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ISA Research Institute

ISA(所得分配契約)を活用した教育投資の新潮流

本ブログでは、世界で近年急速に普及しつつある所得分配契約(Income Share Agreement、略してISA)に基づく教育投資の基本的な考え方、日本ひいては東南アジア諸国、インドといった新興市場におけるISA活用の可能性、そして昨今のFintech注目領域であるBuy Now Pay Later(BNPL)の文脈で捉えたISAという金融イノベーションの社会的意義などを考察していきたいと思います。
さらに、Fintechを取り巻くファイナンス・会計関連の様々なトピックについても、CFOとしての視点や分析を交えて徒然なるままに綴っていきます。

ご質問やご相談等はこちらまで。

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Author: Dai Kadomae, CFA, CPA
Biography: LABOT. Inc. 取締役CFO。慶應義塾大学卒業後、米系財務コンサルティングファームに入社。クロスボーダーM&AやLBO(レバレッジドバイアウト)、カーブアウト・事業再生、ジョイントベンチャー等のトランザクションにおける財務アドバイザリー、仕組債や無形資産の価値評価、シンガポールにおける管理会計導入支援プロジェクト等に参画。リーマンショックを機に英Cambridge大学でMBA取得後、米系投資銀行にてM&Aや資本調達のアドバイザリーに従事。その後、大手メーカーの経営企画で主にASEANやインドにおける水処理・バイオガス発電等のインフラ開発(官民連携プロジェクト/BOT型案件)、プロジェクトファイナンス、現地企業のM&A・PMI(買収後統合)およびKPI管理やガバナンス構築、海外スタートアップへのシリーズB出資、グループ投融資規定の整備ならびにROIC指標の導入といったグループ経営管理体制の推進を主導。
オイシックス・ラ・大地ではCFOとして決算マネジメント、財務報告、適時開示、米国子会社キャッシュマネジメントシステム導入といったキャッシュフロー管理、監査対応、自社株買いを含む資本政策、海外投資家IR、M&A・PMI支援、グループ管理規定の整備などを実施。約20年にわたり国内外で培ったコーポレートファイナンスと会計の知見をベースに財務戦略の策定と実行を手がける。


ISA(所得分配契約)とは

ISAとは、簡単に言うと「受講生が望むキャリアの実現まで学費の負担が発生しない出世払い契約」を意味します(下図参照)。

ISAプロバイダー事業 サービス説明資料/提案資料 2022.2

つまり、日本で初めてISAを採用したプログラミングスクールである当社の場合、ISAを締結した生徒さんに対して初期コスト無料でプログラミング授業を提供し、その生徒さんが当社スクールを卒業後に就職・転職してから発生する将来給与の一定割合を一定期間にかけてお支払い頂く仕組みとなります。

生徒さんによっては、様々な経済的事情から授業料のお支払いが負担となるケースが多くあります。特に、プログラミング教育やその他の高度な知識・技能が要求される職業訓練においてはどうしても授業料が高くなってしまいますので、高額な教育コストを合理的にファイナンスできる仕組みがとても重要となります。この点で、ISAは従来型の「教育ローン」とは一線を画する「教育投資」の金融イノベーションのツールであり、優秀でやる気があってモチベーションが高い人々にフェアに教育の機会を提供できるというESG的な視点からも、単なる教育ビジネスの垣根を飛び越えた社会的意義を帯びるものと考えています。

日本においては、DX時代が到来する中でITエンジニアの供給が需要に全く追いついておらず、恒常的な人手不足の状況が続いています。このような現状を踏まえ、日本の生産性や国際競争力を高める観点からも現政権は国家戦略としてデジタル人材の輩出を掲げていますが、こうした高度職業人材供給サイドの問題である高い教育コストを社会全体として上手にファイナンスする仕組みの整備が必要と思います。ISAは従来型の教育ファイナンスの在り方に風穴を開ける可能性があり、将来的には学生だけが過大なローンを組まされて学費をファイナンスするのではなく、優秀な学生を採用する企業がこのコストを最終的に負担するのが理想的な状態と言えるのかもしれません。もちろん、国や自治体も様々な政策を通じて職業教育のコストを社会全体として合理的に配分できるようにバックアップして欲しいですし、オールジャパンで取り組むためのリーダーシップも必要です。

社会全体で教育コストをどのように分担し、ISAというコンセプトを軸にサステナブルな教育投資エコシステムを形成することができるでしょうか。ISAビジネスの健全な発展のためには、まずは業界全体としてISAガイドラインの整備が必要です。そして、ISAエコシステムの一部であるESG投資家や金融機関といったステークホルダーに対しても、リスクに応じた相応の社会的リターンが生み出される必要があり、それがまた再投資される好循環を目指していく必要があります。

次回からはISAを取り巻く諸外国の動きを中心に随時ご紹介しながら、私の考えも述べていきたいと思います。

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