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2020年の宇宙ベンチャーの資金調達について

こんばんは。長田大輝です。

宇宙ビジネスメディア(宙畑)でライターをしたり、宇宙ベンチャー(株式会社sorano me)で新規事業の支援をしたり、ビジネスコンテストの企画運営や創業支援をしています。

この記事は、れごんさん(@regonn_haizine)の宇宙関連 Advent Calendar 2020の12/16の記事となります。

様々なトピックの記事が展開されており、私自身も楽しく読ませて頂いています!

今回の記事では、国内外で加熱している宇宙ベンチャーの資金調達事情について書いてみたいと思います。


1:資金調達とは

#資金調達 #ファイナンス

まず、資金調達とは何を指すのでしょうか。

資金調達の定義は、文字通り、

”政府組織・民間企業・個人事業主が、
事業を展開する上で必要な資金を調達すること”

となっています。

資金調達の方法は大きく4つあります。

①:アセットファイナンス(Asset finance)

これは"Asset"という単語の通り、企業が既に持っている資産を現金化することで資金を獲得する方法です。具体的には、不動産の証券化や債券の流動化などがあります。

②:デットファイナンス(Debt finance)

これは、"Debt"という単語の通り、負債を増やすことで資金を獲得する方法です。具体的には、公的融資や銀行融資、社債などがあります。デットファイナンスのメリットとしては、融資先の選択肢が多いことがあげられます。しかしデメリットとして返済義務があることがあげられます。

③:エクイティファイナンス(Equity finance)

これは少し難しいですが、資本を増やすことで資金を獲得する方法です。資本を増やす方法としては、"Equity"という単語の通り、株式の発行を行い資本を増やします。株式といっても実は色々な種類があり、普通株式の他、様々な制限が付与される種類株式が存在します。一般的に、スタートアップやベンチャー企業が実施する資金調達は、このエクイティファイナンスが主流となります。エクイティファイナンスのメリットは、返済義務が生じないことです。デメリットは、場合によっては株式の希薄化による経営権への影響が出ることや、企業の配当政策に修正が求められることがあげられます。

エクイティファイナンスの中には、J-kiss(日本版KISS: Keep It Simple Security)と呼ばれる、主にシード期のスタートアップ向けの資金調達方法もあります。Coral Capital(旧500 Startups Japan)さんがひな形を無償公開した手法で、詳細な解説記事も公表されています。興味がある方は、こちらの記事を読んでみると面白いと思います!
J-KISS: 誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書
J-KISSによる調達で必要な手続書類セット「J-KISSパッケージ」

④:その他

これら以外にも資金調達の方法は存在しますが、今回は割愛します。
(メザニンファイナンスや助成金の活用、クラウドファンディングなど)

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宇宙ベンチャーの実施する資金調達の方法としては、③:エクイティファイナンスが主流となっています。したがって、本記事における資金調達はすべて、”エクイティファイナンス”を指すものとします。
※エクイティファイナンス以外の手法を記載する際は、資金調達という単語を用いずに記載します。

上記の資金調達の基本については、私が以下の本で勉強したものです。
私自身、大学などで経理や財務の学んだ経験は一切ないですが、そんな自分でもわかりやすく基本を理解できた本です。著名な起業家や投資家の方々が勧めている、スタートアップでのファイナンスを理解するバイブル本なので、皆さんももしご興味があれば是非。
起業のファイナンス-ベンチャーにとって一番大切なこと-

2:世界の宇宙ベンチャーの資金調達事情

#宇宙ベンチャー

※以下のデータはすべて、Bryce Space and Technology が発行したレポートの”Start-Up Space Report 2020”から引用しています。レポートは無料でこちらからダウンロードできます。

さて、国内外の宇宙ベンチャーは、どの程度の額の資金調達を実施しているのでしょうか?

Start-Up Space Report 2020によると、

2000年以降に宇宙ベンチャーに投入された資金の合計額は、約278億ドル(約2兆8700億円)

とのことです。凄まじい金額ですね。278億ドルの資金調達の内訳は、以下の通りです。

・ベンチャーキャピタルによる資金調達が約45.0%
・デットファイナンスによる資金調達が約18.3%
・エンジェル投資家による投資が約16.5%
・上場・合併・買収における資金獲得が約13.7%
・PE(Private equity)投資が約6.5%

また、2000年以降宇宙ベンチャーに投資された278億ドルのうち、60%以上が2014~2019年の5年間で投資されています。この数字からも、世界の宇宙ベンチャーが注目を集めていることがわかりますね。

そして、2019年の1年間で、57億ドル(約5800億円)という金額が、世界の宇宙ベンチャーに投資されています。

JAXAの年間予算が約1800億円なのを考えると、凄まじい金額ですね、、!
JAXA予算の推移

以下の円グラフが57億ドルの内訳です。ベンチャーキャピタルからの投資が、約7割と一番大きな割合を占めています。

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キャプション:2019年の1年間で世界の宇宙ベンチャーに投資された資金の内訳
Credit:Start-Up Space Report 2020

上記円グラフの”Seed”とは、シード期の宇宙ベンチャーへの投資を指しており、具体的にはエンジェル投資家の投資をさしています。

Seed投資は全体の23%なので、約13億ドル(約1400億円)です。少なくない金額なので、宇宙ベンチャーが好きなエンジェル投資家が世界には沢山いるものかな?と思いますが、実はこの13億ドルの88%は、たった二人の資産家によるものです(笑)

それは、

Blue Origin創業者のJeff Bezos氏
Virgin Galactic創業者のRichard Branson氏
※Blue Originは液体ロケットを開発するベンチャー企業。
※Virgin Galacticは民間宇宙旅行事業を展開するベンチャー企業。

の2名です。


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キャプション:2019年のSeed投資の内訳
Credit:Start-Up Space Report 2020

彼らは、いわば、自身の資産を自分が創業した企業につっこんでいるわけですね。やはり創業者が資産家の場合、ベンチャーキャピタルに頼らない資金調達が実施できるのは大きなアドバンテージですね。

さて、宇宙ベンチャーの資金調達については、色々な観点から考察ができます。昨年、宙畑で私が宇宙ベンチャーの資金調達について書いた記事がこちらです。実際にリサーチした数字も記載しているので、興味がある方は是非読んでもらえると嬉しいです!

3:2019年の宇宙ベンチャー資金調達における注目ポイント

私がStart-Up Space Report 2020を読んでいて、驚いた点が一つありました。それが、資金調達に成功した宇宙ベンチャーの国別比率です。

資金調達に成功した宇宙ベンチャーの数は、2018年までは、アメリカの宇宙ベンチャーの方が大きい割合を占めていました。しかし2019年になって初めて、資金調達に成功したアメリカ以外の宇宙ベンチャーの数が、資金調達に成功したアメリカの宇宙ベンチャーの数を上回ったのです!

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キャプション:資金調達に成功した宇宙ベンチャーの国別内訳
Credit:Start-Up Space Report 2020

具体的には、

【2018年】
資金調達に成功したアメリカの宇宙ベンチャー:53社
資金調達に成功したアメリカ以外の宇宙ベンチャー:47社
【2019年】
資金調達に成功したアメリカの宇宙ベンチャー:56社
資金調達に成功したアメリカ以外の宇宙ベンチャー:79社

という数字です。

これは非常に大きなポイントです。世界的に見てもベンチャー投資が盛んなアメリカが、宇宙ベンチャー界隈でも常にリードしてきました。先日野口聡一宇宙飛行士をISSまで運んだSpaceXのように、名の知れた宇宙ベンチャーはやはりアメリカの企業がまだまだ多いのです。

もちろん、"アメリカ以外(Non-US)"には日本も含まれています。どうしてもアメリカの宇宙ベンチャーが注目を集めることが多かった民間宇宙産業ですが、今後は欧州やアジアの宇宙ベンチャーがよりプレゼンスを発揮していくでしょう。

4:宇宙ベンチャーのIPO

さて、宇宙ベンチャーに限らずあらゆる業界のベンチャーの起業家が目指すゴールが、やはりIPO(新規株式公開)、つまり株式市場への上場でしょう。

そんなIPOですが、宇宙ベンチャーの中で、IPOを達成した(する予定)の企業が2社あります。

Virgin Galactic (2019年10月にニューヨーク証券取引所に上場)
Momentus (2021年初頭にNASDAQ上場予定)
※Momentusは、小型衛星の推進機器を開発している企業

の2社です。実は、2社とも一般的なIPOとは異なる方式を採用して上場を発表しています。

それが、SPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)を活用した上場です。以下、解説します。

SPAC(特別買収目的会社)と呼ばれる特定の事業を持たない企業が、一定期間内に未公開会社・事業を買収することを条件に株式市場に上場します。上場完了後、SPACが今後の成長が見込めるベンチャー企業を買収します。その後、SPACと買収されたベンチャー企業は合併します。SPACは元々事業を持たない企業なので、買収されたベンチャー企業の方が存続企業となり、上場企業となります。この一連の流れが、SPACを活用した上場プロセスです。

この方式は、資金調達が出来る上に、従来の新規株式公開(IPO)よりも簡素なプロセスで上場を果たせるため、近年この方式の株式市場への上場を採用するベンチャー企業が増加しています。

SPACによる上場は、

2018年:41件
2019年:58件
2020年:141件(2020年10月までの数字)
急増する「SPAC上場」 新たなバブルの可能性は? より引用

と、ベンチャー界で確実に注目を集めている上場の手段です。

AIやブロックチェーンやSaaSなど、他の業界のトレンドである手法が、宇宙ベンチャー界でも広がりつつあることは、本当の意味で民間宇宙産業が”ビジネス”として認められつつあることを意味していると、私は感じています。

詳細は、こちらの記事をご覧ください!

今後も、宇宙ベンチャーの上場はきっと増えてくることでしょう。宇宙ベンチャーの上場が増えることは、多くの方が宇宙ベンチャーに投資することが可能になることを意味し、民間宇宙産業の成長に大きく寄与するので、私自身今後も注目していきたいと思っています。

5:まとめ

今回は、宇宙産業の中で、技術的なトピックではなくビジネス(特にファイナンス)に焦点をあてた内容で記事を書いてみました。

宇宙ベンチャーは、その産業の特性上、創業初期にかかるイニシャルコストが大きく、デスバレー(死の谷)と呼ばれる大きな壁を超えるのが大変です。CF(キャッシュフロー)を獲得して起業を成長させることができるか、企業の資金が枯渇しキャッシュショートしてしまうかの瀬戸際で、宇宙ベンチャー起業家は死ぬ気で事業に取り組んでいます。本当に尊敬します。

今回取り上げたように、民間宇宙産業の今後のポテンシャルを見越して、多額の資金が宇宙ベンチャーに投下されています。これらの投資が、5年後10年後にキラリと輝く宇宙ベンチャーを支え、きっと民間宇宙産業の市場規模拡大に繋がると私は思います。

多産多死であるベンチャーの世界で、倒産する宇宙ベンチャーも今後は増加するでしょう。しかし、その競争の中で生き残る企業はさらに投資額を集め、全く新しい宇宙産業の在り方を彩っていくことが非常に楽しみです。

もちろん私自身、海外の宇宙ベンチャーで好きな企業も沢山ありますが、やはり、1000社を超える宇宙ベンチャーの中で日本の宇宙ベンチャーがプレゼンスを発揮していくと、宇宙ビジネスの一ファンとしては嬉しいなぁと思っています。

私自身、もっと色々な宇宙ベンチャーについてリサーチを重ね、質の高い記事を執筆していきたいなと思っています。

私自身、初めてのアドベントカレンダーの執筆でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございました!!
それでは!

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