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大吉堂読書録・2024年5月

『シュレディンガーのチョコパフェ』(山本弘)
どれもこれも面白い短編集。
SFとは人間や世界を大きなホラ話で囲んでしまい、その外側から観察するような面白さがある。だから人間や世界の本質を描くことができるのだろう。
そんなSFの面白さを多方向からグイグイと示してくれるような一冊。

『未踏の時代 日本SFを築いた男の回想録』(福島正実)
SFマガジンを創刊し、日本にSFを根付かせ広めた人の回想録。
SFとは何かを問い続け唱え続け、ありとあらゆる手を尽くす。凄まじい熱量が胸を打つ。
SFの魅力を信じて認めさせてやると意気込む。その姿に憧れと尊敬を抱く。奮え立つ読了感。

『絶望系 閉じられた世界』(谷川流)
部屋に天使と悪魔と死神と幽霊がやって来た。
悪趣味を緻密に構築して、嫌悪感とは違う読後感をもたらすのは流石と言うべきか。
意味があるようで意味がないかもしれず、それ故に意味がある。そんな酩酊感に翻弄されるのが楽しい。と言っていいのだろうか。

『お面屋たまよし』(石川宏千花)
なりたい姿になれる妖面。しかし面を外せなくなると荒魂化して浄化される。
容貌が変わることで他者がいつもと違う顔を見せる。知りたくなかった顔、思いも寄らぬ顔。
独特の凛とした佇まいや人との距離感が、静謐な読後感をもたらす。キャラクター造形も素敵。

『現代SF小説ガイドブック 可能性の文学』(池澤春菜・監修)
SFの今を知るためのガイドブック。国内外の作家紹介や、SFの多面性を知るコラムなど、読み応えあり。
これを読むことによって、SFとは何かの答えが見えてくるかも。SFの入口としても秀逸で、読みたい本が無限に増えます。

『さよならの儀式』(宮部みゆき)
宮部みゆきは恐ろしいと、改めて思い知らされたSF短編集。
地に足ついた市井の人々の姿を念入りに見せる宮部作品ならではの手法から、不意に挿入されるSF要素。それにより人の本質や、ものの善悪を炙り出す。
物語の断ち切り方も潔く、故に恐ろしさが引き立つ。

『さよならよ、こんにちは』(円居挽)
緑の香りにむせかえるような青春小説。世界を同じくするシリーズの方は未読ですが、問題なく楽しめました。
第1話が見事なまでのドラクエ文学。ロト伝説を解体し、このように再築するとは。
物語を感情を謎を意識を切り取り額装するような感覚を堪能する。

『火守』(劉慈欣、池澤春菜・訳)
大切な人の病を治すために、世界の果ての火守のもとを訪れる。
鯨の体から油を採り、骨や歯を用いてロケットを作る。月へと登り、星を磨く。毎日欠かさず決められた時間に火をつける。
幻想的な物語が、西村ツチカによるイラストと共に世界を構築する。

『これは学園ラブコメです。』(草野原々)
3人の少女から迫られる学園ラブコメの主人公の元に迫り来る、ファンタジー展開やSF展開。そして「なんでもあり」がやってくる。
メタフィクションなスラップスティック。しかも小説論であり創作論でもあるかも。でもやはり学園ラブコメなのです。

『カーテンコールはきみと 演劇はじめました!』(神戸遥真)
自分に自信を持てない律希は演劇で自分を変えようとするが、中学の演劇部は廃部寸前だった。
青春ど真ん中部活物語。それぞれの人物が背負うもの、やりたいことをやるために動くこと、自分らしさの中に新たな自分がいること。
ひとつひとつのエピソードが結びつき、舞台へと繋がっていく展開が素敵です。
中学生が自分ごととして読むことのできる小説って大切だと思う。中学生が自分たちの物語だと思える作品は必要だと思う。
そんなYAの魅力が溢れんばかりに詰まった作品でした。

『銀河英雄伝説列伝1 晴れあがる銀河』(田中芳樹・監修)
なんとも豪華な公式トリビュート。
それぞれの作家の持ち味がしっかりと出ていて面白い。キャラクター重視のものと世界観重視のものがあるのも面白い。それら全てを飲み込めるのが銀英伝の魅力だろう。
表題作の視点には驚き楽しんだ。

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