【詩】 往年の君へ

神の生き血が空に冴え渡る頃 季節外れの花びらが忙しなく
ある方向へなびいていく

花びらは風に無邪気な声を含ませて 同時に似つかわしくない
重い足音を鳴らす

心の失せた鉄の門番が 奇声をあげながら その花びらたちを
門外へと掃き出していた

いま 私の目の前で揺れている花びらも 早く門外へ出して
あげなければ この世に悲哀の世界を作り上げてしまうだろう

されど 私は中々愛蔵された宝石を彼女に見せられないでいた
そうすることによって この世界が暗転してしまうことを 
非常に怖れていたのだ

しかしながら そうは言い状 この世界の寿命はもう既に陽炎
のそれに等しいところまで迫っていた
私は諦めねばならないのか
二人きりの時間は神が腹を裂いてくれるこの僅かな時間だけだ
というのに

そのように諦めかけていた私であったが 次の瞬間 天から慈
悲を授かることとなった
というのも 闇夜が嫌う眩い滴が彼女の頬に流れ落ちるのを私
は見たのだ

聖夜が嫌う清らかな彼女と太陽から零れ落ちた眩い滴とが折り
重なって 幾度となくそうしてきたように それがまたさらに
私の心を射抜いていた
心にこんなに気持ちの良い風穴があいたことはない

私は自然と呼吸をするような様子で彼女の心に手を伸ばしていた
すると 彼女はその手をしっかりと握り締めてくれた
そうして 私たちの濫觴の火は 埋もれることなく 十月三日に
灯ることとなった


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