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「ジョン王」を観てきました。

先日、彩の国シェイクスピアシリーズ
シリーズのフィナーレを飾る作品
「ジョン王」
埼玉公演を観劇してきました。


そこで、作品の内容に触れながら
感想を述べていきたいと思います。

はじめに


僕は、松岡和子さん訳の「ジョン王」を観劇前に5回ほど通して読んでいたので物語の内容はほぼ完璧に入った状況でした。
また、2階席からの観劇だったので多少台詞が聞き取りずらくてもよいという心構えで臨みました。

当日朝~着席まで


今回は家族旅行のなかのイベントとして一人で観劇に行きました。
九州在住の僕は九州以外の劇場を訪れたのは2度目でした。
彩の国シェイクスピアシリーズ公式Twitterに投稿されていたさくら草通りを経由して徒歩で会場である埼玉会館まで向かいましたが、会場が見えてきた時の高揚感は観劇する度にひしひしと感じるのですが、今回は人生で初めて埼玉県を訪れているのに加えて初めて訪れる会場だったのでいつも以上に高揚感を感じていました。
開場の1時間ほど前には到着していたのでロッカーに荷物を置いたり、会場に掲示されているものを撮影するなどして時間を潰しました。

話は少し変わりますが、最近僕は荷物は全てロッカーに預けるようにして座席には身一つで行くようにしています。
携帯電話や飲み物も全て置いていきます。
これは、単純に身軽なのがいいということが大前提としてありますが、観劇中に携帯電話が鳴るという最悪の事態を防ぐことが出来ることです。
僕はそういったことが想像以上に目立つことも知っているし、絶対に遭遇したくないからです。
なので、僕の周囲の座席の人が直前まで携帯電話をいじっていると
「早く電源きってほしいなあ…」と祈るような気持ちでいます。
僕個人の考えでは開演中は電源を切ることが鉄則だと思います。

話を戻します。
開場して、パンフレットと舞台写真を購入しロッカーに置いて
自分の座席へと向かいました。
席に着いて驚きました。
こんなにも視界良好なのかと。
2階席の端のブロックではありましたが、2列目だったということが大きかったかも知れません。
いよいよ、開演を待つわけですが携帯電話を置いてきているので時間が分かりません。
しかし、他のお客さんの入り具合と場内アナウンスとで段々と自分の中の緊張感が高まっていくのが分かります。
「間もなく開演します。」というアナウンスと同時に静かに場内と反比例するように心臓がバクバクします。
自分でも不思議なのですが、観劇に限らずLIVEに行った時にも同様なことが起きます。
さあいよいよ、開演です…

開演


幕が上がった瞬間、というかこの作品は幕が上がるという表現が適用できるのかといった感じでした。

というのも、僕を含めたお客さんのほとんどが気づけていなかったような気がします。

赤いパーカーのフードを被り、リュックを背負って俯きながらステージに歩いていく人物。
そして、舞台に上がったんです。
※ここでようやく始まったと気づきました…

にしても、僕はこういう演出は大好きです。
その人物がセットを興味深そうに触ったりしていると、走って登場した金髪の少年。水たまりでこけました。
それを、スマホでパシャリ。
暗転。

正直、ここまでシェイクスピア作品にしてはかなり異質だと感じていました。
僕が2年前に観劇した「終わりよければすべてよし」は開演と同時に物語が始まったので。

ここまでは、第1幕というよりプロローグといった感じでしょうか。
少々、混乱はしましたが、ワクワクの方が勝っていました。

暗転後、ジョン王を演じる吉田鋼太郎さんが歌い、皇太后エリナーを演じる中村京蔵さんが舞ってました。

正直、驚きすぎてマスクの中でニヤニヤしてました。
生きてて吉田鋼太郎さんの歌を生で聴けるのかと。

歌が終わり、台詞が始まると度肝を抜かれました。
こんなにも鮮明に台詞が聞こえてくるのかと。
鋼太郎さんはやっぱり凄すぎると痛感させられました。

そして、小栗旬さんご登場です。
小栗さんが演じられた私生児フィリップはジョン王とは簡単に言えば
王様と家来の関係なので、鋼太郎さんがフランス王を演じられた東京公演よりも小栗さんとの場面は多くなるのでそこも今回僕が楽しみしていたポイントでした。

ここからは僕の印象に残っている場面をピックアップして書いていきたいと思います。

女性役を演じられた男性俳優の方たち


今回はオールメールといって女性役も含めて全ての役を男性が演じていました。
皇太后エリナーを演じられた中村京蔵さん
コンスタンスを演じられた玉置玲央さん
ブランジュを演じられた植本純米さん
御三方とも本当に女性らしさに溢れていて素晴らしかったです。

エリナーvsコンスタンス 女性たちの激しい舌戦


二人の女性の戦いは内容はさることながら、イングランドとフランスという国同士の争いに繋がっていくわけです。
この場面は、原作を読んでいるときから確実に盛り上がるだろうな感じながら読んでいました。この二人には共通点があってそれは母であるということ。
エリナーは自分の息子が一国の王であるという誇りと自信をまざまざと見せつけていたし、対するコンスタンスは幼い息子アーサーの将来の幸せのために一心不乱といった感じで、お互いの立場と想いが明確に分かるとても好きな場面でした。

イングランドvsフランス


イングランドとフランスの争い、いわば戦争がこの作品のベースの一つであることは間違いないと思います。
両国の王がアンジェの市民に対して呼びかける場面。
この場面が今回観劇したなかで最も印象に残っています。

理由は、私たち観客も少しだけ参加することが出来るからです。
と言っても、舞台に上がるわけではありません。
私たちがアンジェの一市民となって王の呼びかけを聞くわけです。

まずは、フランスから。
フランス王を演じられた櫻井章喜さんはとてもコミカルで結構笑いが起きていました。おどけているようでしたが、肝心の要求についてはピリッとした雰囲気で緩急がとても素晴らしかったです。

次は、イングランド。
吉田鋼太郎さんが圧巻でした。
迫力というか、熱量がもはや演劇の域を超えている感じがしました。
本当に場を掌握する力というか、王である意地とか、怒りとか。
全ての感情が真っ直ぐで観ている私の心を離してくれませんでしたね。

あと、鋼太郎さんは本当に自由で遊んでいるみたいに楽しそうにしていました。水たまりを蹴飛ばしたり、水たまりの水を這いつくばって口に含んでフランス王に浴びせたりしてました笑
(これは完全にアドリブだと思います…)
フランス王の「ジョン汚い!!!」という魂の叫び
笑っちゃいましたね。本当に最高でした。

この場面は戯曲だけ読むと笑いどころなんて一つもないかなりシリアスな場面であると感じていましたが、上記したように役者さんたちが実際に言葉を発して動きがつくことでこうも面白くなるのかと。
演劇というものの真髄をこの場面で観た気がします。

その日にしか生まれないもの。素晴らしい偶然の産物を目撃することが出来ること。
これが、僕が観劇が好きな理由の最たるものです。

私利私欲


これは、第一幕の一番の見せ場である私生児の独白のテーマですね。
この独白も本当に素晴らしかったです。
何てったて舞台には小栗さんたった一人しかいないわけで、これでもかというほど凄みを味わうことが出来るわけです。

私生児の内に秘めたる沸々とした思惑が私利私欲を擬人化することによって浮かび上がってくるわけです。
第二幕にも繋がっていく非常に重要な場面でした。

ジョンとアーサー


ジョン王とその甥アーサーこの二人の関係性は第一幕の終盤以降の作品全体の主題のようなものだと考えています。
この二人の関係性が作品に登場するほぼ全ての人物に影響を及ぼすからです。
簡単に説明すると、ジョンにとってアーサーは自分の王位を脅かす目障りな存在なのです…

段々と自己中心的で目に見えない何かに怯えているようで、不安そうで、先ほどの演説の場面のような勇ましさは無くなっていく。
そんなジョン王を分かりやすく演じられていました。

そして、ジョン王は腹心ヒューバートにこう告げます。
「分かっているな。死だ。」と…

母と息子


アーサーとその母コンスタンスは非常に強い愛情で結ばれているようでした。アーサーはジョン王に保護されコンスタンスと離れ離れになってしまいすが、真の意味を理解している母親はみるみるうちに堕ちていきます。
半狂乱になりながら演じられていた玉置玲央さんは本当に素晴らしかったです。

アーサーとヒューバート


戯曲を読んだ時に一番僕が心を動かされた場面です。
二人の対話。そして、その結末は本当に素晴らしかったです。
椅子を倒された状態でも台詞がはっきりと聞こえてきたアーサー役の酒井禅功くん。ヤバかったです。もう圧巻というか。目を背けたくなるような緊迫する場面なのですが、最後に来る緩和がグッときました。

上演台本・吉田鋼太郎が良すぎました。


今回、クレジットに上演台本・吉田鋼太郎とあって何だろうなと興味津々でしたが、良すぎました。
いかに、作品を分かりやすく伝えるか。鋼太郎さんの想いがひしひしと伝わってきました。
僕が一番感動したのは、一部の登場人物が方言を使っていたことです。
間宮啓行さんが演じられたアンジェの市民は関西弁を、ヒューバートは東北地方の方言を使っていました。
こうすることで、その人物がどういう立場にあるのか僕たち観客が想像する手助けになっていたように感じました。シェイクスピア作品特有の言葉の堅さを解消して、あくまで現代劇であるということを伝えているようでした。

そして、この作品のテーマである戦争を世界情勢と照らし合わせながら明確なメッセージとしてエピローグで表現されていたこと。
本当に凄いと思いました。

エピローグ


最後の台詞を私生児が言い終えた後セットの後方から戦車のような車が突っ込んできて、武装した男性が私生児に向けて銃口を向けたのです。
すると、私生児は来ていた鎧をゆっくりと脱ぎ始めました。
その時他の役者さんたちは並んでカーテンコールを行っていました。

また驚きました。正直、僕はこの手の演出があまり得意ではありません。
ビビりだからです。鎧を完全に脱いで冒頭の青年に戻った小栗さんは絶対に撃たれると思ったからです。
心臓バクバクで覚悟を決めていたら、撃たれませんでした…
ゆっくりと客席に降りていき退場していきました。
拍手が送られました。
最後に武装した男性も一礼。
拍手が送られました。


しっかりとメッセージは受け取りました。
鎧を脱いだ後、遠くに視線を向けていた青年は何を思っていたのか。
決して他人事ではない気がしました。
衝撃と感動でズシーンときました。

最後に


この作品をもって彩の国シェイクスピアシリーズは完結しました。
でも、鋼太郎さんも仰っていましたが、また始動させてほしいです。
これは、完全に僕のわがままですが、鋼太郎の演出で全作品観たいのです。
そして、「ジョン王」2020年上演版も観たいです。
二反田雅澄さんが演じられるヒューバートも横田栄司さんが演じられるジョン王も観たいです!

先ずは横田さんのご快復を心待ちにしています。
そして、彩の国シェイクスピアシリーズ第二章を目撃したいです!
本当に期待しています…

それと同時に2020年に予定通り上演されていたら自分は観劇できていなかったので、今回それが可能になったこと。つくづく一期一会だなと感じています。

本当に贅沢で忘れられない体験になりました。
出演者並びにスタッフの皆様本当にお疲れ様でした。
ありがとうございました。





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