電話会議で小津ごっこ
最近「TEAMS会議」や「ZOOM飲み会」を重ねていて、ふと面白い感覚にとりつかれる。あっ、いま小津映画の登場人物(※)になってる。
いま電話会議において、我々はPCに取り付けられたカメラを見るべきか、それともモニターに映る相手の目を見て話すべきか、 それが問題なのだ(笑)
PCカメラは、言わば話し相手がコチラを見つめる「相手の視線」である。だから相手の目に向かって、コチラの視線を届けようとすると、コチラはPC上部に設置された無機質なPCカメラを注視することになる。すると結果的に、PCモニターに映っている相手の映像からは若干目を離すことになるのだ。一方でモニター越しに映る映像の中の目を見て話そうとすれば、今度はやや俯き視線のコチラを相手に晒すことになる。
この状況、何かに似てはいないか? 小津映画だ! 以下の写真は「東京物語」から2人の会話、切り返しショット。
映画との類似に関しては後述するとして、話を「電話会議」に戻そう。
電話会議に埋没する、今のわれわれに与えられた選択肢は2つである。
【A. コチラが無機質なカメラを見ることで、相手に対して「コチラの目線」を届け、もしも相手がPCモニターを見ているならば、まっすぐ見ているコチラの目を感じてもらうことができる(のだが、この時、相手はモニターを見ているのだから、相手の視線はやや俯き気味にコチラのモニターに映し出されている)】
【B. 相手の表情をモニター越しに見つめることで、相手には「ずれた方向を見ているコチラ」を晒し、もし相手がモニターを見たならば……見なかったならば……(以下省略)】
面白いのは、どちらの選択をしたところで、お互いの「視線」はなかなか一直線上に合致しないことだ。虚像の視線を追いかけようとしながら、2つの視線は交互にズレている(笑)。実を言うと、わたしはAのままでいるのも落ち着かず、かと言ってBのままでいるのも落ち着かない。だからAとBを行ったり来たりしている。
※途中に載せた2枚の写真は小津映画「東京物語」の登場人物の連続した2つのショット。この2人は隣に並んで座っている。わかりやすい引きの絵ではみてみると、2人の視線はあっている。
それが以下の切り返しショットでは、視線が合わなくなる。視聴者は視線があらぬ方向に逸れていく印象を受ける。小津映画では、対面しているふたりの会話の切り返しショットがこれでもか! と多用されるが、切り替えされる視線は(視聴者がイメージできる)一直線上にない。座って話す笠智衆と東山千栄子の視線はお互いを見ている。この引きの絵からわかるのは、東山千栄子は笠智衆の顔を見るために、やや左側に視線を投げている。また東山千栄子の顔の位置は笠智衆より少しだけ高く、笠智衆をちょっと見下ろす感じになっている。ところが切り替えしショットになると、東山千栄子は顔の位置は合っているが、視線は(本人からみて)右斜め上へとそれてゆく。方向も違えば角度も違うのだ。視線の延長には誰もいないという非現実的なショットになっている。これは小津独特の演出で、敢えて視聴者のイマジナリーラインを超えた「交わらない視線」によって映画的イメージを創り出している。(みたいな話、学生時代に映画ゼミの講義冒頭で映像見ながら叩きこまれたような気がする)
この機会にまとめて観てみたい。その前にもう一度読み返してみたい。
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