕方がないのでシンプルに1点だけ書く。決して、お一人の俳優としての好き嫌いはなく、この部分がどうにも気になって入ってこなかった、という理由だけで書く。

「やつしている感が強い」

もう、これに尽きる。良く言えば「元の石原さとみの華やかさが強すぎる」のであり、悪く言えば「やりにいっている感が見える」なのである。

「人が不幸に見舞われ壊れていくのは【崩す】ではなく【崩れていく】」のであり、微塵でも「崩そう」という俳優のアプローチが見えてしまえば、それは「やりにいってる」様に映ってしまうと思う。

もうこれは、その役者がどこにいて、どちらを向いて、どう歩いているかによるので、良い悪いではないとは思う。率直、鑑賞前に少し見掛けた完成発表的なインタビューの際に「髪色をこだわって…肌が荒れるように自分に合わない化粧品を使って…ヤンママとママ会を開いて…」のような話を嬉しそうにご本人が答えているのを見掛けて、少しだけ嫌な予感はしていた。

なんだか、老害的な表現だが、ご本人的には、これまでそういったアプローチで作品に出演されてこなかったのかもしれないかもしれないが、嬉々として役作りを語る俳優で感動させられた経験はあまりない。少なくともとも観客側としては。それを求める先が違うのかもしれないが、私たちはこの作品での母親の存在が楽しみなのであって「努力する石原さとみ」を楽しみにしている訳ではないのだ。

とは書いても難しい。

自分も演る側なので、この部分に踏み込むのは当然「自分も出来ない(難しい)事」への指摘になるので、ある意味の自己批判にもなるのだが……それでも正直な感想として今回の作品が突き抜けないとしたらそれは「主役の作り方」だとは思う。

本物は途中のアプローチなどは感じさせずに「本物の●●ようだった」と魅せてくる…と思っています。少なくとも途中の努力感は観客側には知られないからこそ…だと思うんですよね。。

ある意味で「思う所」が多く自分に産まれた映画ではありましたが「でもなあ」が残ってしまった映画でした。

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