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『TUGUMI』 こうして私は、山本屋最後の夏にむかうことになった

『TUGUMI』 
吉本ばなな著
中公文庫・1992年3月

『TUGUMI』が出版されたのは1989年。吉本ばななの小説の中でもデビューしてから間もない頃の作である。
 
 海辺の小さな町で育った主人公のまりあと、従姉妹のつぐみ。まりあは大学進学を機に上京したが、二人が生まれ育った旅館が廃業することになり、夏休みに帰省をする。故郷でひと夏を過ごすうちに、まりあとつぐみは恭一という魅力的な男の子と出会う…。
 小説のあらすじ自体は、けっこうオーソドックスだ。しかし、読後感としては「吉本ばななの小説を読んだ感じ」を存分に味わうことができたように思う。
 
 では、「吉本ばななの小説を読んだ感じ」とは具体的には何だろうか?
 一つは、文体から滲み出る独特の雰囲気だと思う。日常や生活感のようなものが希薄で、儚げで感傷的な雰囲気に満ちている。
さらに挙げるとするならば、登場人物の特徴的なキャラクターである。どこか個性的で、普通とは少し違った雰囲気を持っている。主人公であるつぐみは、病弱で「神様が美しくこしらえた人形のような端正な外見」であるが、性格や口は極めて悪い。わかりやすい「個性的で魅力的なキャラクター」である。そのつぐみを中心に、まりあ、恭一、つぐみの姉の陽子といった登場人物たちが物語を織りなしていく。
 
 また、この小説には「死」とつながるイメージが至る所に散りばめられているように思う。例えば「生まれた時から体がむちゃくちゃ弱くて(略)医者は短命宣言をしたし、家族も覚悟した」つぐみ自身が死を意識させる存在である。つぐみが物語の終盤で起こす行動は、「死と再生」のわかりやすいメタファー出るように感じられる。
 
 オーソドックスなストーリーであるが故に、「吉本ばなならしさ」をより味わうことができる小説なのではないだろうか。【終】



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